第2話 開始5秒でエロルートが売りのゲーム
前世の記憶があったので転生した事にはすぐに気づいた。
この世界が『マスターピース! 竿役王で俺はオナる!』(以下マスオナ)の世界である事に気付くのにもそれ程時間はかからなかった。
転生した英二は高一になったばかりで、名前も主人公と同じ
わざわざ言うまでもないと思うが竿役のもじりでマスオナの主人公にして竿役である。
この世の中にわざわざ竿役めいた名前をつける親がいるとは思えない(いたらごめんなさい!)。だからここはマスオナの世界に違いない。
もう一つ証拠を重ねるなら、英二こと竿谷九朗が通っている学校はマスオナの舞台である私立
こんないかにもエロゲの舞台みたいな名前の学校がリアルに存在するとは思えないので(あったらごめんなさい!)ここはマスオナの世界に違いない。
おぉ、なんと素晴らしい事か!
九朗は歓喜した。
鏡に映る自分の姿が別人のようなイケメンだったからである。
生前の佐藤英二は享年42歳童貞死因オナニーの名に恥じないブ男だった。
チビでデブでハゲで小汚い腋臭の眼鏡チー牛である。
若い頃は英二だって人並みにモテを意識して身なりを気にしていた時期はある。
でも駄目だった。
真珠をつけてもブタはブタ、むしろ滑稽だと笑われて調子に乗るなとイジメられた。
思い返せば学生時代の躓きがその後の英二の人生を決定づけた。
俺なんかが頑張った所で無駄どころかマイナスだ。
英二は内にこもりオナニーばかりして過ごすようになった。
彼にとって学生時代は嫌な思い出しかない地獄ような期間だった。
だが、この見た目ならどうだ?
背は高くて筋肉質、顔つきだって嫌味のない好青年的な爽やかイケメンだ。
こんなのどう転んだってスクールカースト上位の勝ち組決定だろう。
まぁ、ゲーム内の九朗はエロゲの竿役らしく中身はとんだ下衆野郎で、恵まれた容姿を利用してヒロイン達を食い荒らしていたのだが。
とにかく英二はイケメンに生まれ変わった。
その上高校生から人生をやり直せる。
オナニーばかりしていた恥の多い人生を変える事が出来るのだ!
英二の望みはただ一つ。
今度の人生は自分自身に恥じる事ない有意義な物にしたい。
ただそれだけだ。
ここがマスオナの世界で自分が主人公の竿役だという事実は気がかりだったが。
現実はゲームとは違う。
今の英二は外見こそ竿役の竿谷九朗だが、ゲームのキャラと違って自分の頭で考えて自由に行動する事が出来る。
下衆に生きるも正しく生きるも全ては自分次第である。
「なら俺は、自分で自分を誇れるくらい格好よく生きたい!」
そうする事が無駄にしてしまった佐藤英二の人生と、あんな自分でも愛してくれていた両親に対するささやかな贖罪になると信じて。
「九朗さん? なにしてるの?」
「りょ、涼子さん!?」
いつの間にか自室の扉が開いていた。
不思議そうに小首を傾げるのは父親の再婚相手である
ボンキュッボンが熟れ切った豊満ボディの持ち主である。
言うまでもなく攻略対象だ。
九朗は幼い頃に母親と死別していて、父親が涼子と再婚したのは三年前。
九朗と涼子の関係は悪くはないが良くもない。
九朗がある程度大きくなってからの再婚という事もあり、義母というよりは父親の恋人という感覚の方が強い。
それでお互いに余所余所しい関係になってしまっている。
ゲーム上の設定では、涼子はどうにかして九朗の母親になりたいと思い焦っている。
そこに海外出張の多い父親とのセックスレスが加わって簡単に堕とす事が出来る。
所謂寝取りルートである。
実際のゲームでも開始直後に現在と似たような場面が発生する。
ここで『好きです! 涼子さん!』を選んで抱きつけばなんやかんやあって手コキイベントの発生だ。
英二はマスオナを文字通り死ぬほどやり込んでいるのでほとんど全てのルートを遊んでいる。
(リアル涼子さんに手コキして貰える……)
ここがマスオナの世界ならゲームの通りになるはずだ。
その事実に、九朗はゴクリと喉を鳴らした。
佐藤英二は童貞だった。
そういうお店にも行った事がない。
興味はあったが勇気が出なかった。
救いようのないブ男の癖に、いや、救いようのないブ男だからこそ見た目のコンプレックスが強かった。
英二はチビでデブでハゲで小汚い腋臭の眼鏡チー牛である。
その上短小包茎で非勃起時は股の肉に埋もれて隠れる程だ。
それを仕事でやっている女の人にまで笑われたらいよいよ救いがない。
だが今はイケメンだ。
相棒だってずっしり巨大なズル剥けである。
これならコソコソと個室で用を足す必要もない。
当然リアル涼子さんに見られたって恥ずかしくない。
最初こそ戸惑うが涼子は九朗を受け入れるだろう。
あとはなし崩し的にズルズルと関係を深めるだけである。
父親は海外出張でほとんど家に戻らないから実質九朗の嫁も同然である。
ここでちょっと涼子に猫撫で声で抱きつくだけで九朗は初めての手コキを体験出来る。
それだけではない。
その他の生前はエロコンテンツの中でしか縁のなかったあらゆるエッチなプレイを好きなだけ堪能できる。
なんとも魅力的な話である。
実際生前の英二は何度もそんな夢物語を妄想した。
エロゲの主人公に転生してヒロインとヤリまくりたいと。
その夢は今、ほとんど叶ったも同然だ。
気が付けば九朗の股間は痛いくらい張り詰めてむず痒く熱を帯びていた。
もう一人の自分とも言える程に慣れ親しんだ衝動がガンガンと理性の門をノックする。
やれ、やっちまえ!
本当の男になれよ!
「……九朗、さん?」
押し黙る九朗に涼子が問いかける。
熱っぽい視線はチラチラとこれ見よがしに膨らんだ九朗の股間の辺りを行き来する。
涼子の瞳は戸惑いと恥じらいで涙ぐんでいたが嫌悪の色は感じられなかった。
むしろ、あり得るわけもない事態を期待しているようでさえあった。
佐藤英二は弱い人間だった。
エッチな事が大好きで、オナニーに耽溺して人生を棒に振った。
人一倍射精の快感を味わったが、ただの一度も愛のなんたるかを知る事はなかった。
(……俺はもう、佐藤英二じゃない! 今の俺は、竿谷九朗だ!)
いや、竿谷九朗はエロゲの竿役の下衆野郎なのだが……。
英二改めNew竿谷九朗が言いたいのはそういう事ではない。
とにかく俺は今度こそ真っ当に生きるのだ!
「な、なんでもない! 学校行ってきます!」
淫靡な空気を叩き壊すかのように大声を出すと、九朗は鞄をひったくって家を飛び出した。
「なるほど。これがマスオナの世界の主人公に転生するって事か。真っ当なルートを外れないように気を付けないとな」
これから九朗は様々なエロフラグに襲われるだろう。
一見すれば魅力的だが、これはゲームではなく現実だ。
将来的な事を考えたら、安易なエロルートは破滅の入口でしかない。
「エッチはしたいけど、それはちゃんとした相手とちゃんと恋愛してからだ」
折角貰った二度目の人生だ。
今度はちゃんと恋愛して、結婚して、子供だって欲しい。
その為には――。
「とりあえずその辺の公園のトイレで一発抜くか」
流石はエロゲの竿役だ。
このままでは性欲を持て余して仕方がない。
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