第59話 グレイソン様もですか
「ルージュ、殿下と何か話していた様だけれど、大丈夫かい?あれ?それは…」
私の元にやって来たのは、グレイソン様だ。
「殿下がお誕生日プレゼントにと、時計をくださって。わざわざ気を使って下さった様ですわ」
「素敵な時計だね。随分と手が込んでいる。それにこの宝石は、ルージュと殿下の瞳を意識して作られているのだね。まるで恋人に送る様な時計だ…」
さすがのグレイソン様も、気が付いたのだろう。我が国ではパートナーに自分の瞳の色の宝石をプレゼントする習慣があるのだ。
グレイソン様の言葉に、さすがに何も言い返せない。この時計、どうしたらいいのかしら?さすがに付ける訳にはいかないし…
「やっぱり殿下も、ルージュの事が好きだったのだね…昔王宮主催のお茶会に参加した時から、なんだかそんな気がしていたのだよ…」
ブツブツとグレイソン様が呟いている。
「グレイソン様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。ねえ、ルージュは…いいや、何でもないよ。皆の元に戻ろうか」
「ええ、そうですわね。そうしましょう」
その後は時間が許す限り、皆と一緒に過ごした。1度目の生の時も、こうやって親友たちと過ごしたけれど、あの時とは随分と状況が違う。まさか殿下に、気持ちを伝えられるだなんて…
もちろん私は、殿下と婚約する事なんて出来ない。もう二度と私は、あんな辛い思いをしたくないし、何よりも殿下を信用する事なんて出来ないのだ。
「ルージュ、どうしたの?そんなに真剣な顔をして。何かあった?」
私の異変に気が付いたミシェルが、話しかけてきたのだ。さすがミシェル、ちょっとした変化も気が付いてくれる。
「何でもないわ。こんな風に皆と一緒にいられて、幸せだなって思っただけよ」
そう言って笑顔を作った。
滞りなく夜会は進み、ついにお開きの時間になった。今日来てくれた貴族たちを、両親とグレイソン様と一緒に見送った。こうやって家族で見送れるのも、幸せな事よね。
「ルージュ、初めての夜会で疲れたでしょう。今日はゆっくり休みなさい」
「ええ、そうさせていただきますわ。それでは私はこれで」
全ての貴族を見送った後、私もホールから出ていく。
「待って、ルージュ。疲れているところ悪いのだけれど、少しだけいいかな?」
話しかけてきたのは、グレイソン様だ。
「ええ、もちろんですわ」
「よかった、ちょっと中庭で話をしよう」
私の手をスッと握ると、2人で中庭へとやって来た。ホールと繋がっている中庭は、今日の為にライトアップされていてとても綺麗だ。
「夜の中庭もとても素敵ですわね。ライトに照らされた花々が、また神秘的ですわ」
「そうだね、とても綺麗だね。さあ、ここに座って」
グレイソン様に促されて、ベンチに2人で腰を下ろす。
「見て下さい、グレイソン様。星がとても綺麗ですわ」
「本当だね。僕はね、この家に来る前は、よく星を眺めていたのだよ。人が亡くなると、星になるという話を聞いたことがあって。星を見ると、亡くなった両親が空から見守ってくれている様な気がして…」
「そうだったのですね。もしかしたら今も、ご両親が空から見守ってくれているかもしれませんね」
「あの頃の僕は、生きることを諦め、早く両親の元にいきたいと思っていた。生きる事が辛くて、早く楽になりたいと…そんな中、義父上に連れられこの家に来た。そこで出会ったのが、ルージュだ。ルージュに出会ってから、僕は本当に幸せだった。人としての感情も取り戻し、沢山の友人たちも出来た。覚えているかい?ルージュが“僕の笑顔が好きだ”と言ってくれた事」
「ええ、覚えておりますわ。あの日から少しずつ、グレイソン様の表情が豊かになって行ったのですよね」
「ルージュ、君の言葉は、昔両親がいつも僕に言ってくれていた言葉だったんだよ。まさかまた、僕の笑顔が好きだと言ってくれる人が現れるだなんて…あの日から僕は、ルージュの事が好きになった。そして今度は、僕がルージュを守りたいと思ったんだ。ルージュと一緒に、この公爵家を支えて行きたいとも…」
えっ?それはどういう意味なのだろう?混乱する私に、さらにグレイソン様が言葉を続ける。
「ルージュ、僕は君の事を1人の女性として愛している。僕は君と結婚して、この公爵家を2人で守っていきたいと考えているんだ。ただ、君の気持ちも大切にしたい。ルージュは僕の事を、家族としか見ていない事も知っているよ。ただ、殿下が動き出したから、僕も気が気ではなくて。急にこんな話をしてしまってごめんね。でも、どうかこれからは僕の事を男として見て欲しい。もちろん、今すぐ返事はしなくていいよ。今聞いたら、きっと断られそうだからね」
どうしよう、どう答えたらいいだろう。
「ルージュ、君を混乱させてごめんね。でも少しでも僕を男として意識して欲しくて…それからこれ、お誕生日プレゼント」
グレイソン様が、小さな箱を渡してくれたのだ。
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