第27話 Sランククエスト

「エルナみてみて! じゃじゃーん!」


 障害物競走で歴代初のフラッグ獲得により、私はなんだかすごく綺麗なメダルを褒賞としてもらい受けた。

 それをエルナへと見せびらかす。


「それ、どうしたの?」


 いつものごとく寡黙な彼女であったが、メダルには興味があるようだ。

 普段よりも目を輝かせている気がする。


「今日ね、体力測定があって、それで一番を取ったらもらえたの!」

「へぇ。きれぇ。おめでとう、ミュリナ」


 無表情を貫くエルナが若干笑っている。

 これは相当ポイントが高かったに違いない。

 見たそうにしていたので、彼女にメダルを手渡す。


「これ、周りはクリスタル? 真ん中はなんだろう? 赤く光る宝石かな。自発光してるみたいだね」

「なんでも、大昔の勇者様が身に着けていたブローチをメダルにしたそうよ」

「そうなんだ」


 よほど気に入ったのであろう、エルナがずっとそのメダルを見つめていたため、


「それ、エルナにあげるわ」


 と述べるのだった。


「え、でもこれミュリナが表彰されたものでしょ?」

「うん。でも、メダルが欲しくて頑張ったわけじゃないから」

「そんな、悪いよ」

「いいの。私の稼ぎだとエルナに私物をほとんど買ってあげられないからさ」

「……。そっか。ありがとう」


 そう言って小さくはにかむのだった。

 やっぱり、相当気に入っているみたいだ。

 彼女の笑顔が見れただけでも、頑張った甲斐があるというもの。


「よし、そしたら行ってくるね」

「またお仕事?」

「うん。頑張って稼がないとっ!」

「ごめんね。あたしのために……」

「二人のためよ」

「でも、あたしばっかり恩を受けてる」

「そんなことないって。家事は全部やってもらっているわけだし」

「そうだけど……」

「そしたら、いつか返して? エルナもメキメキ成長しているわけだし」


 エルガさんに私が教えてもらったように、私は時間をつくって彼女に魔法や体術、勉学を教えている。


「うん。絶対返す」

「ふふ。楽しみにしてるよ」


 そう述べて、私は急ぎ足でギルドの方へと向かっていくのだった。

 現在私は、私とエルナの二人分の家計を支える必要があり、学園生活と並行してお金稼ぎもしなければならない。


 いつものようにギルドへやってくると、受付嬢さんが挨拶してきた。


「あ、こんにちは、ミュリナさん。今日もお仕事ですか?」

「は、はい。また討伐系の依頼をこなしたいのですが」

「それでしたら、ちょうどいいのを取っておきましたよ。グラッセルの討伐などいかがでしょうか? ミストカーナから少し東へ行ったところにピクスという村があって、そこに出没して村民が困っております」


 見せられた報酬は非常に高額で背筋を伸ばしてしまう。


「……ずいぶん報酬が高額なんですね」

「ええ。実はこの依頼は三回目でして、すでに別の冒険者パーティが二回挑戦し、失敗しています」

「失敗、ですか」

「正確には全滅です。討伐に行ったはずのパーティは帰ってこなくて、遺体も見つかっていません。そこで、この依頼には何かあるだとうと踏んでいます。その点、ミュリナさんはランクの割に実力が高いこともわかってますので大丈夫かと」

「わかりました。ただ、グラッセルってCランクの冒険者でなければ依頼を受けられないんじゃなかったでしたっけ?」


 ちなみに、私のランクはDにまで上がっている。


「今回はパートナーの方と一緒という条件でしたら問題ありませんよ。もう一人の方はランクがCで、その方も一人ではちょっと、と思っておりました。ですので、ギルド側からパートナーを組めばという条件を提示させていただいております」

「パートナー……ですか……」


 正直なところ、私は魔物を相手にするよりも人間を相手にする方がよっぽど苦手だ。

 けど――。


 自分の財布の中を覗いてみる。

 背に腹は代えられない。

 少々大変なことでも、やっていかなければ学園生活が送れないのだ。


「安心してください。その方は裕福であるというのに、お金目的ではなく困っている人を助けるために冒険者をやっています。とても心優しい方だと思いますよ」


 受付嬢さんもこう言っていることだし、問題ないであろう。


「わ、分かりました! 受けます!」

「ありがとうございます。それでは、さっそくピクスの村に向かって下さい。パートナーの方はすでに向かっているはずです」

「わかりました」




 街を出て加速魔法で一気に村へと移動して行くと、ピクスの村にはすぐに到着することができた。

 村の人に事情を話すとすぐに村長の元へと連れて行かれる。


「おお! よくぞ来て下さいました。もう一人の方も来ておられますよ。ささ、こちらに」


 そう言われて扉を開けると――、


 そこにはなんと、グレドさんが立っていた。


「へ?」

「あ゛?」


 一瞬頭が真っ白になってしまい、すぐに恐怖が湧き上がった。


「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!」

「なんでてめぇがここにいる!?」

「ひぃぃぃ、や、やめて下さい! い、痛いことはしないで下さいぃ~」


 頭をガードしながら涙目となる。


「する分けねぇだろてめぇ! おめぇの中で俺はどんなキャラになってんだ!」

「あぅぅぅぅ、だ、だって、グレドさんってどちらかと言わなくともいじめっ子キャラじゃないですかぁ」

「勝手に俺のキャラを決めんなや!」

「で、でもでもぉ」


 二人して言い合っていると、村長さんが間に入ってくれる。


「一体どうされたのですかな? お二人は何やら因縁のようなものがあるのですか?」

「因縁というか、なんというか……」

「どうしましょうか? もし都合が悪いようでしたら、それが理由で討伐が失敗してしまうというのも困ります。依頼はキャンセルされますかな?」

「え」


 キャンセル?

 それはこちらとしても困る。

 お金がないと生活できない。


「辞めるわけねぇだろ。おいちっこいの、なんもしなくてもいいからとりあえずついて来い! じゃねぇと依頼ができねぇんだよ」

「ち、ちっこくありませんっ! 言われなくとも、私だって依頼はちゃんとやります!」


「そ、そうですか。で、では、森へと向かっていただけますでしょうか。グラッセルの目撃情報は森に集中しておりますので」

「前の冒険者に関してなんか情報はあんのか?」


 グレドさんが質問していく。


「同じように森へ行くよう伝えたのですが、帰ってきませんでした。村人が近づける範囲で極力捜索は行ったのですが、死体も出て来ておらず……」


 それを聞いて、グレドさんはもうこれ以上の情報は必要ないとばかりに扉の方へ行ってしまう。


「ふん。おい、行くぞ、ちっこいの!」

「ち、ちっこくないですっ!」


 こうして、私にとってはランクSのクエストが始まるのだった。

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