機人、冒険中
蒼
第1話 昔の話
今からほんの数千年前の話。
その頃は温暖化が進み、人間が生身では生きていけないほどの暑さだった。
対策として裕福な国家においては気温維持の装置を利用していた。
この気温維持装置はAIによって生存が不可能なほどの高温になると今後予想された為、長い時間と予算をかけて用意されたのだ。
そして、人々は気温維持装置による影響の範囲の中に都市を作り上げ、その中に身を寄せ合って生きるようになった。
都市の中心部では通常の服で問題なかったが、都市の外や装置の影響の境目に出る際には対高温用の全身をすっぽりと覆う防護服が必要なほどだった。
問題は他にも存在した。
気温維持装置の有無という差である。
貧しい国々では先進国の支援もあったが、莫大な費用と時間と技術が必要な大規模な気温維持装置の設置と維持は難しかったのだ。
そのため、小規模の気温維持装置の設置は行われた。
だが、すべての国民を安全に覆えるほどではなかった。
灼熱の大気にさらされた結果、多くの人々が耐えられずこの世を去っていった。
一方、裕福な国家では人口の減少が始まり、数多くの仕事が機械によって代替されるようになった。
その結果、豊かな国の一部の人々の中には生まれてから死ぬまで一歩も家から外に出なくても、生きていけるほどとなった。
このような問題を抱えながらも、人類は生存していた。
しかし、ある日更なる問題が発生した。
貧しい国の人々の間で争いが起きたのだ。
正確に言うと、気温維持装置の範囲のギリギリ境目に住む常に高温にさらされていた人々が中心部の国の中では裕福な方の人に対して争いを起こし装置を乗っ取ったのだ。
乗っ取りの知らせを受け取った後、世界は荒れた。
乗っ取りの情報が世界を駆け巡ったのだ。
その中の一人がこう考えた。
あんな国のやつでもできるのなら。
貧しいもの、差別を受けているもの、現状に不満があるもの。
彼ら、あるいは彼女らは集まった。
そして口々に叫んだ。
なぜ、あいつらは適温の部屋でのんびり遊んでんだ。
俺たちがこんなにも苦しんでいるのに。
ふざけんな。ゆるせねぇ。
それは最初はほんの小言だった。
しかし、長年ためにため込んだ怒りが渦巻き始めた。
そして、膨れ上がった怒りのエネルギーは暴走した。
数多くの気温維持装置が争いの末により強奪された。
強奪ののち、奪還されることもあり多くの血が流れた。
仲間を傷つけられたものは怒りに吼え、報復に次ぐ報復が行われた。
争いは止まらなかった。
ある一人の復讐者はこう考えた。
倫理観なんて捨てて、争う道具が欲しい。
奴らを肉片すら残らず消し去りたいと。
しかし、こうも考えていた。
俺たちは死にたくない。
絶対に生き残りたい。
でも、もう血は見たくない。
そんな考えは多くの人々を動かし、兵器の理想形が考えられた。
見た目は人そのものだが、内部は機械そのもの。
その兵器は自ら学び、進化し続けられる。
人の意思すらも模倣する。
そして、材料と許可さえあれば無限に自らを生産し続けることもできる兵器。
そして、セーフティーは強固に掛けられた。
絶対に裏切らない兵器。
みんなが好き勝手に描いた結果、なかなかに無理難題が書いてあった。
勿論最初は失敗の連続だった。
人らしき何かを作り出すだけだったり、
暴れるだけの知性が一切感じられない存在もいた。
しかし、数多くの犠牲の末に研究は進んだ。
そしてある人物が実験を成功させた。
人と機械の融合体が作り出されたのだ。
その融合体は機械の体と人間の脳を併せ持つ生物であった。
正直、最初の想定からずいぶんそれた所に着地した気もするが、最初に言い出した復讐者はとっくの昔に流れ弾で死んでいたし、墓場から文句を言ってくることもなかった。
その新しい生物の名前は、研究者の間で意見が交わされた。
色々な案が出たが、途中で煮詰まってきて超機械人、完全殺りく兵器X、プルプル、脳みそ1号など意味不明な名前が出始めた。
そして、「もう、無難なのでいいんじゃない」という一人の研究者の言葉で、「機人」と言う名前に決められた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます