第13話 第二次試験
勇者学園地下八階のミストカーナ中央管制室において、学園長のベルメイア・アザゼスは椅子にゆったりと座りながら試験の状況を見分していた。
「どうですかな、今年の受験生は」
「いろんな意味で粒ぞろいですよ、学園長。戦闘に特化したものから計略に特化したものまで様々ですね」
「しかし、いつ見てもこのシステムは圧巻ですな」
ここ中央管制室にはミストカーナの街全体の状況を把握できるシステム『鷹の目』が存在する。
部屋の中央にはミストカーナを縮小した街の模型が魔法により構築されており、受験番号札を持った者の位置がドットで示されているのであった。
これにより誰が誰の札を奪っているかが逐一把握できるのである。
札は持ち主の生命と紐づけがなされており、元の持ち主が死亡してしまうとドットは消光するのだ。
また、一次試験の失格行為である「相手を死傷させる」の違反行為があったかを判別できる。
「ええ。創るのに苦労しましたからね。ですが、受験番号札を持っている限り絶対に場所を偽ることはできません――。っておっと、これは……」
「む? どうかされましたかな?」
「いえ、ドットが二つ同時に消えました。たぶんですが、奪い合いの末に相打ちとなったのでしょう」
そのまま学園長と話していた男は通信魔法で係員と連絡を取り合う。
「場所は北区の五ブロックの二-二だ。……ああ、死体の処理を頼む」
「ふむ。未来ある若者の死は残念ではありますが仕方ないですな。魔族との戦いは苛烈極まりない。この程度のことでへこたれるようでは、勇者一行にはなれませんからね」
「ですね。一次試験ではおおよそ二千人の受験者が三割ほどになるはずです」
「定員は百名以下です。ですが、凡夫を百名集めても仕方がありません。実力者が百名以下になるよう選抜してください」
「おそらくそこは問題ないです。今年は粒ぞろいですので、一次試験で六百人にまで絞って、二次試験で二百名程度、三次試験で百名以下に絞ればよいと思っています。――っと失礼、通信魔法が来ました。……ああ、俺だ。……ん? ない!? ないってどういうことだ?! ……わかった。しばらく周囲を探索して見てくれ」
「どうされましたかな?」
「先ほど相打ちになったはずの二人の死体がなかったのです。少し過去にさかのぼります」
監視システム『鷹の目』はドットの動きを過去にさかのぼって追跡することができる。
「この987番と302番のドット、別の場所ですでに接触していますね。そこで987番が302番の札を奪っている。そして移動した末に両者を同時に消失。どういうことだ……」
「302番が札を奪い返しに来て相打ち、……とは考え難いですな」
「ええ。それでしたら死体が残るはずです」
「……例えば、987番が奪った札とともに隠蔽魔法で姿をくらましたとかはいかがですかな?」
「あり得ません。鷹の目のシステムは絶対です。魔的因子を持つ札を完全隠蔽することなど不可能です」
「ふむ……。では一次試験の結果を待つしかないですな。もし987番が二次試験にも顔を出しているようでしたら、注意深く観察する必要がありそうですな」
*
第一次試験の終了前の時間に私は会場へと【アクセルバースト】の魔法で突貫し、事なきを得る。
未だ他人の札をゲットできていない者が、この建物の前で待ち伏せすることは私でも予想することができた。
なので、とにかく素早さで突っ切るという方策をとることにしたのである。
建物の中で戦闘行為や盗みは違法行為となるので、ここでズルをする者はいないであろう。
「あっ! メイリスさーん」
見知った顔を見つけて、手を振りながら駆け寄る。
「ミュリナ、よかった、ちゃんとクリアしたようね」
「はい。運よく向こうから来てくれたので、札をゲットできました。メイリスさんは?」
「当然、手に入れたに決まってるでしょう? この会場に来た時から、雰囲気で誰が強そうで誰が弱そうかはわかっていたわ。その中から適当に顔を覚えていたやつを脅して札を頂いたの」
会場に入ってから短い時間にそこまでの仕込みを……。
やっぱりメイリスさんはすごいんだなぁ。
正午の鐘が鳴って建物の門が閉じていき、第一次試験が終りとなる。
残った受験者はざっと六百名弱といったところだろうか。
最初と比べるとずいぶん減った印象だ。
試験官と思しき人物が台座の上に登って説明を開始する。
「皆さん、一次試験はこれにて終了となります。それでは続けて、二次試験に移行します」
「あれ……、札の確認ってしなくていいのかな……?」
「監視システムがあるに決まっているでしょう。じゃなきゃ運営側が不正を見抜けないじゃない。私も確認なんてされてないけど、たぶん自分と他人の札を所持しているかをなんらかのシステムで見られているはずよ」
「そ、そうなんですね……」
気付かなかった……。
たしかに、そうじゃないと誰がどこで不正をしたかわからないのか。
なんて思っていたら、なぜか職員が私の元へとやってきた。
「君、持っている札を確認させてもらってもいいかね?」
「え゛!? あ、は、はい」
自分の札となる987と鞭使いのお姉さんから奪った302番の札を見せる。
「ふむ……。確かに。ところで、札を奪った後はどのように隠れていたかな?」
「えええっと、ふふふふ普通に隠蔽魔法で、か、隠れて、いました」
「隠蔽魔法だとっ!? ……いや、そうか。失礼した」
そう述べて、職員はいそいそとどこかへ行ってしまうのだった。
「ちょっとミュリナ、あんたなんかしたの?」
「べ、別に特別変なことはしてませんが……」
一体何なのだろうか。
たしかにちょっと効果強めの隠蔽魔法で隠れていたが、隠蔽魔法は自体は使用を禁止されていないはず。
モヤモヤする想いを抱いてしまうも、今は二次試験の説明に集中しなければならない。
「第二次試験の内容は、『探検』! ここミストカーナの街には地下に大迷宮が存在しております。まずは街を探索してその入り口を探してください。迷宮内部には様々なトラップや危険が潜んでおります。最奥部の宝物殿にある盃に触れて、三日後の正午の鐘が鳴り終わるまでにこの建物に来れば合格となります」
探検か。
私はエルガさんと共に迷宮探検を三度もこなしたことがあり、どちらかと言えば得意な方だと思っている。
一次試験と違って、二次試験はどうやら当たりのようだ。
「なお、地下迷宮への入り口は複数存在しますが、一人通ると入り口が塞がる仕様となっております」
「グループでの攻略はできないってことね」
メイリスさんが解説してくれる。
「また、迷宮内部での戦闘行為は許可しますが、受験生同士での戦闘は許可しません。ルール違反者はすぐさま失格となりますのでご注意ください」
「……? 受験者同士で戦わないのに、どうして戦うことが許可されているんでしょうか?」
「内部に敵が配置されてるってことよ。魔物なのか人なのかはわからないけど、なんにしても警戒は怠れないわね」
なるほど、そういうことか。
「最後に、第二次試験は第一次試験と同様、場合によっては受験者が死亡してしまう可能性があります。辞退される方は教員にその旨を告げて、今すぐこの会場を出られるよう、お願いします」
こんな脅し文句まで言われてしまうが、ここまで来て引き下がる者などいないであろう。
「それではみなさん、試験を始めて下さい」
ある者は急ぎ足で建物を出て行き、ある者は思考を重ねている。
今回は全員が全員入り口に殺到するわけではないようだ。
「ミュリナ、じゃあ一旦お別れね。次の三次試験で会えることを祈っているわ」
「はいっ!」
*
さて、入り口を探そう。
と言っても、これは魔法を使えば簡単にわかる。
迷宮のある場所が地下だとわかっているので、地上部分からそこにつながる場所を探査魔法によって探せばいいだけだ。
街の中心部近くに来て探査魔法を展開する。
「【ワイドソナー】」
見つけた。
てかいっぱいある。
いや、受験者は六百名近くいるのだ。
これくらい入り口がないと、そもそも迷宮に入場できない者も出てきてしまう。
一番近くの入り口へとやって来る。
広めの公園に銅像が置かれていて、ちょうどその銅像が入り口になっているようだ。
どうやって地下へ行くのかと銅像を調べていたら、銅像内部に人が一人分だけ入れる隙間があったので、そこへと入り込む。
すると銅像が塞がってストンと地下に落ちていくのだった。
おそらく受験番号札に反応して入れる仕組みであろう。
さもなくば一般人が迷宮に迷い込んでしまうことになる。
「よしっ! 探索がんばるぞっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます