第62話 かつての世界
ミナトさんは意味が分からないと顔をしかめる。
「逃げ込んだ……? どういうことだ」
「言葉通りさ。てめぇはいつの生まれだ?」
「……2023年の生まれだ。こちらへ飛ばされたのは2040年になる」
「だったらもう騒動はおき始めてただろ。そこから逃げてきた人類が降り立ったのがこの世界だ。ただ、時間の流れはぐちゃぐちゃだ。こっちの世界で千二百年くらい前に、向こうの世界の西暦2122年の奴らが逃げてきている」
「騒動ってルミナシリーズの騒動のことか?」
「違うな。ヒューマノイドの蜂起は一端だよ。もっとデカいのがその後に起こっている」
「デカいの!? デカいのってなんだ!」
ミナトさんがタカネさんに掴みかかる。
「正確にゃあーしもわかんねぇよ。こっちの世界にある記録を読んで初めて知ったってだけだ。そもそもあーしの生まれは平成だ。騒動そのものを知らねぇ」
「だ、だが――」
タカネさんがミナトさんの手を払う。
「知らねぇっつってんだろ。むしろてめぇの方が良く知ってるはずだ」
「そ、そうかも、しれないが……」
「もういいか? 昔話には別に興味ねぇんだ」
「……待ってくれ。一つだけ、教えてくれ。向こうの未来は……滅んだのか……?」
力なく問いかけるその言葉にタカネさんはほんの少しだけ優しい視線を飛ばす。
「……あーしが得た情報――こっちの世界に逃げてきた向こうの奴らの情報を統合するに、向こうの人類文明は西暦2122年に滅んでいる。それ以上はわからん。逃げてきた奴らの中に2122年以降を生きていた奴もいないそうだ」
ミナトさんが剣を取り落してしまい、力なく俯いてしまった。
どうも彼らの元いた世界は滅んでしまったらしい。
私たちは元々こちらの生まれなので共感しにくくはあるが、彼にとって辛いことなのであろう。
そこへ私はとあることを思い出す。
「あ、そう言えば、これも関係あるんですか?」
「スマホ!? なんでてめぇがスマホ持ってやがる!」
「え゛!? えっと、前タカネさんと会った遺跡で拾いました。他にもいっぱいあったんですけど、これだけは機能停止してなかったので」
「見せてみろ!」
「ちゃ、ちゃんと返して下さいよ?」
私はあれ以降、このスマホと呼ばれる板の操作方法がわかっておらず、この中に何があるのかわかっていない。
「中は見れたのか?」
「え? あ、はい。と言ってもまだ操作がうまくできないんですが」
そもそも文字が読めないのだ。
最初に起動したときには偶然音声読み上げで中の記録を聞くことができたが、それ以降はやり方がわからずお手上げ状態となっている。
だが、なぜだかタカネさんが私のこと見つめてくる。
「中が見れる……ねぇ」
「な、なんですか?」
「……いや」
やがてスマホと呼んでいたその板を私へ放って来た。
「おわっとと。これは一体何なんですか?」
「難しい質問だな。お前らの概念で該当するもんがあんまねぇな。強いて言うなら、自由に連絡が取り合えて、音声や映像の記録だの、戦闘支援だの、情報探査だのいろいろできる便利道具だ」
一息ついたところで、ニアさんが一歩前に出る。
「お話も良いですが、そろそろ先へ進みませんか? 今の目的は犯人確保にあったはずです。タカネさんもそれでよろしくて?」
「ああ。あーしはそいつらが使ってるっつー空間を行き来できるアイテムさえ確保できりゃそれでいい」
「では進みましょう」
遺跡内部を進んでいき、最奥部に近づいてきたであろうか。
通路には魔物――パバル数十頭が恣意的に配置されており、避けては通れないようになっている。
「恐らく、犯人が防衛のために配置したのだろう。君の痕跡を辿る力は本当のようだな」
「アルベルトさんは私を疑っていたのですか」
「何事も疑ってかかる方がうまく行くものさ。まずは掃除だ!」
パバルは冒険者になったばかりにメイリスさんと討伐を行っている。
この魔物は首の長い犬のような恰好をしており、数が多い点を除けばたいして強くはない。
魔法を使うまでもなく光剣のみで戦闘を行っていく。
ミナトさん、アルベルトさんも同様に剣で戦っており、ニアさんは魔法による支援に専念しているようだ。
唯一、タカネさんだけは興味なさ気に端の方に座って終わるのを待っている。
「ミュリナは魔法のみならず近接戦闘もかなりいけるんだな」
パバルを斬り伏せながら問いかけてくる。
「ええ。まあ、あちらで暇そうに座っている方はもっと強いですが」
「勇者タカネと戦ったことがあるのか?」
「最初は殺されかけたんですよ。死ぬかと思いました」
「さすがだな。普通は『殺されかける』じゃなくて『殺されてしまう』だと思うぞ。この前君が魔法を使うところも見たが、やはり君は異質だ」
「そうですか? アルベルトさんもだいぶお強く見えますが」
数十匹いたはずのパバルはあっという間に討伐されてしまい、途端に部屋が静かになる。
ミナトさんもだいぶ強いが、やはりアルベルトさんが圧倒的だ。
騎士団長の名は伊達ではないのであろう。
「申し訳ありません。あまりお役に立てませんでしたわ」
「そんなことないですよ。むしろアルベルトさんが強すぎるんです」
「騎士団長は頼りになりますわね」
「おいおい、美女二人がおだてても何も出ないぞ」
そんな風にふざけているのも束の間、通路を抜けた先が最奥部のようだ。
相手はすでにこちらの存在を察知しており、戦闘態勢で待ち構えている。
前回と同様、フードの男と大鎌の少女に加え、さらにその奥に仮面をつけた神父風の者がいる。
大鎌少女の表情から推察するに、後がないかのようだ。
「タカネさんは今回も戦ってくれないんですか?」
「てめぇらが全滅したら戦うよ。元勇者の力はむやみやたらと他人に見せるもんじゃねぇんだ。ただ、可能なら生け捕りが望ましいな」
「生け捕り?」
「ほら、見てみな」
何かと思って彼らを見ると、フード男と大鎌少女が赤い真球状のガラス玉のような物を手にしている。
「あれ、もしかしてっ!」
「ああ、レベルカが使った魔適合物と同じもんだろうな。あとで詳しく聞きてぇところだ」
アルベルトさんたちの方へ目配せする。
「どう戦いますか?」
「俺とミナトでフード男を相手する。ミュリナとニアはそちらの大鎌少女をお願いできるか?」
「わかりました。気を付けて下さい。彼らが手にしているのは魔適合物と呼ばれるものです。身体能力と魔法適性を大幅に向上させることができます」
「そんなものがあるのか?」
「はい。ただ、下手をすると魔物になってしまう諸刃の剣です。とてもお勧めできるような代物ではありません」
「……わかった。本気で臨むとしよう」
そう述べて、二人はフード男の方へ。
私たちは大鎌少女へと相対する。
少女は私のことをギロリと睨みつけながら、殺意をぶつけてくるのだった。
「はんっ! ここまで嗅ぎつけるとか、お前どんだけ化け物染みてんだ」
「素直に観念してくださいませんか? そうすれば命は必ず奪わないと約束します」
「やなこった。第一、あたしらの素性を知ればそんなこと言ってらんないよ」
「ですが――」
「うっせぇな! 御託並べる暇があったらその首差し出しな!」
少女が魔適合物を口に含んで丸のみにする。
「ダメっ!!!」
だが、体の変化はすぐに起きた。
少女が大鎌を体の一部へと取り込んでいき、人型の悪魔のような姿へと変わっていく。
羽が生えていて、空も飛べるのだろうか。
一方向こう側では、フード男が巨大な獣へと姿を変えているのだった。
「すごい、力がみなぎる」
少女が体の一部となった大鎌を振り下ろす。
それだけで壁がぱっくりと切断されてしまうのだった。
「なにっ、あの威力!?」
「これなら勝てるっ! まずは散々邪魔してくれた貴様からだっ!」
飛び掛かる少女との戦いの火ぶたが切って落とされるのだった。
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