第30話 僕が犯した最大の過ち2~クリストファー視点~

「可哀そうに、なんて酷い事をするのだろう。僕の可愛いヴァイオレットにそんな酷い事をするだなんて。そもそも、虐めは立派な犯罪だ。大丈夫だよ、僕が必ず守ってあげるから」


ヴァイオレットを強く抱きしめた。そしてルージュに文句を言った。ただ、自分はやっていないの一点張りだ。さらに従姉弟のセレーナからは



「ルージュがそんな酷い事をする訳ないでしょう?あなたの目は節穴なの?現実を見なさい!」


と怒られたのだ。ルージュめ、いくらヴァイオレットが気に入らないからって、友人を使って僕に文句を言うだなんて。とにかく僕はもう、我慢できない。


ルージュとの婚約を白紙に戻し、ヴァイオレットと婚約を結び直そう。そう考えたのだ。早速父上に相談したのだが…


「何を馬鹿な事を言っているのだ。ルージュ嬢はよくやってくれている。それなのに、婚約を白紙に戻したいだなんて。セレーナから話しは聞いているぞ。お前、侯爵令嬢のヴァイオレット嬢にうつつを抜かしているそうではないか?逆にこっちが不貞を理由に婚約を破棄される方だ。バカな事を言っていないで、真面目に生きなさい」


そう叱責されてしまったのだ。いくら僕が、ルージュがヴァイオレットに酷い事をしていると訴えても、全く相手にしてもらえない。こうなったら最終手段だ。


「父上、母上、ルージュとの婚約を白紙に戻し、新たにヴァイオレットと婚約させてもらえなければ、僕は王族をやめます」


父上の血を引く子供は、僕だけ。だから僕が王族をやめたら、父上の血の継ぐ人間がいなくなるのだ。そうなると王太子には新たに、父上の弟の子供、セレーナの弟がなる事になるだろう。


父上はどうしても僕を国王にしたいはず。案の定…


「分かった。公爵に話しをしてみよう。ただ、こちら側の我が儘で婚約解消のお願いをするのだから、しっかり慰謝料を払わないとな」


父上が折れてくれたのだ。ただ、母上は猛反対。結局母上の意見を無視して、父上が話を進める事で話は落ち着いた。母上め、すっかりルージュに騙されて。そもそも僕たちは悪くないのに、どうして慰謝料を払わないといけないのだろう。


正直不満はあったが、それでもルージュと婚約を解消できるのなら、まあいい。


父上が公爵と話をした結果


「ルージュ嬢が承諾すれば、婚約を解消してもいいと公爵は言ってくれたよ。これが婚約解消届だ。既に公爵にはサインをもらって来た」


そう言って僕に婚約解消届を渡してくれた父上。早速ルージュを呼び出し、無事婚約解消する事が出来た。


ちょうど今、貴族学院は長期休みに入っている為、ほとんどの貴族たちは、領地でバカンスを楽しんでいる。ルージュの友人たちも皆王都にいないため、セレーナが怒鳴り込んでくる事もない。


セレーナも今、婚約者に会う為に、カラッソ王国に行っているのだ。


ただ、戻ってきた時の事を考えると面倒だが、適当にあしらえばいいか。


そして僕は、すぐにヴァイオレットと婚約を結んだ。そんな中、事件が起きたのだ。


なんとルージュの義兄でもあるグレイソンが、ヴァイオレットを誘拐しようとした罪で捕まったのだ。どうやら事前に情報を察知していたヴァイオレットが、事前に護衛を付けていたそうで、グレイソンが現れたところを捕まえたとの事。


僕の婚約者と知って誘拐しようだなんて、許せない。すぐに処罰を。


ただ家臣たちは


「今は裁判長も休暇で領地にいらっしゃいますし、陛下と王妃殿下も他国の視察で留守です。彼らの裁きは、皆様が戻られてからにしましょう」


なんて呑気な事を言っているのだ。


「何を馬鹿な事を言っているのだ?僕の婚約者を誘拐しようとしたのだよ。グレイソンは処刑、その家族は国外追放に処す。これは王太子命令だ。すぐに動け」


「しかし…」


「僕は王太子だよ。いう事が聞けないなら、貴様を国家反逆罪で逮捕するぞ」


頭に血が上っていた僕は、一番やってはいけない権力の乱用を行ってしまったのだ。しぶしぶ僕の言う通りに動く家臣たち。さらに騎士団長が不在という事で、最初は渋っていた騎士団員たちだったが、それでも僕が強く言うと動いてくれた。


「クリストファー様、私の為にありがとうございます。私、ずっとグレイソン様に脅されていて…彼の処刑は私も立ち会いますわ」


ヴァイオレットはルージュだけでなく、グレイソンにも酷い事をされていたのか。


「分かったよ、それじゃあ、さっさと皆始末しよう」


そうヴァイオレット様に伝えると、嬉しそうに微笑んだのだ。やっぱりヴァイオレットは可愛いな。

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