第20話 ついに来ましたか

過去に戻ってから早2年、私は12歳になった。1度目の生と同じく、友人たちに囲まれ楽しく生活をしている。


ただ、1度目の生と大きく違うのは、義兄でもあるグレイソン様との関係だ。この2年ですっかりグレイソン様とも仲良くなった。それに何よりも、彼自身が非常に明るい性格になり、沢山の友人たちに囲まれ毎日楽しそうに生活をしている。


騎士団に入団してから、体つきもしっかりしてきた。1度目の生の時のグレイソン様は、どちらかというと貧弱でいつも俯いていたのに、今ではその面影は全くない。


きっと今のグレイソン様なら、あの女の虜になったりはしない…そう信じたいが、何分あの女は見た目が美しく、男に取り入る天才なのだ。


ちなみにあの女、ヴァイオレットは今、領地にいるはずだ。子供の頃から体が弱く、貴族学院に入学する13歳まではずっと領地で暮していたらしい。だから今はまだ、ヴァイオレットに会う事はない。


ただ…


「グレイソン、ルージュ。来月王宮主催のお茶会があるの。2人にもぜひ参加して欲しいと、王妃殿下から言われているのよ。どうやら今まであまり表に出てこなかった1人息子のクリストファー殿下を皆に紹介したいのですって」


クリストファー殿下…


1度目の生の時、私の婚約者だった人。正直あの男の顔なんて二度と見たくない。でも…見ない訳にはいかないのだ。


確かクリストファー殿下も体が弱く、今まで公の場にほとんど姿を現さなかったのも、療養していたからと聞く。


そして今回のお茶会で、私はクリストファー殿下の優しくて穏やかな人柄に惹かれ、彼の正式な婚約者になりたいとお父様にお願いした。王妃殿下も私を気に入ってくれ、とんとん拍子で婚約する運びになったのだ。


でも今回の生では、絶対に彼の婚約者になるつもりはない。そもそもあの男と婚約したことが間違いだったのだ。あの男にさえ近づかなければ、もしかしたらヴァイオレットに目を付けられることも、私達家族が殺される事もなかったのかもしれない。


もう私は、殿下に関わりたくはない。


確か今回のお茶会は、殿下の婚約者を見定めるためのお茶会だったはず。そんなお茶会に、誰が参加したいものですか。それに何よりも、私はあの男に会いたくはない。少なくとも殿下が正式に誰かと婚約を結ぶまでは、関わりたくはないのだ。


でも、たとえ誰かと婚約を結んだとしても、またその子が私と同じ苦しみを味わわないかしら?その点が非常に心配だ。


て、人の心配をしている場合ではない。まずは自分の心配をしないと。


よし!


「お母様、そのお茶会なのですが、私は欠席させえていただきますわ」


「ルージュ、何を言っているの?王妃殿下直々に誘われたのよ。欠席なんて出来る訳がないでしょう。我が儘を言っていないで、参加しなさい」


「どうしてですか?グレイソン様の時は、無理に参加しなくてもいいとおっしゃっていたではないですか?差別はいけません、差別は!」


「何が差別なものですか!もう2年も前の話を持ち出して。それにあの時は、グレイソンのケアを優先に考えての事でしょう!それでもグレイソンはちゃんとお茶会に参加していたわよ!」


「私はどうしても行きたくないのです。絶対に行きませんから」


「そんな我が儘は許しませんからね」


お母様め、どうしてこんなにも頑固なのかしら?そもそも私は、今までどんなお茶会にもちゃんと参加してきたのだ。一度くらい我が儘を言ったって、罰は当たらないはず!


「2人とも落ち着いて。ルージュ、どうしてそんなに王宮主催のお茶会が嫌なのだい?僕もいるし、大丈夫だよ」


「嫌なものは嫌なのです」


「いい加減にしない。この話しはお終いよ」


そう言うとお母様は部屋から出て行ってしまった。そしてその日の夜、お父様にも絶対に参加する様にと強く言われたのだ。


私の気持ちも知らないで!私は絶対に参加しないのだから!


とにかくまだ1ヶ月ある。何とかして欠席する方法を考えよう。


ただ、あの人たちは何を言っても聞かないだろう。私が泣いて訴えたとしても。大体あの人たち、娘に厳しすぎるのよ。


こうなったら諦めて参加する?いいえ、あの男の顔を思い出しただけでも、体が震えるわ。でも、実際会ってみたら、グレイソン様の時の様に以外と平気かも…


て、何を呑気の事を考えているのかしら?あの男があんな女にうつつを抜かしたせいで、私たちは殺されたのだ。冷たく薄暗い地下牢、大量の血を流し倒れるお父様とお母様。


そして剣で刺されたときの激痛。もう二度とあんな思いはしたくない。


やっぱり欠席の方向で考えないと。

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