第16話 売られた喧嘩
トボトボと試験会場に帰って来て、会場を眺める。
第二次試験の迷宮から戻ってきている者はまだ数名しかおらず、メイリスさんもまだのようだ。
端っこの方で小さくなって、先ほどのことを思案し続ける。
自分はどうすればよかったのだろうか。
全然思ったようにやれなかった。
はぁ……やっぱりエルガさんはすごい人だったんだなぁ……。
そんなことをウジウジと考えていたら、いきなり受験生の一人が私に話しかけてきた。
「おい、そこのお前」
「……ひゃい? な、なんでしょうか?」
まさか話しかけられるとは思っていなかったため、小さな悲鳴を上げてしまう。
「お前どこの出身だ? 家の名前は?」
「え゛?」
な、なんでそんなことを答えなければならないのだろうか。
「え、えっと、な、名前はミュリナ・ミハルド、です」
「ミハルド? 聞いたことねぇな。で? 出身は?」
「あぅ」
私は人族の地名をあまり知らない。
下手な回答をすると魔族であることがバレてしまう。
「ななな、なんで答えなければいけないのでしょうか?」
小声で問い返す。
「俺様が聞いてんだから黙って答えろや!」
「ひぃぃぃ!! だだだ、黙っていては、ここここ、答え、られま、せん」
「あんだとぉ!!」
「やめなさい!!」
掴まれそうになったところで、救いの声が響く。
「メ、メイリスさん……っ!」
ちょうど攻略を終えて来た彼女の元へと駆け寄り、その影に隠れる。
「てめぇは……メイリスか。はんっ! なんだ、あのド田舎のリベルティア領のやろうかよ」
「グレド。ミュリナを虐めないで」
名前同士で呼び合っている。
ってことは顔見知りなのだろうか。
「てめぇのペットかよ。ちゃんと躾けておけ。俺の事すら知らなかったぞ」
「ミュリナはペットじゃないわ! 友達よ!」
メイリスさんがグレドさんを睨みつける。
「友達だと……? そいつ平民だろ。てめぇ平民の友達がいんのかよ? 平民なんて家畜以下だって昔言ってただろうが」
「……ぇ?」
メイリスさんが……言ってた?
でもそんなのおかしい。
彼女はすごく優しくて、少なくとも私が見た限り、リベルティア領では人々に慕われていた。
「はんっ。なるほどな。おいミュリナ・ミハルド、良く聞きな。こいつは――」
「やめて!」
「……おいおい、隠すことかよ、いずれバレんだろ。家畜はどうせクズばっかりだ。魔族にも魔物にも俺たち貴族がいなけりゃ立ち向かわねぇ。なのに文句だけはいっちょ前に言ってくる」
「そ、それは――」
何か思い当たる節でもあったのだろうか。
メイリスさんが顔をしかめている。
「なのにてめぇらのことを、やれ守れ、やれ税を少なくしろ、しまいにゃ犯罪まで犯して減刑しろとか言ってくる。そんなんばっかりだろうが? 黙って飯だけ食ってる家畜の方がマシだわ」
メイリスさんの握りしめる拳に爪が食い込んでいくのを見てしまったからであろう。
彼女の影に隠れながら、それでも口が勝手に動いてしまった。
「それ、違います」
「あん? あんだとてめぇ」
「わ、私は確かに、き、貴族じゃありませんが、ま、魔物になんて、負けたりは、しません」
「ほぉ」
グレドさんが剣の柄に手をかけていく。
「んじゃあここで試してみるか」
「やめな――」
「こらー! 何をしているー!」
騒ぎを聞きつけた教師がこちらへと走り寄って来た。
第一次試験と同様、この建物内における戦闘行為は禁止されているし、そもそも第二次試験では受験生同士での戦闘が許可されていない。
そのため、私たちは教師から軽いお説教を受けることとなった。
グレドさんからずっと睨まれ続けながら。
*
第二次試験が終わりを迎え、残ったメンバーは二百名ほどであろうか。
「勇者学園は毎年だいたい百名ほどを入学させているわ。第三次試験ではこの中の半分に残れれば合格ね」
「そうなんですね。私そういった情報にはだいぶ疎くて……」
というか入学試験の日程もだいぶ怪しかった。
メイリスさんと同行していなかったら、ミストカーナについたころには試験が終わっていたかもしれない。
「しかし、ちょっとミュリナのことを見直したわ」
「え? えっと、何がでしょうか」
「まさかグレドに反論するなんて思ってなかったもの。あなたいっつも他人にびくびくしてるのに、意外と度胸あるのね」
「うぅぅ、そ、それは、その、何というか。か、体が勝手に動いたっていうか……」
「そんなに
そう言って、私の肩を抱いてい来る。
「すごいことよっ! 強きに立ち向かうのは誰でもできることじゃないのわ。勇者に一番必要な要素ねっ」
そう言ってもらえると悪い気はしない。
「あれ、ちょっと待って下さい、グレドさんってそんなに強いんですか?」
「当たり前でしょう。彼、『殲滅のグレド』って呼ばれているの。間違いなく勇者一行の候補って言われているわ」
そんな会話をしていたら、試験官が台座に上がって第三次試験の説明を開始する。
「さあ、それではっ! いよいよ最終試験となります。最終試験の内容は――」
掲示板が掲げられていく。
「決闘! です!」
その対戦表を見た瞬間、私は背筋が凍ってしまった。
ちょっと待って、これって――。
「対戦相手と一対一の戦闘をしていただき、その戦闘様相の評価結果より合否を判定いたします。今回も例にもれず死んでしまう可能性がありますので、試験を辞退される方は職員に申し出いただきますよう、よろしくお願いします」
私の対戦相手……。
グレドさんの視線がちょうどこちらに向いて邪悪に笑って来た。
まるで、さっきの決着をこの決闘でつけようと言わんばかりに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます