第60話 痕跡の調査
ニアさんと連れ立って舞踏会場前にやってくる。
「少し待ってくださいね。【エクストラソナー】」
特殊探査魔法で調べたところ、すぐに痕跡を発見することができた。
それをたどって街の外へと歩んでいく。
「どこまで続いていそうでしょうか?」
「おそらく、この山の中腹あたりまでです」
現在位置はレイスエリアに一番近い山の麓あたりだ。
痕跡はこの中腹あたりにまで続いている。
「……もしかして、アレが関係しているのでしょうか」
「え? 何がですか?」
「初日に、アルベルト様と席を外したときがあったでしょう。あの際に話したのが、こちらの山の中腹で最近発見された遺跡のことだったんですの」
そういえば、遺跡がどうのと言っていた気がする。
「最近発見されたんですか?」
「ええ。旧時代の遺跡らしく、ここ最近各所で見つかっているんですの。すでに測量の終わっている地域でも発見されていて、酷い例ですと、畑のど真ん中や村の中央に遺跡が出現するなんてケースもあります」
「村の中央に??」
「なかったはずのものがいきなり現れる、ということですわね。歴史書を開いても例のないものですので、国の方で調査を進めておりましたの」
「それって、似てませんか?」
私がそう述べると、ニアさんが首を傾げる。
「何がですの?」
「暗殺者の挙動です。一日目も二日目も、彼らはなにもない空間から現れて、なにもない空間へと消えていっています」
「! たしかに。盲点でしたわ。彼らの挙動は遺跡の出現と挙動が似てますわね」
「行ってみましょう。何かわかるはずです」
痕跡を辿っていくと、その先は山の中腹にある遺跡の内部へと続いている。
ここに何かがあるのは間違いなさそうだ。
ただ――、その前にやっておくべきことがある。
杖を空間から取り出して、斜め後方へとそれを向けた。
「ミュリナさん、どうされたの?」
「誰ですか? 宿からずっとつけてますよね? 隠れていないで出てきて下さい」
そう述べると、茂みから顔を出したのはアルベルトさんとミナトさんであった。
「あなた方ですか。なんの用ですか?」
「すまない、二人で出かけるのを見て、ミナトがどうしても気になるというから」
「なっ! アル! 語弊を招く言い方をするな!」
「良いだろ別に。美女二人が街を歩いていたら、普通は声をかけたなるもんだ」
ニアさんが前へと出る。
「アルベルト様、けむに巻かないで下さい。本当の目的をおっしゃってくださいな」
「ふっ、さすがに誤魔化せんか。そうだな、包み隠さず言えば、君の監視だ」
彼の言葉にニアさんは眉一つ動かさない。
「実はもうニアの逮捕要請が出されていてな。例のミュリナと決闘を行った三人組からだ」
「セイロス様たちから?」
「ああ。ただ、証拠が薄かったから騎士団長権限で承諾を止めている。内々にお前へアプローチして真相を確かめようとしていたんだ。なのに、二人してコソコソ出掛けていくもんだから、気になって追いかけて来たんだ」
「そうですか。我々は昨日の暗殺者の行方を追っております。こちらの遺跡に何かしらの痕跡が残されている可能性が高いと睨んでおります」
「なぜそんなことが言い切れる? ここは既に調査済みの遺跡だぞ?」
「ミュリナさんの魔法であれば、それくらいわかりますわ」
ミナトさんが私への睨みを強めてくる。
おそらく、魔族のお前が通じているんだろうと疑っているに違いない。
ただ……、彼は私が魔族であることをアルベルトさんには話していないのだろうか。
もし話していれば、現段階で私はただではすまないはずだ。
それを黙っておく理由とは一体なんであろうか……?
「お前ら、俺の前で見つめ合うなよ。恋人かよ」
「そんなんじゃない!」「そんなんじゃありません!」
「あー、はいはい。ミナトとミュリナは仲がいいな。じゃ、中を探索するってことでいいのか」
「アルベルト様と共に事件を解決できれば、わたくしも晴れて疑いを晴らせますわ。是非お願い致します」
そんな感じで成り行きに四人で遺跡を探索することとなるのであった。
*
ニアさんとアルベルトさんを前に歩かせて、私とミナトさんと後ろの方でヒソヒソと話していく。
「やはり君が内通しているんだろう」
「違いますっ。私そんなことしてませんっ!」
「じゃあなぜ人族にまみれて、ましてや勇者学園に潜伏している?」
「潜伏じゃありません。私は普通に勇者一行を目指してるんですっ」
「魔族が?」
「そういうの偏見って言うんですよ」
「別にそう思われて構わない。疑われて当然の内容だ」
「なんでですか! 魔族がそういう夢を持つのはいけないことなんですか」
「それが今の人族の社会だ。君が夢を持つことは別に自由だし、人族がそれを受け入れない文化を持つことも俺はどうかと思っている。だが、だからとて他者を騙していい理由にはならない」
「だったらどうして――」
そこで少しだけ言い淀む。
「……なんだ?」
「――どうして、私のこと、他の人には言わないんですか? そうなれば、私はもう終わりです」
目を伏せながらそんなことを口走ってしまう。
今の生活が終わってしまうのは、この上なく悲しいことだ。
もちろんそんなことにはなって欲しくないけど、ミナトさん次第ではそうなりかねない。
「……君こそ、俺が適当なことを口走ったとは思わないのか?」
「推論ですけど、勇者には何か相手の本質を見抜く技能があるんじゃないですか? ならあなたに嘘をついたって意味がありません。それに、本当は嘘なんてつきたくないんです」
「なぜ?」
「みんないい人だからです。たしかに皆さん、貴族としていろいろな損得勘定を持っています。でも、根本的に悪である方は少ないと思っています。そんな人たちに、本当は嘘なんてつきたくないです」
「……ふっ。どうだかな」
「これは本心です! 私、できることなら種族とか関係なく他人とは仲良くしたいです」
「空想的だな」
「そんなことないですよ。現に私は――」
「ミナトさんとは随分と仲がよろしいんですのね」
会話の内容こそたぶん聞かれなかったが、ニアさんがいつもは見せないような笑顔でこちらに振り返ってくる。
目が笑ってないんですけど。
「えっ、あ、あの、えっと――」
「わたくしにはそんな風に接して下さらないのに」
「あ、あの、ニアさん?」
「知りませんわ」
なんて言いながら、彼女はツンとしてしまう。
毎度思うのだが、ニアさんはどこまで本気なのだろうか。
アルベルトさんも会話に混ざって来る。
「ニアのお気に入りなのか?」
「彼女だと申したでしょう? お気に入りではなく将来のお嫁さんです」
「だが、ミナトも彼氏枠で立候補したいらしいぜ?」
「アル! 勝手なことを言うな!」
「ミナトさん、他の方ならいざ知らず、ミュリナさんは絶対に渡しませんよ」
ニアさんが私の腕にぎっちりとくっついてくる。
「冗談かと思っていたんだが、意外と本気なんだな」
「当然ですよ。わたくしはミュリナさんに全賭けするつもりですので」
本当にどこまで本気なんだろうか……。
それに、本気と言えばミナトさんとアルベルトさんたちの方がよほどだ。
なにせ二人で…………けけけ、剣と剣のぶつけ合いをしているのだから。
再びあの時の妄想を思い描いてしまい、顔を赤らめる。
「あら、ミュリナさんったら、わたくしが傍に来るのを恥ずかしがってくれますの? 嬉しいですわ」
「あ、いや、えっと……」
違うけど、もうそういうことにしておいた方が良さそうだ。
「なんだ? もしかして二人はもうそういう関係なのか?」
「い、いえ、ちが――」
「ええ。同じベッドで長い長い夜を共に過ごした仲ですわ」
「ちょおお! ニアさん! 言い方っ!」
「ほほう、それはぜひとも聞いてみたいところだな」
前も思ったけど、やっぱアルベルトさんって変態だわ。
「そ、そんなことよりアルベルトさんとミナトさんのことを教えて下さいよ」
「俺らの事? 別に何もないぞ」
「ふ、普段はどんな感じなんですか?」
アルベルトさんたちが顔を見合わせる。
「暇さえあれば訓練だな」
「暇さえあれば!?」
ぶつけ合いを暇さえあればやってるの!?
「ああ。サボるとなまるからな」
「ス、ストイックなんですね」
「そりゃ騎士団長だからな。まあ同じ訓練ばかりだと飽きるから、たまに趣向を変えたりもするか」
「ど、どどど、どんなことをするんですか」
思わず手を握りしめてしまう。
「そうだな……。本番を想定した実践的訓練もしたりする。部下は相手にならんが、ミナト相手だとお互い本気になれるからな」
「ほ、本番っ!? え? ちょっと待って下さい、部下を相手にすることもあるんですか?!」
「ああ。もちろんあるぞ。けど、あいつらよえぇからなぁ。いっつもシゴいてやってるよ」
「シ、シゴいてるんですね」
この人、男なら誰でもいいんだ。
「ミュリナさん、一体どうしてそこまで驚かれておりますの? 手も震えておりますわよ?」
未だに私の腕に絡みついているニアさんから指摘を受ける。
そんな彼女に、私はコソコソ声でアルベルトさんとミナトさんの秘密を耳打ちする。
「ふぇ!? そ、そうなんですの!?」
コックリコックリと頷いて、この想いの共感者を増やしたいと思ってしまう。
だが、ニアさんはむしろ頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。
「ちょ、ちょっと待って下さる。たぶんそれ、違うと思いますわ」
「え?」
「アルベルトさん、先ほどは何の話をされておりましたの?」
「なんのって、訓練の話だが?」
「なんの訓練ですの?」
「もちろん騎士としての訓練だ。来たる魔族との戦いに備えて、戦闘訓練を行うのは騎士としての務めだ」
「……え?」
「え?」
……。
長いと思える沈黙が過ぎて、私は誰とも目を合わせられなくなってしまった。
そんな私の肩をニアさんが優しく捕まえてくる。
「ミュ~リ~ナ~さ~ん」
「あぅぅぅぅ」
「あなたってば、とんだ妄想やさんですのね」
「あ、ぅ、ち、ちがっ、これ、は、その――」
「ふふ、一体何を想像されておりましたの? 是非ともそれを言葉にしてくださる?」
「ひぅぅ」
「ああ、ミュリナさんってば、本当に可愛い方ですのね。食べちゃいたいくらい」
彼女はいつの間にか、背後から私にほとんど抱き着くような恰好となっており、耳元で囁かれることにより私はさらに高潮してしまった。
「ミュリナさんってば、とんだエロ娘さんだこと。毎回彼らのことをそんな目で見ておりましたの?」
私のプライバシーに配慮して、彼らに聞こえないよう小声で問いかけてきてはいるが、内容はオブラートに包まれていない。
「ち、ちちち、違いますよ」
「妄想の中のお二人はどうでした? わたくしも妄想して下さっているの?」
そんな風に言われるだけで自然と頭の中ではニアさんのあられもない姿を描いてしまう。
「もしかして、わたくしやクラスメイト達の妄想なんかも浮かべてたりして」
「あぅぅぅ……」
「んまっ、否定されないってことは、真実ですの!?」
これに無言を返したものだから、ニアさんはさらに意地悪な笑みを浮かべてきた。
「この身体は一体どこまでエッチなのかしらね」
「だ、だだだだだ、だって、し、仕方ないじゃないですか。も、妄想するだけなら、タ、タダですし」
「ミュリナさんって実は相当なむっつりスケベさんなんですのね。魔法の構築はイメージが重要と言いますけど、あなたはエロのイメージも相当お得意なようで」
「ち、ちち違いますよ。そ、そんなんじゃなくてぇ~」
「ふふ、いいですわ。今度そういうお店に連れて行って差し上げますの。妄想が現実になったら、あなたどんなふうになってしまうのかしらね。楽しみですわ」
「あ、あぅぅぅぅ」
「それか、わたくしと最後までしてしまってもよろしいですわね」
私が小さくなっていると、アルベルトさんがもういいかといった具合に声をかけてくる。
「おーい、二人でコソコソ話すのもいいが、そろそろ先へ進まないか」
「ええ。参りましょう。ねっ、ミュリナさん♪」
「は、はひぃぃ……」
なんて具合に、弱弱しい返事をすることしかできないのであった。
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