神々のカイナ~現世に暮らす豊作神と巫女と、人々と神々と~

イズラ

「パーカー娘と天神」編

#1「巫女こと苦労人」

 天知あまち市。数多くの自然・文化遺産を持ち、その歴史は千五百年以上とも言われている。

 街外れにそびえる作里山つくりざんも自然遺産の一つだが、雲抜けた先の山の頂上に、忘れ去られた神社があった――。


 長い階段を登った先にある鳥居には、『作里野つくりの神社』と書かれた板だけが掛けられている。

 賽銭箱へと続く参道に落ちた枯れ葉たちは、今日も誰かにはかれて・・・・いた。


「……ふーっ、お仕事終わりっと…………」


 作里野つくりの神社の巫女、作里野二千華つくりのにちか

 黒く長い髪を首後ろで結び、それを留める赤ロングリボンは風に揺らいでいた。

 巫女装束を身にまとい、今日も神社の巫女として働いていたは二千華にちかは、”主人”を呼んだ。


「ツクリミ様ー! 出てきてくださーい! いい天気ですよー!」


 ――すると、古ぼけた拝殿の方から返事の叫び声が飛んでくる。


「 「 いまはー! ねむいからー! むりー! 」 」


 二千華にちかは呆れたようにフーッとため息をつくと、仕方なく本殿の建物に歩き出した。

 賽銭箱の奥にあるふすまを開けると、広い癖にすっからかんな拝殿だ。

 いち神社の巫女は、木の板でできた床に土足でずかずかと上がると、拝殿の真ん中に敷かれた布団を見た。

 掛け布団の下では何かがモゴモゴと動いており、二千華にちかは布団をしばらくジーっと見つめた後、近づいていき――


「いい加減起きてください!」


 そう言って掛け布団を剥ぎ取ると、そこには丸まった少女の姿があった。

 次の瞬間、少女は「むっ!?」 と声を上げ、小刻みにブルブルと震え出した。


「さぁむぅいぃいぃぃいーー……!」


 二千華にちかは「ハァーッ」と声混じりのため息をつくと、引っ剥がした布団に目をやる。

 粗末に放り投げられたあったか毛布は、「一緒になりたい……、一つになりたい……」と、何故なぜだか主人との”融合"をこいねがっているようにも見えた。


「…………疲れてんのかな、私……」


 巫女こと苦労人は今日も疲労を重ねていく――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神々のカイナ~現世に暮らす豊作神と巫女と、人々と神々と~ イズラ @izura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ