data№8 お手伝い 空想の友達 平和な日常
「んー普通病棟に戻れたけどいつ退院出来るんだろ。怪我とかは別に大丈夫だし……。てか、早く過去に帰りたい……」
今、窓を開け外を見ながらため息をついている少年は名を時尾 翔という。
翔はベッドでごろごろしていたが紙とペンを取りだした。
(よしっ、暇だし何か書くか!)
ということて文字を綴り始めた。
◇◇◇
開け放たれていた窓から秋風が吹き込む。
それは翔が書き込んでいた紙を巻き上げ、外へ連れ出してしまった。
「うわっ!」
翔は急ぎ下を見て、中庭(翔の病室は病院の中庭に面している)を探す。
(良かった、あそこに落ちてる。……て、早く取りに行かなきゃ!)
そうである。もし誰かに拾われたら翔の黒歴史のページは増えるに違いない。
病室を早歩きで飛び出した。
「セーフ!」
何事も無く紙を回収するのに成功した翔。
部屋に戻ろうとした時だった。
中庭周りの通路をヨタヨタと看護師が歩いていた。
「ふぅっ、重いわね……」
看護師である
(なんだって今日はロボットが、……っ!?)
足元が見えず躓いてしまう。
(やばいこれ、転んだら結構痛いやつじゃん)
歯を食いしばった。
しかし痛みは一向に訪れず……、
「……あれ」
「大丈夫ですか?」
黒髪の男の子が支えていた。
「う、あ、うん。ありがとう」
少しオタオタして言う。
その子はほっとした顔つきになった。
(危なかった〜。何となく転びそうだなと思ってたから、注意してて正解だった)
助けられてよかった、と翔は思う。
落ちた荷物を拾う。頑丈そうな箱に入っているのできっと中身は無事だろう。
「ごめんね、色々と……」
「いえ、それより重そうなのでそれ持ちましょうか?」
荷物を持ちながら翔は提案する。
看護師は迷う素振りを見せたが、申し訳なさそうに
「お願いしてもいい?」
と言った。
◇◇◇
「……へぇー、それで愛蘭さんが運んでいたんですね」
「そ。でもまさか運搬系のロボが故障しちゃうなんて」
「それで人力で運ばなきゃいけなくなった感じですか」
「そうなの! 修理にはちょびっとかかるって言うし。もうやんなっちゃう。あ、荷物ここね」
指定された場所に優しく置く。
「本当にありがとう。助かった〜」
「いえ、僕もお手伝い出来て良かったです。それじゃ戻りますね」
「お大事に〜」
翔が戻ろうとした時、廊下の角から男性の声がした。
「あーぁ。なんで壊れんだよ」
「それな。男だからって取って来いっていつの時代だよ」
「人手足りないっつーの」
翔は一瞬立ち止まったが踵を返し、彼等に声を掛けるのだった。
「手伝ってくれてありがとう」
「助かったー!」
「アタシを助けてくれってことは、きっとアタシのことすっk……」
ーーその後翔は病院内の職員を手助けして回っていた。
何故なら、小説を書こうにも長くは飽きてしまうし、手伝うことは良い運動になったからだ。オマケに感謝もされて嬉しい気持ちになれる、まさに一石二鳥である。まぁ、1部変な人もいたが。
◇◇◇
別の日。
「今日も手伝ってもらっちゃって申し訳ないわ。でもホント助かる」
「いえいえ、リハビリがてらなんで……」
「マジ感謝」
翔は愛蘭と新しい機材の運搬をしていた。
「あれ、閉まってる。開けるからちょいまって」
と愛蘭はどこかに行ってしまった。
手持ち無沙汰に翔が立っていると前方より笑顔の男の子が歩いてきた。
「こんにちは」
と挨拶され、
「こんにちは」
と返す。
……ここまでは普通の日常会話だった。
「ほら、あーちゃんも挨拶しないと」
と男の子が後ろに声をかける。
後ろにも誰か居るのかと翔は首を伸ばす。
が、男の子の後ろには何も居なかった。
「あ、あの」
「あ、すみませんねえ。この子人見知りが激しくて」
(え、見えないだけで誰か居る? 僕、目、悪くなった? そ、それともお、お化け!?)
そう考えていると愛蘭では無い看護師がやってきた。
「あ、いたいた。ロバートくん戻りましょう」
「すみません。あーちゃんがこっちに来たいって言ったもので」
「そうなんですねえ。でもいつものところに
「そうなんですか! どうする、あーちゃん。……やっぱり戻ります」
「それじゃ一緒に帰りましょうか」
などと会話して帰っていった。
結局
「やっぱり目、悪くなった?」
「それは違うわ、翔君」
「わっ、愛蘭さんいつの間に!?」
愛蘭が戻ってきていた。
「あの、なんかあの子には誰か見えてるみたいなのに僕、見えてなくて。……目が悪くないなら、脳ですか」
「いや、アナタは病気じゃないわ。どちらかと言うとあの子の方。あの患者様にしか見えないの」
翔はよくわからず首を傾げる。
「彼は解離性障害を患っているの」
「かいりせいしょうがい?」
「そ。その誰かはその人の空想。イマジナリーフレンド。だから翔君が見えなくて当たり前」
(自分にしか見えない……か)
ふと脳裏をあの少女か過ぎった。
(まさかね……)
「まあ、詳しいことは調べてみて。……と、その前にこれ、荷物運んじゃお」
「わかりました」
翔は少々腑に落ちない様子で荷物を持ち上げた。
◇◇◇
金髪頭が上下に揺れながら翔の病室の前で止まった。
「こんにちは、ショウ。元気にしてますか」
エリアスである。
「あ、エリアスさん! こんにちは。お久しぶりです」
「ふふ。久しぶりと言ったって1週間ほどしか経ってませんよ」
「そうですけど……。前はいっつも会っていたので1週間でもすごい久しぶりな気がするんです」
「確かにそうですね。担当を外れましたし……」
翔が要注意人物として隔離されていた時、護衛兼監視役だったエリアスは翔のマーク解除及び普通病棟への移動に伴い、通常任務へと戻ることとなっていた。
「それで今日来たのはショウに聞きたいことがありまして」
「なんですか?」
「
翔はハッとなった。軍関係者と関わりが増えたおかげで以前から興味を持っていたのだ。
「もちろんあります!」
「そうですか。嬉しいです。今お時間あるなら色々と紹介したいのですが」
「全然暇です!」
「わかりました。では、もう本で読んだかもしれませんがここは関東第一防衛都市で、中央の人口浮遊島に本部基地があり、それでーー」
「へえ、病院がここで。この塔に司令さんがーー」
「ーーそれと、私ではないのですけど戦闘訓練をしている映像もあるのですが見ます?」
「はい!」
エリアスが動画を再生する。
映像には大きな部屋が映っており、そこには背の高い女性が立っていた。
(あ、この人知ってる! ……ってあれ初めて見た人なのに。まぁいいか)
ブザーが鳴り、床から金属で出来た人型の的が3体現れた。
「ここからがすごいんです。目が離せません」
エリアスが得意げに言う。
人型が速い速度かつトリッキーな動きで女性に襲い掛かる。
それに一瞥をくれると女性は焦ることなく2丁の銃を構え、正面から来た的を一発で破壊した。
軌道は心臓を貫いていた。
すぐさま後ろから近づいていた的を感知して後方の宙を舞う。そして背面を捉え、首に風穴を開けた。
カコッとヒールの音を出し地に膝をつける迄の一連の流れは実に優美であった。
(すご! めっっっちゃカッコイイ! どうやってるんだろう……あれ? 倒したのは2体、出てきたのは3体。もう1体は?)
画面を探す。
(あ、上の方から! この角度じゃ見えない!)
翔の心配を他所に、女性は床に膝を着いている姿勢のまま目が追えないスピードで2丁を後ろ上方にダダンとぶっ放す。
見事に頭部と胸部を撃たれた的がガシャンと落ちて、動かなくなった。
女性はまあまあかな、といった顔をして立ち上がる。
『トレーニングを終了します。お疲れ様でした』
と無機質な声が流れ、動画は終わった。
「凄かったでしょう」
「いやもう、ヤバかったです! 特に最後のノールックとかも綺麗に決まってて!」
「この
「え、そうなんですか。凄っ。とにかくかっこ良かったです、上司さん! あーあ僕もあんな風に撃てたらな……」
「あ、エリアス君。居たんだ」
「リシアさん!」
盛り上がっているとリシアがやってきた。
「これはこれは、リシア様。失礼しております」
「お久しぶりです!」
「久しぶりって3日4日会ってないだけでしょ」
「そうですっけ?」
そこで3人に軽い笑いが起こる。
「あ、そうだ。リシアさん、エリアスさんがこんな動画見せてくれたんです」
翔はリシアにも動画を見せた。
「あ。これザフィーラちゃんの訓練映像だね。相変わらず綺麗な銃さばきだなー」
「やっぱりリシアさんもそう思いますよね! 特にこの部分!」
「うんうん。俺もそう思うよ。……成程。何見てんのかなって思ったけどこれだったんだ。
「ええ。軍に興味を持って欲しくて、ね」
エリアスがニコリと言った。
リシアの眉がピクっと跳ねた。
「いやーでもさ、これ以上青少年にこんな物騒なもの見せない方がいいよ」
「そうでしょうかね」
と、リシアが動画の視聴を辞めさせようとした時、
「リシアさん、他のやつってありますか? もっと訓練見たいです。あ、迷惑なら全然大丈夫なんですけど」
と翔が目を輝かせて見上げた。
「ほら、ショウもこう言っていますし……」
勝ち誇ったようにエリアスがリシアを諭す。
翔の期待の眼差しに屈したリシアは
「うっ。……あ、えーと。ん〜どれがいい?」
結局聞いてしまった。
「リシア様の訓練も気になりません?」
「あー確かに!」
「俺の!? 人に見られんのは下手過ぎてちょい恥ずいんだけど……」
と言いつつ動画を再生するリシアであった。
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