第26話
「大丈夫か。相棒!」
炎の向こうから聞こえてきたのは、生意気でむかつくが頼りになるアイツの声。
「あ、アキラ! じゃなくてユリアちゃん!」
「師匠、あくでもそこの体裁は保っておきたいんですね」
「うるさい!」
"ユリアちゃんキタ――(゚∀゚)――!!"
"ユリアちゃぁあん!! 早く俺と結婚してくれぇえ! ユヅキちゃんはとりあえず放っておこう!"
"キマシタワー↑↑↑"
"もう俺たちにはユリアちゃんしかいないんだよぉぉお!!"
"丁度巨乳が足りないと思ってたんだよなぁ"
コメント欄も颯爽と現れたアキラに歓喜の声を上げる。バカでアホでマヌケな奴だが、なんだかんだ強いしカッコいい奴だからな。
アキラの登場は心強い……。そう思ったのも束の間、炎の中から現れたアキラの姿を見て、思わず言葉を失う。
「ゆ、ユリア……ちゃん?」
「おう! 大丈夫か、ユヅキ?」
「そ、その服装……」
なんとそこには、可愛らしい女の子の服に身を包んだアキラの姿があった。
オラオラとした雰囲気の不良はどこへやら。どこからどう見ても、可愛い系ギャルにしか見えない。
ブッカブカだったTシャツは、少しオーバーサイズな程度のフカフカな赤いパーカーに。ダボダボの半ズボンは、ムチッとした美脚を惜し気もなく見せつけるチェック柄のミニスカートへと変貌。そして極め付けは胸元で控えめに揺れる、大きなリボン。
今目の前にいるのは明らかに女の子だった。そのあまりの変わりように、俺は言葉を失ったまま呆然と立ち尽くすことしかできない。
「え? ふく?」
「お、お前……もしかして、メス堕ちしたのかっ!?」
アキラはやけに狼狽えた様子で叫ぶ俺を見て、何か気づいたらしく、火がついたように頰を赤らめて「しまった」といった表情を浮かべた。
「い、いや! こここ、これはだな! 女の体になったんだから、それに合った物をだな……」
「だったらわざわざそんな可愛いリボンつける必要なくね?」
「っ!?」
より一層顔を紅潮させるアキラ。こいつは間違いない。メスに堕ちてやがる。
"やっぱりユリアちゃんも女の子だったな"
"前も可愛かったけど、さらに可愛くなったねぇ。おぢさんうれしい!"
"ぐうかわですね、最高です"
「う、うぅ……べ、別にメスになったわけじゃねぇ!」
「じゃあなんでそんな可愛い格好してんだよ」
「そ、それは……」
俺はニタニタしながら問い詰めるが、本人はそれどころじゃないようで全く取り合ってくれない。可愛い格好をしたアキラは、俺を睨むようにそっぽを向いたままモジモジしている。
ここまで女の子っぽい反応をされるとこっちは複雑な気分だ。
「お、オマエがよろこんでくれるんじゃないかって……おもったから……」
「え? なんて?」
あまりに小声で聞き取れなかったので、思わず聞き返してしまう。
だが、チャンスは一度きりだったようで、女々しいアキラから一転、ブチギレモード突入して怒鳴りつけてきた。
「うるせぇうるせぇ! このへんたいが! オレがどんな服着たって自由だろ! へんたいやろー!」
「うわ、逆ギレかよ……。つーか女の子っぽい反応すんなし!」
「てか、オマエこそなんなんだよ! 下着オンリーとか露出狂かよ!」
「う、うるせえ! 好きでやってんじゃねーし!」
見苦しい言い争い。それでもお互い引かないのが俺たちだ。そんな中、遠くの方で呆れた様子でため息をついているサトリの姿が見えた。
「あの……もういいかしら?」
「あ、もう少し待ってくれ。このバカ猫を成敗するから」
「誰がバカ猫だ!」
「は、ははっ……そう。早くしてちょうだいね……」
サトリは引きつった笑みを俺に向けるが、その笑顔からは感情がごっそり抜けていた。まるで何かを諦めてしまったかのようなそんな顔だが、待ってくれるあたり、意外といいやつなのかもしれない。
「ちっ……。まあいい、ユヅキ! さっさとこのガキ片付けるぞ」
「んなこと言われても刀が……」
「ほらよ」
「うおっと!」
アキラが何かを投げ渡してきたので、中身を確認すると、そこには俺の愛刀にいつもの袴と二神流の羽織。俺が二神雪月として刀を振るうために必要不可欠な物が一式揃っていた。
「どこにあったんだ?」
「爆風で吹き飛ばされて、そこらへんに落ちてたぞ」
「マジか……師匠が知ったら、また怒られるぞ……」
俺はそう呟きながらも、身体に馴染んだ衣に身を包み、愛刀を手にして立ち上がった。
"やっと戦闘か"
"やべーの間違いだろwwwww"
"おいおいおい!!ユヅキちゃんの二刀流キターー!!!"
「やっぱこれが1番しっくり来るわ。下着とか関係ねぇ」
「何言ってんですか……身体に合った下着はぁ……月のものにも影響があるんですよぉ! それにフィットしているとうごぎやずいんでずぅ!!」
ぶっ倒れていたレイナが、鬼の形相で起き上がる。そして般若のような表情を浮かべながら叫んだ後に、再び血を撒き散らしながら倒れ伏した。
「ま、まあ確かに少し動きやすくなったかもな……月のものはよくわからんが。でもまあ……これでようやく戦えるな」
俺はそう呟きながら刀を抜く。
「ああ、そうだな。じゃあやるか……」
アキラも俺と同じく戦闘態勢に入るが、その物腰はまるでこれから喧嘩でも始めるかのように軽い。
だがしかし、この身に纏うピリピリとした緊張感は間違いなく本物だ。
「あの……そろそろいいかしら? もう待ちきれないんですけど……」
あまりに暇すぎてファッション雑誌を読んでいたサトリが、気怠そうに声をかけてきた。
緊張感の欠片もない声に、こっちまで力が抜けてしまいそうだ。
「ああ、準備万端だ」
だが、そんな気持ちを押し殺して俺は刀を地面と平行に構える。
「そう、じゃあさっさと……」
「二神流剣術。第一章二節————」
「ふぇ?」
サトリが間の抜けた声を上げる中、俺は全神経を刀身に集中させて、思いっきり横薙ぎに刃を振り抜いた。
「
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