1.始まり
数ヶ月前、私は恋をした。その人は美形で、私には到底及ばない高嶺の花のような存在。その人のためなら何もかも投げ出したいと思うほどだった。
出会いはとある飲み会で、その人と偶然会って話したときだった。男性二人、女性二人の飲み会。合コンとまでは行かないけど、みんな彼氏も彼女もいなくて、願わくば恋人を作りたいという思いで必死だったと今では思う。
その飲み会で最初に言葉を発した人物は、私が恋をした彼だった。
「みなさん、どこからきたんですか?」
この飲み会のメンバーはみんな同じ大学の人たち。でも、私の大学は様々な場所からくることで有名で、時には島から、時には海外からくる人もいる。
みんな各々の出身地を言い合って盛り上がっていた。
私はこの光景がとても楽しく、同時に嬉しい気持ちになった。高校の頃は自分に臆病で、周りとも話さないような人だったから、こんなに賑やかに話すことができるということだけで、私は幸せな気持ちに包まれていた。
そんなこんなで飲み会も終盤。すると突然彼は私に話しかけた。
「このあと二人でもう一杯どうですか」
私は自然と顔が熱くなっていた。こんな綺麗な人に二人だけの二次会に誘われてしまった。その事実だけで私は幸せだ。
私と彼はもう二人と別れたあと、別の店の暖簾をくぐった。
私はずっと笑顔だった。笑顔をしすぎて、表情筋が疲れてしまうほどだ。それだけ嬉しかったのだろう。
そして二人は何気ない会話を交わした。大学の共通の友達の話とか、教授の話とか、過去の恋愛の話とかもした。とにかくこの会話が私にとって幸せでたまらなかった。私は一人ふわふわした気持ちになっていた。
気づいたら私は酒を浴びるほど呑んでしまい、支えられないと起き上がれないほどにまでなってしまった。そのときの記憶は酒の中に溶け込んで行った。
起き上がるとそこは見知らぬ部屋のベットの上だった。
「お。目が覚めましたか」
彼はそう呟いた。私は赤くなっているだろう顔を毛布で隠した。その毛布が彼のものであるという配慮はそのときの私にはできなかった。
「汚い部屋のベットに寝かせてすみません。いやじゃなかったですか?」
「いえいえ。むしろ配慮ありがとうございます」
この狭い部屋に私と彼が二人。頭の血管がはち切れそうなくらい鼓動がとまらなかった。
当時の私には、この出会いがあの一瞬で薔薇のように棘のあるものになるとは、想像もつかなかった。
風鈴 TEAR-KUN @tear-kun
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