音のないメモリー

村上紫音

プロローグ 音のない世界

「音のない世界って、どんな世界なんだろう?」

「ね、なんか怖い。」

「ちょっと、離れよ。なんか私まで耳が遠くなりそうで怖い。」

周りで私のことを噂しているような、そんな感じがする。

いや、補聴器でも全く聞こえはしないのにはっきり聞こえるような声で言っている。

私は『霜月朔夜しもつきさくや』。私はもともと音が聞こえない。それもあってか、学校ではいじめられ、補聴器が何回も壊れてしまったりなど、精神的にも、経済的にも痛い思いをした。

私はもう補聴器をつけても、声だけしか聞こえず、環境音は爆発などの大きな音でないと聞こえない体になっていた。

でも、私には一つだけ他の人と違う能力を持っている。「記憶旅行メモリートラベル」が、私の超能力。この能力があれば、なんとでもなると思っていた…。

ただ、もう一つ、この能力の代償として持っているのような能力がある。

それは「本音読取シンクトーク」。つまり「第三のサード・アイ」を通して相手の心を読み取ることができる能力である。

一見、いい能力ではあるが、この環境だとそれがになってしまうのだ。私のことをどう思っているのか、なぜいじめるのか、見るだけでストレスが溜まっていく。

そんなこんなしているうちに、家に帰れる時間になった。

いじめられっ子の私は、帰る時間が近づくと、親が必ず近くで見守っているから安心できる。

お医者さんが言うには、「ストレスが溜まりすぎてしまうと、補聴器も完全に効かなくなるくらい耳が聞こえなくなるから気をつけて」らしい。

気をつけてはいるが…、

「こんな状況、どうにかしてくれっ。」

「あら、さくちゃんどしたん?」

「いいよ、ぶちまけたい時にぶちまけて。」

__完全にやらかした。

「あっ、なんでもないよ。ただお医者さんに言われたことを思い出しちゃってね…。」

「その気持ち、ホントわかるよ。こんな状況なのにストレスなんて消えるわけないじゃんって。」

「そうだよね、うん…。」

「ねぇ、音のある世界って、どんな世界なの?」

「そうだねぇ、何もかもが楽しいけど、楽しいものには必ず裏がつきものな世界かなぁ。」

「ふふふ、まるであたしの世界みたい。」

そうやって、家族で会話するのが私の一番の幸せかもしれない。

だけど、私って本当に生まれつき耳が遠かったのか?

「ねぇ、音のある世界に私がいた時って、あるの?」

「うーん、さくちゃんが生まれてから丁度2年が経った頃、急に病気が出ちゃってね。」

「なんの病気?」

「それはあたしにも覚えてないの。もしかしたら、音の感覚を取り戻せるキーになるかもね。」

「音の感覚を…取り戻す…。」

「ほら、さくちゃんには『記憶旅行メモリートラベル』という特別な超能力があるだろ?それを使えば音のあった世界で感覚を少しずつ取り戻すことができるんじゃないかな。」

___そっか。そうすればよかったんだ。

「ありがと。夜に試してみるね。」

果たして、本当に『記憶旅行メモリートラベル』で音の感覚が戻るのか…?



続く…。

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