AG

三八式物書機

第1話 ケモミミ少女になっちまった。

 三日月舞。

 高校一年生の春。

 登校中に暴走したトラックに轢かれました。

 瀕死の状態で病院に運ばれましたが、意識不明で損傷が酷かった。

 医師は一瞥して、回復困難だと判断した。仮に一命を取り留めたとしても一生をベッドの上で過ごす事になるだろうと。

 それでも医師の使命に従い、治療を続けた。

 

 舞は目を覚ました。

 知らない天井。

 見渡せば、両親が泣いている。

 最後に覚えているのは突進してくるトラック。

 死ななかったんだ。

 助かった事に正直、驚いている。

 手を動かす。体に痛みは無い。

 まるで無傷かと思う程に体が動く。いや・・・軽過ぎ。

 「なんか・・・自分の身体じゃないみたい」

 舞がそう口にすると、両親は更に泣いた。

 両親の背後に立つ医師にしては変な和装をした男が声を掛けた。

 「そうです。あなただけの身体じゃありません。九尾の狐があなたと融合して、体を支えています」

 その言葉に舞は困惑しかない。

 「はっ?」

 舞の疑念の籠った一言に和装の男は更に説明を始める。

 「はい。あなたの身体は死ぬしかない程に損傷していました。なので、我々、大阪府陰陽課が特別処置として、あなたに式神を宿して、その生命力であなたの身体は回復をしました。現状、あなたの身体の多くは式神の力で維持しています」

 「えっ?」

 舞は何のことかと思った瞬間、お尻の辺りで何かを感じる。それは身体の一部のようであって、そうじゃない感じ。

 舞は何かと思って、手でお尻を触る。

 何かモフモフな柔らかい毛を感じた。

 「ぬいぐるみ?」

 舞はぬいぐるみか何かを背中に敷かれているのかと思って、引っ張る。

 だが、それはお尻が引っ張られる感じがする。

 「な、なにこれ・・・」

 舞は驚いて、ベッドから降りて立つ。

 彼女の手には金色に輝く狐の尻尾があり、それは明らかに彼女のお尻と繋がっていた。意識をすれば、その尻尾は動くし、感触もある。

 「それは宿った九尾の狐の尻尾です。因みに頭には耳がありますよ」

 和装の男に言われて、頭に手を当てると確かにモフモフの耳がある。

 「どゆこと?」

 「式神の力が体外に具現化されています。どうにもなりません」

 「こんな・・・コスプレしてると思われるんじゃ」

 「そうですね。普通の生活は困難でしょうね」

 「えっ?」

 舞と両親は驚く。

 「仕方がありません。式神の力無しではすぐに死んでしまいます。あなたは一生、この姿で過ごすしかありません」

 「どうしろと?」

 舞はこの異常事態にパニックになりそうだった。

 「心中はお察しします。ならば、同じような境遇の人々と共に働いてみませんか?」

 「働く?」

 「とりあえず、公務員・・・警察官になります」

 「警察官・・・ですか?」

 「式神を宿した者は特別な力を宿します。その力で犯罪を撲滅する事に役立ってもらいます」

 「えぇぇぇ・・・私が警察官?」

 「そうですね。その姿でまともに雇ってくれる会社は少ないでしょ?」

 「確かに・・・」

 「それでは大阪府警の人を呼びますから」

 結果、就職まではとんとん拍子で進む。

 意識を取り戻してから退院するまでは僅か二日であった。

 そして、その間に高校は中退となり、着る物も無く、制服姿で職場へと向かった。

 大阪府警察機動隊零中隊特務班。

 対テロ組織として有名な零中隊。

 屈強な機動隊員がテロ制圧の為の特殊な訓練を受けて、常に備えている。

 そんな隊員達を横目に女子高生姿の舞は職員に案内されて、特務班の待機する部屋へと向かう。

 「騒がしい部署ですけど、頑張って勤めてくださいね」

 案内した職員は舞のキツネ耳を笑いを堪えながら見てから去って行く。

 セミロングの黒髪の上に金色の毛並みのキツネ耳は確かに目立つ。

 しかもそれが被り物ってわけじゃなく、しっかりと頭から生えているのだから余計に目立つ。

 「自分の耳とは違うところに耳があるのは馴染めないなぁ」

 キツネ耳を触りながら、舞は案内された部屋の扉を開く。

 中には数人の少女達が居た。

 「どうも。初めましてぇ」

 舞が挨拶すると少女達は興味津々で飛び掛かって来た。

 「はじめましてや。うちは轟万理華や。狼との融合やで」

 灰色の毛並みの耳を持った小柄な少女は舞に抱き着きながら挨拶をする。

 「私は朽木瀬奈。白虎よ」

 理知的な雰囲気の少女の頭には白くて丸い虎耳があった。

 最後に少し離れた場所でオドオドしている身長の高いショートカットの少女。

 「は、初めまして。三日月舞です。あなたは?」

 舞がそう挨拶するとオドオドしていた彼女は恥ずかしそうに小声で答える。

 「不知火三珠です。麒麟が宿ってます」

 「キリン?あの首の長い?」

 「ちゃうで」

 「違います。麒麟とは伝説の聖獣です。頭は竜、牛の尾、馬の蹄、鱗に覆われ、背中の毛は五色だと言われます」

 瀬奈の説明を聞いてから見ると、頭には竜の角だろうか。鹿の角みたいなのが、伸びている。お尻から牛の尻尾がフリフリしている。

 「これでみんな?」

 舞の問い掛けに瀬奈が首を横に振る。

 「もう一人。今は任務中で外出している。名前は大貫雅子。鳳凰との掛け合わせ」

 「鳳凰って火の鳥ってヤツ?」

 「そうね」

 「火が頭やお尻から出てるの?」

 「それは厄介だな。残念だが、孔雀みたいな尾があるだけ。頭は髪の色が緋色になってるぐらいかな」

 「緋色・・・それはかっこいいな。」

 「そうね。変な耳が頭に載ってるよりマシね」

 「それで、ここで何をやるの?」

 「テロリストの撲滅」

 「銃を撃つんや」

 「銃・・・えぇ・・・」

 舞は露骨に嫌そうな顔をする。当然だ。数日前まで、ただの女子高生だったのにいきなり銃を持って、テロリストと戦うなんて嫌過ぎるだろ。

 「まぁ・・・うちら、身体能力は何もせんでも凄い事になってるんや。解るやろ?体は滅茶苦茶軽いし、目だって、1キロ先は余裕で見えるし、耳だって、澄ませば、遥か遠くが聞こえる。本気で殴ったら、プロボクサー並なんやで」

 万理華はシャドウボクシングを見せるが、確かにプロボクサー並に鋭く、力強かった。同じことが出来るのかと舞も試しに一発、素振りをしていみる。それは自分でも驚くほどに鋭いパンチであった。

 「こわっ」

 自分自身のパンチに驚く舞。

 「それや。うちも初めての時は驚きやった」

 「まぁ・・・何もしなくても力だけなら、特殊部隊並だけど、銃の扱いや色々な事は教わって、訓練しないといけない。力だけじゃ、役に立たないから」

 瀬奈は冷静に言う。それに舞はコクコクと頷くしかなかった。

 そこに一人の女性が入ってきた。

 「新人の三日月も居るな。ミーティングをはじめるぞ」

 妙齢の美女で、バリバリキャリアって感じの人だった。

 「三日月。私がこの班の指揮官だ。班長の冴島弓香警視正だ」

「は、はい」

 慌てて舞はお辞儀をする。

 「まぁ、警察学校に通ったわけじゃないから仕方がないが、そういう時は敬礼で返せ。座れ」

 冴島は4人を座らせ、ホワイトボードに資料を貼る。

 「ようやく、定員の5人になった。これで集団行動が可能になったわけだが、三日月の為に、現在、我々が追っているテロリストを説明する」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

AG 三八式物書機 @Mpochi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ