第15話
俺は前に出る。
ここから舞台が始まる。
「ふむ、最後はライの番じゃが、ライは毎日のように後のゴーレムと戦っておる。周りの者は言うじゃろう。ずるいと。毎日戦ってずるいとな」
「いえ、問題ありませんよ」
プリズン先生の言葉より更に大きな言葉でじいが続けた。
「そこでじゃ! ライには同時に2体のゴーレムと戦ってもらうでの!!」
「分かったよ!」
そう、ヒーティアがゴーレム3体を倒したことで天才ヒーティア。
そして才能の無い俺の対比が完成する。
その上で3体には及ばないが2体と戦い苦戦する。
みんなが負けると思うだろう。
そこから逆転勝利する!
ここで勝っても「俺、じいの作ったゴーレムで訓練してたから慣れてるんだ!」で済ませる。
準備は前から進んでいた。
みんなは無茶な戦いだと思うだろう。
実際に試験を受けたみんなが声をあげる。
「2体は無理だろ!」
「ヒーティアやエムルじゃないんだ! 無理はしなくていい!」
「誰も責めたりしないわ! 無理しないで!」
最高だ。
みんないい言葉をかけてくれる。
「1体だけで大丈夫ですよ!」
プリズンの言葉をじいがかき消す。
「よく言った! ゴーレム2体と戦って勝つんじゃ! ライ!」
「才能が無くても努力すれば強くなれる事を証明する!」
おし、戦う前に言えた。
俺はゴブリンの教訓を生かす。
「その意気じゃ! 試験開始いいいいいいい!」
ゴーレム2体が足音を立てて迫ってくる。
両手剣を振りかぶって斬りつけるがゴーレムのパンチに押し戻される。
ズザアアアアア!
この斬りかかって後ろに吹き飛び地面に足を踏ん張る練習を何度もしてきた。
出来る事ならゴーレムのパンチで弾かれてズザアアアアア! ではなく、ズザザザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! と大きく吹き飛んで戦っている感を出したい所ではある。
だが最初から大きなゴーレムと戦って勝ってしまうともっと強い敵と戦わなければ逆転勝利の感動が無くなる。
最初は皆が頑張れば普通に勝てるよね? 的な相手と戦いじわじわと逆転勝利の階段を登っていく計画だ。
俺は何度も大声をあげて斬りかかってパンチに吹き飛ばされた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ズザアアアアア!
ズザアアアアア!
ズザアアアアア!
ズザアアアアア!
ズザアアアアア!
「1体のバランスを崩してももう1体がすかさず殴り掛かってくる! 1体を相手にするのと2体相手にするのは違うんだ!」
「無理だろ! 勝てっこない!」
「無理しないで! 今からでも1体だけと戦いましょう!」
俺は疲れた演技をしてうまく着地が出来ない演出を始めた。
膝がガクリと曲がり地面に倒れそうになる演技をした。
そしてハラハラさせるようにギリギリでゴーレムのパンチを剣で防ぐ。
斬りかかってパンチと打ち合い吹き飛んで足がもつれて地面を転がった。
そして迫ってくるゴーレムのパンチを土にまみれながらギリギリで交わす。
「まだだあ! 地べたに転がるのは慣れているんだあああああ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ゴーレムの右肩に剣を突き刺し素早く抜いた。
ゴーレムの右腕がだらんと垂れる。
ここで歓声が上がる。
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」
横から迫るゴーレムの攻撃を剣で凌いで肩を破壊したゴーレムの反対肩にも剣を突き刺した。
そして剣でラッシュを仕掛けてさらに演出する。
1体を倒せると思わせておいてもう1体の攻撃を横から受けるのだ。
ゴス!
「ぐぼおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ゴロゴロゴロゴロ!
「はあ、はあ、はあ、くう、俺の、右腕がああ!」
そう、俺の右腕がムーブだ。
両腕を破壊したゴーレムが俺に体当たりを仕掛けてきた。
それに合わせて左手だけで胸に剣を突き立てた。
「ああああ! 駄目だ! 威力が足りない!」
俺は強引に突き立てた剣を蹴って深く突き刺すとゴーレム1体が倒れた。
ちらっと横を見た。
「すげえ! 倒した!」
「1体倒しただけでも凄いわ! もう終わりでいいわよ」
「試験は終わりです! 制限時間は過ぎました!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
歓声が止むと俺は叫ぶ。
「まだだ!! まだ残り1体を倒していない!」
ざわざわざわざわ!
俺は肩で息をしている。(演技である)
右腕はだらんと垂れて動かない。(事にしている)
剣はゴーレムに深く突き刺さり抜けない。
残った武器はナイフだけだ。
ナイフだけでゴーレムに斬りかかる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
そして何度も吹き飛び地面を転がりそれでも立ち上がる。
観戦していたみんなが声をあげ始めた。
「もういい! もう充分だ!」
「あなたは十分合格しているわ!」
「ギブアップしましょう!」
「まだだ!!」
「どうしてそこまでするんだ!」
「はあ、はあ、俺には、これしかないから」
「え?」
「才能の無い俺は普通に頑張っても駄目なんだ。 普通じゃいられない。狂気が必要だ。無才が強くなるにはこの道を進むしかないんだ!! キリ!」
ここで俺の膝がガクンと折れる。
そしてタイミングよくゴーレムが俺を殴り飛ばした。
「ぐああああああああああああ!」
俺は懸命に立ち上がろうとしてまた膝をガクンとついた。
じいが身を乗り出す。
そして泣きながら言った。
「立つんじゃああああ! 立つんじゃあ! らああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいい!!!」
じいの見せ場が終わった。
俺はふらふらと立ち上がりゴーレムのパンチをナイフでいなした。
何度も放たれるゴーレムのパンチを半身で避けて、そして少しずつナイフで攻撃をボディに当てる回数を増やしていく。
周りをちらっと見ると俺の舞台に皆が引きこまれているのが分かった。
これだ、これだよ。
苦戦からの逆転劇。
これこそが最高の感動だ。
そしてかっこいい。
「鳥肌が立って来た。ライが攻撃を見切り始めた」
「そうね、あんなにふらふらなのに無駄な動きが無くなっているように見えるわ」
「ナイフがゴーレムを何度も捕え始めた。勝てるのか? 無理だと思っていた戦いに勝つのか!」
俺は何度も攻撃を当てて倒れたゴーレムに馬乗りになって左手に持ったナイフを何度も突き立てた。
「うあああああああああああああああああああああああ!」
余裕がない感じを出すために馬乗りになってナイフ突きの単純な動きを繰り返した。
そしてゴーレムが動かなくなるとナイフを突き立てたまま左手の拳を天に掲げた。
「はあ、はあ、はあ、はあ、じい、おれ、やったよ。勝った。かったん、だ」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」
俺の周りを歓声が包んだ。
だが、奴が来た。
エムルは上品なしぐさで満面の笑みを浮かべながら俺の元に歩いてきた。
エムル、やめろ。
何も言うなよ!
言うんじゃないぞ!
分かってるんだろうな!
「はあ、はあ、ライは凄いね。君のごっこ遊び」
俺は咄嗟に左手から電撃を放った。
「あがががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががが」
エムルが気絶すると俺は周囲の目に晒された。
まずい!
雷の魔法を使えるのは後にする予定だったのに!
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