第21話 何が何でも欠席します

「お嬢様、明日はいよいよ、王宮主催のお茶会ですね。お嬢様の為に、奥様がオレンジ色のドレスを準備してくださいましたわ。シルクの最高級品で、触り心地も最高です。見て下さい、宝石が丁寧に縫いつけられておりますわ。こんなドレス、初めて見ましたわ」


アリーがうっとりとドレスを見つめている。お母様ったら少しでも私の気分を上げるために、こんなドレスを準備して。お金を掛ければいいと言うものではないのよ。


あの日以降、お母様やお父様に抗議をするため、ろくに話をしていない。そう、冷戦が続いているのだ。


用事があるときは、全てグレイソン様を通して話をしている。グレイソン様には申し訳ないが、こればかりは譲る気にはなれない。


ただ…両親も一歩も引かない様で、あちらもグレイソン様を通して何かを伝えてくるのだ。このままでは本当に明日のお茶会に参加しなければいけなくなるわ。


いっその事、脱走しようかしら。よし、それがいいわ!荷物をまとめると、そのまま出て行こうとしたのだが…


「お嬢様、そんな大きな荷物をもって、どこにお出かけですか?私もお供いたします」


護衛が話しかけてきたのだ。この人が付いてきたら、意味がないじゃない。


仕方がない、一旦部屋に戻り、作戦会議だ。やっぱり門からではダメよね。それじゃあ、あの塀を登って外に出よう。そう思い塀を登ろうとしたのだが…


「お嬢様、どうかそんな危ない事はお止めください。脱走を試みているのでしょうが、1ヶ月前から奥様から“お嬢様が脱走しない様に見張る様に”と全使用人に通達が出ております。あなた様には常に監視の目があるので、脱走は不可能ですわ。そもそも、あなた様は公爵令嬢です。どうかご自分のお立場をお考え下さい」


すぐにアリーに見つかったうえ、怒られてしまった。お母様め、私が脱走を試みる事を最初から読んでいただなんて!敵もなかなかやるわね。


脱走が不可能となると、いよいよお茶会に参加しないといけないのか…


いっその事、熱でも出てくれたら…熱?


そうだわ、風邪を引けばいいのよ!どうしてこんな簡単な事に気が付かなかったのかしら?でも、どうやって風邪を引けばいいのかしら?


う~ん…


そう言えば以前、中庭の池に落ちた時“お嬢様が風邪をひいてしまいます。すぐにお着替えを”そう言って、アリー達メイドが慌てていたわね。そうか、冷たい水に服事浸かれば、風邪をひくのね。


よし!


早速浴槽にやって来て、冷たい水を浴びた。


「なんて冷たい水なの?こんなの耐えられない!」


すぐに止めようとしたのだが、その瞬間、クリストファー殿下が地下牢にやって来た時の姿が脳裏に浮かんだ。


やっぱり私、どうしてもあの人に会いたくない!そんな思いで、冷たい水を浴び続けた。


寒いし痛い。でも、あの時の事を思えば、まだ大したことはないわ…


「お嬢様、一体何をなさっているのですか?」


血相を変えて飛んできたのは、アリーだ。さらに他のメイドたちも次々にやって来て、浴槽から出されてしまった。


「こんなに体が冷えてしまって。とにかくお着替えを。今すぐ温かい飲み物を準備いたしますわ。本当にあなた様は、何を考えていらっしゃるのですか?」


「アリー、これで私、熱が出るかしら?」


結構長い事冷たい水を浴びていた。これで熱が出なければ、ダメージが大きすぎる。


「あなた様は本当に!とにかくこの毛布にくるまっていてください。いいですね」


すぐに着替えさせられ、温かい毛布にくるまれてしまった。こんなんじゃあ、風邪をひかないかもしれない。毛布を脱ぎ捨て、もう一度浴槽に向かおうとした時だった。


「ルージュ、あなたは一体何を考えているの?冷たい水を浴びるだなんて」


やって来たのはお母様だ。


「私はそれだけ明日のお茶会に行きたくないのです。いい加減分かってください」


「どうしてそんなに嫌なの?あなたは友達も多いし、グレイソンだって一緒に行くのよ。それに、殿下もとてもお優しい方だと聞いているわ」


何がお優しい方よ。婚約者がいる身で、侯爵令嬢にうつつを抜かし、ろくに調査もしないで私達家族を皆殺しにしたあの男が、優しい訳ないじゃない。外道以外何者でもないわ。


「とにかく、バカな事はやめなさい。いいわね。アリー、悪いのだけれどルージュを見張っていて頂戴。この子がまたバカな事をしない様に」


「承知いたしました」


そう言うとお母様が部屋から出て行った。本当にお母様は。


「お嬢様、もうあんな愚かな事をするのはお止めください。いいですね」


結局アリーにも怒られてしまった。その後はアリー含めメイドたちがずっと私を見張っていた為、結局それ以上何かをする事は出来なかったのだった。

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