かつて勇者と呼ばれたロリジジイ系配信者は今日もダンジョンをおさんぽ中〜モフモフ大好き美少女配信者に付きまとわれてバズってます〜

司原れもね

プロローグ

第1話 ロリジジイ系配信者

「コンコン♪ どうも皆さん、おはコンばんにちは! まっしろモフモフユヅキだよ!」


 カメラを片手に、画面の向こうに画面の向こうの視聴者に元気よく挨拶する少女。

 ふわふわの毛に包まれた狐耳をぱたぱたと動かし、袴からのぞくモフモフの尻尾は見ているだけでも暖かい。雪のように白い髪は彼女が動くたびに軽やかに揺れ、つぶらな青い瞳がカメラをじっと見つめている。


「今日も元気に、ダンジョン配信やっていくよ!」


 少女はそう言って画面越しににっこり微笑む。あざといくらいに可愛らしい仕草だ。まさしく男の夢を詰め込んだようなケモミミロリ美少女である。

 だがしかし、カメラの前で『カワイイ』を振り撒くこの超絶美少女————


「はぁ……やめだやめ。こんなんしたって視聴者の1人も来やしねぇ」


 実は美少女の皮を被った中年のおっさん。つまりはだったりする。


「あ〜なんで伸びねぇかなぁ……。配信者ってビジュアル良ければ普通にバズってフォロワー10000人は楽勝だって聞いてたのに、俺のフォロワー永遠に1桁なんだが……」


 あま〜い言葉を囁いていたお口は今や汚い愚痴を垂れ流すだけの汚口おくちに様変わり。

 愛らしい仕草でカワイイを振り撒いていた美少女はどこへやら。カメラに映るのは気怠げにくうを見つめるおっさんよりもおっさんな中年顔負けの加齢臭を放つケモミミロリのみ。


「ダンジョン配信は稼げるって聞いたのに……このままじゃ飢え死にするぞ……」


 俺、二神雪月ふたがみゆづきはダンジョン配信者である。見てくれこそ可愛らしいケモミミロリ美少女であるが、その正体は30オーバーの超絶おっさん。

 最近の流行りに乗じてダンジョン配信を始めたものの、視聴者は一向に増えず生活は困窮の一途を辿っている。


「はぁ……ここでいくらグチっててもしょうがない。進むとするか……」


 よっこらせと重い腰を上げて、俺はダンジョンの奥へと進んでいく。

 10年前、突如として日本のさいたま新都心に現れたこの場所、異界地形特定区域、通称

 この不思議な場所について、未だ詳細な解明はなされていない。ただ一つ、明白なのはダンジョンは人類の脅威であり資源であるということだ。


 コイツが現れた当初は世界中大混乱に陥ったもんだ。ダンジョンからは異形の怪物、モンスターが溢れ出し、異能の力を手にした一般人が犯罪に走ったり、未知の技術を求めて外国が乱入してきたり……。かと思えば、意思疎通の取れるモンスターがコンタクトをとってきたりと、兎にも角にも騒がしくてやかましった。


 しかし、どんな乱れもやがて整うもの。異能の力を研究しコントロールした人類はを筆頭とした才ある者をダンジョンに送り込み、そこに潜むモンスターたちを制圧した。

 そうして10年が経ち、今ではダンジョンは人類の管理下にあり、脅威は過去のものとなった。異能の力はインフラに組み込まれ、異界の住人は人間社会に溶け込み、安全対策が整備されたダンジョンは、許可さえあれば誰でも入場可能な場所となっている。


 ダンジョン配信は、そんなダンジョンに潜って配信するナウなヤングにバカ受けな今時の流行の最先端のはずなのだが――――


「結構深くまで来たけど、まだ0人か……」


 流行×美少女という最強の組み合わせで挑んだこのダンジョン配信。なぜだか俺は社会の底辺の底辺を爆速で突っ走っている。


「そろそろ帰るかな……。視聴者1人も来ないし」


 配信を始めて早3時間。さすがに心が限界だ……。このままだと、誰も見ていないという虚無感に耐え切れず、俺の承認欲求が完全に打ち砕かれてしまいそうだ。そんなことを考えて帰路につこうとしたその瞬間、ついに運命が動いた。


「っっっ!?」


 視聴者のカウントが「0」から「1」に変化した。たかだか1人と笑うことなかれ。有と無では天と地ほど差があるのだ!


「おはコン♪」


 嬉しさのあまり、ウキウキした心持ちでカメラに声をかける。すると、コメント欄にも動きが見られた。

”おはコンです!”

 コメント欄にたった一言そう書き込まれただけで圧倒的な心の充実感……やはり配信は最高だ。


 ”ユヅキちゃんは今日もダンジョンかな?”

「うん! 今日もダンジョンをおさんぽしてるよ~」

”ダンジョンをおさんぽとかwwユヅキちゃんつよすぎw”

「えへへ……そうかな?♪」

”おぢさん、ユヅキちゃんがダンジョン壊しちゃわないか心配”

「もう、そんなことできるわけないよ~。でもありがとっ! ごぶおぢさん♡」


 見に来てくれたのは常連のごぶおぢのようだ。結構……いや、かなりキモイおぢだが、唯一の常連。無下にはできないし、それになんだかんだで俺の配信を楽しみにしてくれているのは素直に嬉しい。


”ユヅキちゃん今日のパンツ何色かな?”

「え……も、もう! いきなりそんな質問されても困るよおぢさんったら♡」

”ごめんwごめんwwで、今日のパンツは何色かな?”

「今日の色は…………内緒!」


 口が滑ってもまだ男だった頃に履いていたモノを今も履いてるなんて言えないしな。


 ”なんで!? おぢさん泣いちゃうww”

「あはは……また今度ね!」


 そんなくだらないやり取りをしながらダンジョンを進んでいく。途中、モンスターが襲ってくるが、配信の邪魔にならないようカメラに映る前に一刀両断する。

 左手にスマホ、右手に刀。配信には一切モンスターを映さず、ダンジョンで楽しく雑談するのが俺の配信スタイルだ。


「へ~そうなんだぁ」

”そうなんだよぉ。それでね”

「あ~っとぉ……そろそろおしまいの時間なんだぁ……」


 ごぶおじさんが来てからかなり時間が経っており、視聴者の数は相も変わらず1から変わっていない。そろそろコイツとの会話にも疲れてきたし、配信を終えるタイミングだろう。


”え~!  もう配信終わっちゃうの……?”

「ごめんねっ! また今度お話しようね♪ それじゃあ、 まったn……」



きゃああああぁぁぁぁ!!!!


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