磨いた成果を試すとき (クリスティーナたちの長い長い一日)
不自然とう汰
第1話 マリアンヌのペーパーナイフ
朝のホームルーム。
すでにイライラしてる私。
なにがそんなに面白いのかしら?
教室に響く黄色い声。
その中心にいるのは―
クリスティーナ。
栗色に輝いた長い髪を持つ少女。
それに見合うパッチリとした瞳と長いまつげ。血色のいい薄い唇。
それだと言うのに……。
その唇からは、私には理解できない幼稚な会話がこぼれ出す。
教室はもっと規律を厳しくしたらいいのに。くだらない話しをするな。大声で笑うなと。
それだけじゃ全然足りないか……。
「ここにいるマグノリア学園の生徒たちは特別なのよ。卒業すれば将来が約束されたも同然。あなたたちは選ばれたことを忘れないように。自由の中にある規律を意識してください」
はぁ、息が詰まる。
14歳でこんなこと言われるなんて。
確かにたくさんのテストを受け面談をして入学したんだけどね。
この学校の規律は厳しい。
だけど学校の高窓は好きだ。光を多く取り込むために作られた高窓が学園の玄関や廊下などいたる所にあり、そのいくつかには精巧なステンドグラスが入れられている。
天気のいい日は色とりどりの光を私たちに届けてくれる。
歴史的価値のある寺院のような全寮制の学園で私たちは皆で暮らしている。
厳かな空間に響く声は讃美歌ではなく、少女たちの笑い声や他愛もないおしゃべりが多いけれど。
最近妙に学園中が浮き足立っている……。
そんなことはいつものことって?
私たちは不安定なお年頃……思春期ですもの。かの有名なマグノリア学園の女の子たちですもの。仕方ないって?
そんなこと言われたら身も蓋もないじゃない。
ため息をつき、机の中から薄いノートと鉛筆を出した。
とっちらかった子たちのくだらない話を聞いていても竹頭木屑。物語を書いていたほうが何倍も面白いし、ためになるの。
ノートをそっと開くとペーパーナイフが現われた。
アートレッスンの時間に好きな模様を刻んだペーパーナイフ。
先生にも丁寧で素晴らしいと褒められたわ。自慢じゃないけど、これは美術館に飾れるんじゃないかと自分でも思っているの。
柄の部分は自分の名前と、反対側には好きな模様が入れられるの。まずはマリアンヌって自分の名前を彫った。
そして反対側には大好きなマーガレットの花を刻んだ。とても気に入っている。毎日指の腹でなぞっては柄の部分のおうとつを感じていた。
そうしているととても気持ちが落ち着く。もう見なくても、どう刻まれているか指が覚えている。
ひとしきりなでた後ハンカチで拭いていると、どんどん艶がでて銀色に輝きまるで本物のナイフのよう。
私は自分を輝かせる方法はわからないけれど、誰の物よりも輝いているペーパーナイフを持っている。
ああ、早く3時間目のアートレッスンの時間にならないかな。
眩しいっ-。
窓側にいたステラとエミリーが急にカーテンを開け、日差しが差し込んだ。
久しぶりの快晴-。
「いい天気」
「眩しすぎるわ」
そう言ってクスクスと笑っている。ちょっと失礼とかごめんなさいねとか、声をかけてくれてもいいじゃない。
「そういえば転校した子、元気かな?」
ステラがこちらを見て言った。
窓側の後ろから二番目に座っている私。私にも強い日差しは当たっている。(一番後ろの子は何ヶ月も病欠していると思ったら転校していたので実質私が一番後ろだけど)
「うーん、元気なんじゃない?知らないけど」
エミリーがそっけなく言っているのが聞こえる。私はそのまま目を伏せた。
それにしても挨拶もしないで転校しちゃうなんて珍しいわ。そんなに急いでいたのかしら……。
ペーパーナイフの先端が太陽の日差しに反射し、急に暗い床を輝かせた。私は慌ててノートを閉じた。
見つかったらまずい-。
でも心配はいらなかった。クリスティーナが話しだした。
長い前髪でほとんど顔が隠れた私のことなど誰も見てはいなかったし、なにが光り輝いたかなんてどうでもいいのだ。
みんなが思っていることはただ一つ。
クリスティーナの話を聞きかなくちゃ-。
ショーの始まりだ。
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