【絵本原案】白光の魔女、黒闇の魔女、

松下一成

【絵本原案】白光の魔女、黒闇の魔女、

これは、ここではないどこかの世界のお話。


 まだ世界が朝焼けも夕焼けも知らない時、二人の魔女が降り立ちました。最初の一人は白光の魔女でした。後に人々からは〝シロ〟と呼ばれます。そして少し後に現れたのが黒闇の魔女でした。彼女も後に人々から〝クロ〟と名前を付けられます。


 シロはまず世界に降り立った時、水の精霊の力を借りて植物を生み出しました。生み出された最初の植物は見る見るうちに世界を覆いつくし、緑の世界を形成していきます。しばらくこの緑の世界が続いた後、クロは有ることに気が付きます。それは緑の世界が黄色を生み出していること。そしてその黄色が世界に余り始めたことです。そこで今度は赤い精霊の力を借りて動物を生み出しました。


 こうして緑と黄色の世界に赤が降り立つことになりました。シロはその様子を微笑ましく眺めていました。


 それを見ていたクロ。同じように眺めていたのですが、しばらくしても何かつまらない、シロが作った世界は何か面白くないと感じました。


 そこであることを実行します。


 クロはシロの放っている光の波動を手に取り、自分の持っている闇の波動と混ぜ合わせます。そして赤い精霊たちの力を借りて生命の輝きを貫きました。するとあるものが誕生しました。


人間です。


 人間はクロの手からこぼれ落ち、世界に降り立ちました。そのことに気が付いていないフリをして黙ってシロは見ていました。初めの頃人間はシロとクロの輝きを感じつつ生きていました。彼女たちに名前が付けられたのもこの頃です。


 しばらくすると人間はあることに気が付きます。それは光の波動、闇の波動、そして赤い精霊たちの力が自分の体の中に存在するということ。そして存在するということは


 二人の魔女たちと同じように「自分たちも世界を作れるのではないか」と考えました。


 考えは的中します。人間は人間による世界を構築していきます。人間は無意識に二人の魔女に憧れていたのです。


 光の波動で世界を発掘し、闇の波動で発掘した物を固定していきます。


 そして気が付くと緑の世界、赤の動物たちの力が弱くなっていました。それは人間が闇の波動を多く使っていることが原因でした。


 すると世界にとってクロの影響力が強くなっていきます。


 人間の中にある闇の波動とクロが共鳴し、世界は加速していきます。そして加速した世界と世界はぶつかるようになりました。


争いごとです。


 大きなもの、小さなもの。争いを繰り返し行いました。それは世界に存在する緑、黄色、赤い精霊たちの力を人間が利用して行われました。こうして人間は人間の世界を確立していきます。


その様子を微笑ましくクロは眺めていました。


 そんなある時、世界の精霊たちはシロの元に集まるとこう進言します。


「シロ様、シロ様。このままではクロ様に全てを覆われてしまいます」


 ですがシロは動じません。なぜならその成り行きを全て見ていたからです。シロはドレスをなびかせて精霊たちにこう言います。


「クロの作った人間たちは争いごとを繰り返しています。そして世界がこうなることは分かっていました。ですがこのままでは彼らは自分たちで自分たちを追い込むばかりです」


 繰り返される争いの中で人間は苦しんでいました。


「彼らが彼らによって苦しんでいるのは、あるものを見つけられずにいるからです」


 争いを繰り返し行ってしまう人間が見つけられていないもの、それは青の秘宝でした。この世界のどこかにある、とシロは言います。


 このことを人間は知ることになります。実はシロに進言してきた精霊たちの中に人間のスパイが混じっていて話を聞いていたのです。


「そうか、青の秘宝か」


 スパイはその存在を他の人間に伝えました。すると人間はまた同じように争い、世界のどこかにある青い秘宝を探そうとしました。何度も、何度も。気が遠くなるような回数の争いを繰り返しましたが、見つかりません。


 やがて話を聞いたスパイは寿命が来てしまいます。


 その様子を黙ってシロとクロは見つめていました。皮肉にも精霊に交じっていた人間のスパイは彼女たちの言葉を聞くことが出来る最後の人間でした。


 会話が出来なくなった人間は次第に二人の魔女の名前を忘れていきます。怖くなった人間は完全に忘れてしまう前に、また新たに名前を付けました。


 シロは〝ヒカリ〟そしてクロは〝ヤミ〟と呼ばれるようになり、名前を付けられた二人は〝重さ〟が消えて天へ昇ってそのまま溶けていくと、


世界に〝昼〟と〝夜〟が訪れるようになりました。


 昼の空は青く、そして二人の力が入れ替わる時、空は赤くなり、やがて夜が訪れます。


 人間たちは二人が消えてもなお、青の秘宝を求め続けました。


自分たちの頭の上に掴み切ることが出来ないほどの青の存在を忘れて。


おしまい。

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