24話 作戦会議に余談を許さない
「マウントを取られている気がします」
冬司はむくれたような顔を向けた。
俺たちは今、先程咄嗟に避難した喫茶店のテーブル席にいる。先程のメンバーに柚穂さんを加わって、俺と柚穂さん、それに相対するように冬司と秋菜ちゃんが座っている。
これから生徒会選挙の話し合いを始めようとしていたところだったのだが……
「冬さん? 言いたいことがあるのなら言って頂戴。せっかく全員揃ってお話し合いを始めようとしていたところじゃない……」
「……」
俺の指摘にむっすりとした冬司の表情が帰ってくる。可愛いな?
そして柚穂さんを見れば、
「ふふふ……」
なぜか得意げな顔を冬司に向け、ほくそ笑んでいた。
「茉莉ちゃん、
いかにも、柚穂さんの言った通り、俺の服は昨日買った柚穂さんとの色違いである。そして柚穂さんも同じく昨日買った服を着ていた。
「ええ。柚穂さん、よくお似合いよ? 今日も素敵ね」
「えへへ……」
俺が毎度の如く褒めると、柚穂さんは気恥しそうに照れ顔になった。
そんな俺と柚穂さんの会話に冬司が割り込んでくる。
「二人は昨日遊んだんだっけ? その服かわいいね? どこで買ったの?
どうやら冬司的には俺と柚穂さんが双子コーデでいるのが気に食わないらしい。
意中の女子と友人がお揃いの服を着ているわけだし? その気持ちは分からんでもない。
だがな? そう露骨に不機嫌になるのはよくない。
薄暗い感情は一度胸にしまって、俺がしたようにまず、服だけじゃなく、柚穂さんを含めた上で褒めることが先決だと思うぞ?
それが紳士の嗜みってもんだ……今は淑女だったか。
とにかく意中の女子の前ではいい子ちゃんでいろよ……お前の文句なら後で聞いてやるから。
なんて俺の心配は杞憂だったらしく、二人は会話を続けていた。
「お! 冠城さんも買っちゃう? そしたら三つ子コーデになるね!」
「綾瀬さん、後で教えてね?」
……意外と仲は良さそうだ。
「オッケー。ふふ……それまでは私が茉莉ちゃんと双子コーデ、だね?」
「クッ……」
冬司はしばらく苦虫を噛み殺したように、恨めしそうな顔を柚穂さんにむけていた。
これ、仲良いのか……? 先が思いやられる。
そういえば柚穂さんと冬司は普段どんな会話をしているんだろうか?
二人だけで喋っているところをあまり見たことはなかったが。
この雰囲気を見る限り、それなりにやり取りはしているのだろう。
「ふふ。加えて茉莉様は今、私が選んだ服を着ています」
「ぐぬぬ」
「写真に収めてあります」
「ぐぬぬぬぬ……」
「これを餌に票を集めます」
「……許した」
勝ち誇った顔の柚穂さんに難しい顔の冬司。妙に声を潜めて喋っているもんだから微妙に聞こえない。
しかし、どうもファンクラブ関連の話をしていると見える。なにせこの二人の共通接点は俺のファンクラブとかいうトンチキな秘密結社だもんなあ。
ん? いや、待て待て? だとしたら尚のこと何を話しているのか気になるじゃないか! ああ、歯がゆい……!
「あの……皆さんいつもこんな感じなんです?」
そういえば、秋菜ちゃんがすっかり蚊帳の外だ。
「秋菜ちゃんごめんなさいね? すっかり話が逸れてしまって」
「いえ、おに……姉と。茉莉先輩の、切り替えの落差を見て……正直驚いています……」
「そ……そうかしら?」
「いいですね……ギャップがすこ……じゃなくて、えーと。高等部の皆さん、楽しそうで」
目を細めた秋菜ちゃんは指を交差させて、
「……少し羨ましいです」
小さく笑った。
くぅ……こんな気だてのいい妹がいるというのに……!
冬司ときたら、柚穂さんとヒソヒソ喋ってばかりだ。
……まったく。
「ほら冬さん?」
「うぇっ、な、なに?」
「……いったい何にニヤついてるのか知らないけれど、まず柚穂さんに秋菜ちゃんを紹介なさい」
「あ! あーそっか。てへ」
冬司は舌を出して戯ける……俗に言うテヘペロ。あざとい、だが? それがいい。
冬司は俺の言うことを素直に聞いたようで、柚穂さんへ向き直る。
「綾瀬さん、ワタシの妹の秋菜。えーっと、助っ人に呼んでってうるさいから連れてきたんだけど……この通り、思春期真っ最中の妹だよ! ほどほどに仲良くしてやってね〜」
「ちょっと、おにい!」
「あはは……」
少し引き攣っているもののニコニコ笑う柚穂さん。
秋菜ちゃんは冬司がまともな紹介をすることを諦めたらしく、仕切り直した。
「綾瀬先輩、
「これはこれはご丁寧に……いや〜しっかりしてえらいね〜」
「……あ、ありがとうございます」
褒められた秋菜ちゃんは少し照れた様な顔をしていた。
「茉莉ちゃん茉莉ちゃん!」
目を輝かせた柚穂さんの顔がこちらに向く。
「はい」
「この子! かわいいよ!」
俺にいきなり話が振られたかと思ったら……なに?
「……そうね?」
「やばいよね!!」
「そ……そう、ね?」
興奮する柚穂さんは、その矛先を秋菜ちゃんへ向けた。
「秋菜ちゃん? もし今のお姉ちゃんが嫌になったらいつでもうちの子になっていいからね⁉︎」
「あ、ありがとうございます……心に留めておきますね」
柚穂さんの妹化勧誘に、秋菜ちゃんはほんのり頬を染めていた。果たしてこれはいいのか。
ひとまず? 紹介も済んだので俺は本題を切り出すことにした。
「さて。ひとまず、ご挨拶も済んだところでいよいよ本題に移ってもよろしくて?」
「……本題って?」
冬司、お前は把握しとけよ!
「生徒会選挙のことなのだけど……」
「こほん……私の把握してる限り、現在立候補者は7名。うち5名は中等部から条成です。茉莉先輩の弱点は外部生扱いになっていることかと」
冬司に代わって、秋菜ちゃんが舵を切ってくれた。やっぱり頼りになる。
「外部生……扱い?」
と、思ったが柚穂さんの鋭さが一枚上手だった……
「え、ええっと、条成のことはよく知っていたのだけれど? やんごとなき事情で在籍は高等部からになってしまったのよ!そう、やんごとなき事情よ! ね!?」
「あ、ははい! そうなんですよ〜はは」
秋菜ちゃんを巻き込んで俺は必死になって誤魔化す。さっき飲んだアールグレイの水分は全て冷や汗になっちまったんじゃなかろうか。
「2人とも……なんで慌ててるの?」
──抜かった! なんたる墓穴!
「……やんごとなき事情、かしらね?」
……平然を装って言ってみたが、俺自身なにを口走っているのかまったく分かっていない。
「そっか……そうだよね。そういうことなら……私が応援演説した方がいい?」
なにが『そういうこと』なのかさっぱりわからないが……お嬢様的拡大解釈の力学が全てを誤魔化してくれたに違いない。そう信じよう。
すると、ついさっきまでブラウニーに夢中だった冬司が割って入ってくる。
「いやいや、ここは
「でも冠城さんも外部生じゃん?」
「ぐぬぬ……じゃ、じゃあ、じゃんけんで」
「「じゃーんけーん……」」
こう、二人は険悪なのか仲がいいのかはっきりしないな? 張り合っているかと思えば、仲良さそうにしていたりもする。
じゃんけんで一喜一憂する美少女2人、まぁ側から見てるぶんには目の保養になっていいか。
じゃんけんの結果、結局スピーチは冬司に決まったようだった。
……うん、不安だな?
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