習作

@Yoyodyne

第1挿

ここは俺の席だぞと続けざまに3度電車内で雄叫びを上げた後、気を失って倒れた。始発から終電まで見慣れた光景であるため他の乗客は気にしない。まぁこの電車には始発も終電もないが。電車は煉獄のゴミ捨て場に等速直線運動でまっしぐらに進んでいる。天国も地獄も満員で来世などないのだから。終わりのない余生をこの8両編成の部屋で過ごさなければならないのだろう。窓の外は暗いが深夜の暗さ(と言っても生まれて死ぬまで住んでいた都市には完全な暗闇はなかったが…)の質感のない暗闇ではなく原形質のような粘度の高い液体が充満し対流しているかのようなカーボンブラックに光の筋が尾を引きながら消えていく。この電車に乗って何日過ぎただろうか?電力原はどこから来てるのだろう?電気代も馬鹿にならないはずだと馬鹿な頭で考えてるといつの間にか人が増えている。怪訝な顔をした小学生程度の男児。私も初めはわけが分からなかった。今でも全くわからない。山の手線でうたた寝をしていて起きると見慣れた風景が流れる見慣れた電車の中で目を覚ました。外はすっかり暗くなっていて居心地悪い座席でこんな寝込んでしまったのかと少し動揺しながら二度寝三度寝を繰り返しても終電の田端駅どころかどこの駅にも一向に停まる/停まった形跡がない。決まった目的地がなく気が向いた所で降りるつもりだったので縄張りを守るため取り敢えず横の男児の襟首掴んで引きずり回すとまたここは俺の席だぞと喚き散らした。この発狂が重要でなぜかと言うとこの空間に転移?してから全く痛覚が働いてなく怪我するような状況でも無傷のまま、他の人間も同様で通り魔目的で持参した出刃包丁を突き刺しても反撥する何層もの肉や固い骨に当たった感覚、繊維を切って押し入る生々しい手応えは確かにあるにも関わらず涼しい顔をして自分のしたいことを(といっても大抵寝るかキチゲ発散するかどちらかだが)続けている。実際に刃が相手の身体の奥へ進むに連れて重み増していくのに抜くと何の跡も残って居ない。死なない、それどころか傷一つつかない、痛みもなく身体状態が現象学的に把握できる範疇で一定で食う飯にも困らない(後述)。そんな状態に慣れてしまうと人は大方無反応になり、無頓着になる。恐怖や不安を感じないわけではないが反射的に無意識にそれが水面に浮上することがなくなっていく。そうなると私のように人間であることを━誰も頼んでないのに━必死に不自然な方法でアピールする集団と外界に起こることがどれだけ特異的であっても夢の中で傍観するのと変わらない安全性が保証されているのだから何が起きようと一切反応しなくてもいいと考える集団とで電車内の母集団は段々と二極分化していった。肉体的快楽も痛覚の延長線にあるらしく、この無間地獄に放り込まれた新参者は後者の何の抵抗もしない集団の肉体を使って性的快楽を得ようとするのだがうまくいかない。これは実体験として私は知っている。


行間に閉じ込められたことある。辞書を読んでいる時循環する定義の不文律の間を行き来することしかできなくなった。互いが互いを比喩しあう。その無限ループの中で


目を見開いたまま、カタレプシーにかかったかのように微動だにしない。


自身に都合の悪いことはすぐ忘れてしまうからこそ健全に生きられるのだとその時もそう考えていた。そして、日をまたぐとそのことすらすっかり忘れてしまっていた。


検閲済み


自分の手に入れたものを更に手に入れるには手放さなければならないとようやく理解した。そうやって当たりを引くまでカルマを回し続けるのだと。


離婚手続きは首尾よく事が運んだ。コルトの引き金を引き自身のこめかみに銃口を当てる。ペンを持ち自分の名前を署名するのとなんら変わらない。引き金を引くと弾丸は雷管を叩かれて火を吹いた。神経伝達の約1/2の速さで脳が引き裂かれる。衝撃だけで痛みはない。


強烈な異臭に鼻が鈍る。寄せ付けないための逆行するフェロモンを発して彼は身を守っていた。彼を構成する細胞一つ一つが腐臭を固めたような、匂いとして圧倒的な存在感を持ちながらその物質的存在は不確かだった。蠅すら彼を避け細菌やカビも逃げ出すほど強烈なため彼の身体は干からびるばかりで腐らない。


退屈を紛らわすため気まぐれに人工地震を起こしてると、大地にヒビが入り、それが亀裂となり、地割れになり、メリメリと音を立て地球を一周し、分裂してしまった。2つの分裂が4つになりそれが8つへとまた分かれ、指数関数的に増加し最後には大きな女の顔を形成した。その顔は戦争だった。


そんなことは望んでいないのに、ただストーリーを面白いものにするためだけに特異で不幸な人生を送らなければならなかった。初めから不幸が決定されていた。産まれる前から。


彼が更に抗弁すればするだけ立場が悪化してしまうのだった。人は印象的側面しか見ない、特にそうするのが都合のいい時には。彼は声を張り上げ如何に人の興味が注目された人間を疎外するかを語った。興味は常に危害を加えるものだと彼は語った。岡田有希子の飛び降り、ダイアナ妃の事故写真を━彼はこれをいつも懐に入れ機会があれば見せれるように持ち歩いていた━ワンカップ片手に見せた。


約物乱用

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