第57話 デビュータントの日を迎えました
ヴァイオレット様たちが停学処分になってから、2ヶ月が過ぎた。今日は私のお誕生日兼、デビュータントの日だ。今日の為に、私の瞳の色をイメージしたオレンジ色のドレスを準備した。
1度目の生の時は、殿下の婚約者だったこともあり、王宮でデビュータントを迎えた。一応殿下にエスコートしてもらったけれど、すぐにどこかに行ってしまったのよね。あの時は既に、ヴァイオレット様に夢中だったもの。
私にとってデビュータントは、悲しい思い出だ。でも、今回の生では目いっぱい楽しみたい。そう思い、準備を進めた。ちなみに今日私をエスコートしてくれるのは、グレイソン様だ。まだ婚約者がいない私は、義兄でもあるグレイソン様にお願いしたのだ。
別に1人で入場してもいいのだが、なんだかそれも寂しいものね。
「準備が整いましたよ。今日のお嬢様、とてもお美しいです。本当によく似合っておりますわ」
「そう?ありがとう」
アリーが笑顔で見送ってくれる。あの後アリーには多額の慰謝料が渡され、男爵家はかなり裕福になったらしい。さらにそのお金で、領地の立て直しも進めているらしい。ただアリーは、メイドの仕事が好きだからと言って、私の傍に今でもいてくれているのだ。
正直アリーが居なくなったら寂しいと思っていたので、私としてはとても嬉しいのが本音だ。
部屋から出ると、グレイソン様が待っていた。青い髪をしっかりセットしているグレイソン様、今日もとても男前ね。
「ルージュ、お誕生日おめでとう。そのドレス、とてもよく似合っているよ。まるでキンシバイの花の様だ。こんな美しいルージュのデビュータントを、僕がエスコートできるだなんて、本当に幸せだよ」
「もう、グレイソン様ったら。大げさなのですから。今日はよろしくお願いいたしますわ」
「ああ、もちろんだ。さあ、行こうか」
2人で今日の会場でもある、公爵家のホールへと向かった。
「それじゃあ行こう」
「ええ」
2人で腕を組み、ゆっくりとホールに入っていく。私の歩調に合わせて進んでくれるグレイソン様。本当に優しいわね。1度目の生の時は、さっさと私から離れたい殿下がスタスタと歩いてしまうから、付いていくのに必死だったのよね。
それでも入場後は、友人たちがずっと傍にいてくれた。彼女たちはどんな時でも、私の傍にいてくれた大切な友人なのだ。
「ルージュ、お誕生日おめでとう。今日からあなたも大人ね」
「皆、来てくれたの?ありがとう」
私の傍にやって来たのは、友人達だ。あの頃は殿下の態度に激怒してくれていたけれど、今日は皆笑顔だ。やっぱり彼女たちには、笑顔でいて欲しい。これからもずっと。
「せっかくだから、ファーストダンスをグレイソン様と踊ってきたら?」
ファーストダンスか…
1度目の生の時、ファーストダンスの時に殿下とスムーズに踊れるようにと、それこそ足に豆が出来るくらい、必死に練習をしたのだった。でも、結局誰とも踊らずに終わってしまった。殿下はすぐにヴァイオレット様のところに行ってしまったし、皆さすがに王太子殿下の婚約者のファーストダンスを奪ってはいけないと思ったのか、誰からも誘われなかったのだ。
あの時は本当に惨めだった。でも今回は…
「グレイソン様、一緒に踊ってくださいますか?」
「もちろんだよ、君のファーストダンスを僕が貰ってもいいのかい?嬉しいな」
そう言って私の手を引き、ホールの真ん中に連れてきてくれたグレイソン様。音楽に合わせ、ゆっくり踊り出す。
「ルージュはとてもダンスが上手だね。実は僕、こうやって夜会で令嬢と踊るの、初めてなんだ」
「まあ、グレイソン様のデビュータントの時に、令嬢と踊らなかったのですか?」
「ああ、僕はファーストダンスを、どうしてもルージュと踊りたくてね」
少し恥ずかしそうにそう教えてくれた。グレイソン様ったら。でも、私の為にファーストダンスを取っておいてくれた事が、嬉しくてたまらない。
1度目の生の時、誰とも踊ってもらえなくて、悲しくて辛くて惨めだった。あの時の気持ちが今、少しずつ晴れていく気がして、心が温かくなった。
「グレイソン様、私の為にファーストダンスを取っておいてくれて、ありがとうございます。私、とても幸せですわ」
1度目の生の時、必死にダンスを練習した甲斐があった。2度目の生で、あの時の努力が報われたのだから。
終始和やかな空気の中、グレイソン様とのダンスが終わった。
「グレイソン様、私の初めてのダンスのパートナーまで勤めて下さり、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう」
2人で仲良く皆の元に戻ろうとしたのだが、今日の主役でもある私は、色々な貴族からお祝いの言葉を頂いた。それがなんだか嬉しい。ただ、中にはあの女の事件について聞いてくる貴族もいた。
やはりまだあの時の事は、話題に上っている様だ。幸い、ファウスン侯爵家の人間はだれ一人来ていない。さすがに来られないだろう。
やっと貴族たちとの挨拶が終わり、一息つける。そう思った時だった。
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