第17話 やりやがりましたわね

「新しい友達が出来たお祝いに、皆でお料理を頂こうよ。マリーヌ嬢の家のお料理は、本当に美味しいのだよ。行こう、グレイソン殿」


アルフレッド様がグレイソン様を連れて、お料理のある場所へと向かった。なんだかグレイソン様も、嬉しそうだ。



「私たちもせっかくだから、お料理を頂きに行きましょう」


今回のお茶会は、お茶とお菓子以外にも、軽食が準備されている。好きな物をつまみながら、話をする比較的ラフなスタイルのお茶会だ。


「このケーキ、本当に美味しいわ。いつぶりに食べたかしら?」


婚約を解消されたり地下牢に入れられたり殺されたり、かと思えば過去に戻ったりと色々とありすぎた。その為、こうやってマリーヌの家のお菓子を食べるのが、なんだか数年ぶりの様な気がするのだ。


「もう、ルージュは大げさなのだから。今日のルージュ、やっぱり変よ」


しまった。また変な事を言ってしまった。


「そんな事はないわよ。そうだわ、このお菓子、グレイソン様にも食べさせてあげないと。ちょっと行ってくるわね」


気を取り直して、アルフレッド様達と一緒にいるはずのグレイソン様の元へと向かったのだが。あれ?グレイソン様がいないわ。


「アルフレッド様、グレイソン様は?」


「彼ならお手洗いに行くといって、席を立ったよ」


「1人で行かせたのですか?大変」


グレイソン様はまだ、1人に慣れていないのだ。それにここには、あのにっくき男、クザイ様もいる。せっかくいい流れになって来たのに、もしグレイソン様に何かあったら。


こうしちゃいられないわ。急いでグレイソン様を探しに行く。


「待って、私たちも一緒に行くわ」


なぜか私についてくる友人達。お手洗いはこっちのはずだけれど…


その時だった。木の陰から、怒鳴り声が聞こえてきたのだ。この声は…


「おい、グレイソン。お前のせいで俺が恥をかいたじゃないか。お前、今までずっと使用人以下の生活をしていたのに。本当に生意気な奴だな!」


やっぱり、予想通りクザイの奴がグレイソン様を連れ出していたのだ。俯き震えるグレイソン様。


今すぐ助けないと。そう思い飛び出そうとしたのだが、なぜかミシェルに止められたのだ。


「また父上に頼んで、お前を鞭で打ってもらおうか?それとも殴られたり蹴られたりする方がいいか?何とか言えよ!」


そう言うと、クザイの奴がグレイソン様を蹴飛ばしたのだ。もう我慢できない。すぐに出て行こうとした時だった。


「グレイソン殿になんて事をしているのだ!貴様!」


怖い顔で出て行ったのは、アルフレッド様だ。私達も急いで出ていき、グレイソン様の傍に駆け寄った。


「グレイソン様、大丈夫ですか?ごめんなさい、私が傍を離れたばかりに」


きっと相当怖かったのだろう。まだ小刻みに震えているし、顔色も悪い。そんな彼を、ぎゅと抱きしめた。


「お…俺は別に、ただグレイソンと話をしていただけだよ」


「嘘を付け!今蹴飛ばしていたではないか。それに鞭で打ったり殴るけるの暴行をくわえていたと言っていたのも聞いたぞ」


「そ…そんな事は言っていませんよ。酷い言いがかりだな。確かにグレイソンを蹴ってしまった事は認めます。でもそれは、グレイソンが俺の事を馬鹿にしたから」


「ふざけないで!グレイソン様はあなたを馬鹿に何てしていなかったわ」


「君たちがなんと言おうが、俺は何もしていないよ。さあ、そろそろ皆の居る場所に戻ろうかな」


そう言うと、クザイがその場を去ろうとしたのだが…目の前には怖い顔をしたミシェルが立ちはだかっている。


「クザイ様、今さっきグレイソン様との会話、ここに録音させていただきましたわ。私はこの録音したものをもって、裁判所に向かい、正式にあなたの家の調査を依頼いたします。そもそも、いかなる理由があろうと、子供への暴力はこの国では禁止されている行為です。決して許される事ではありません!」


「ま…待って下さい。ミシェル嬢、どうか…」


「言い訳は結構です。私の父が裁判長をしている事をご存じですね。子供の頃から、悪は絶対に見逃すなと父からきつく言われておりますの。あなたの家を、徹底的に調べさせていただきますわ!」


ミシェルの家は、悪い事をした人を裁く司法関係のトップを務めている。元々スパイ活動に特化していた家庭だった。ありとあらゆる方面から証拠を集める能力が高く評価され、正式に司法関係のトップを任されているのだ。


正直ミシェルの家に目を付けられた貴族は、徹底的に調べ上げられ、法の下裁きを受けるのだ。子供への虐待は我が国では重罪。きっとガブディオン侯爵家も、ただでは済まないだろう。


最悪、爵位をはく奪される可能性もある。爵位がはく奪されなかったとしても、侯爵ではいられなくなる。よくて伯爵、もしかしたら男爵まで落ちるかもしれない。何より犯罪者は、貴族社会では酷く嫌われる。きっともう、表立った活動は出来ないだろう。


まあ、自業自得ね。

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