第1章 第21話 三者面談

 皇室からの召喚に応じ登城した先で礼服に着替えさせられ、呼ばれた謁見の間では≪双頭蛇杖勲章そうとうだじょうくんしょう≫と≪天銀ミスリル剣翼勲章けんよくくんしょう≫なる2つの勲章を授与された。

 これらの勲章は、受勲者に対し毎年年金が支給されるという特典もある。謂わば不労所得が国から与えられるという証であった。


 それで終わりかと思いきや、アーデルフィア・ウェッジウルヴズとユイエ・アズライールの婚約の後ろ盾を勝手に買って出て、≪樹海の魔境≫を切り拓けば領地持ち貴族への道まで用意されてしまった。


 外堀を埋めるとの比喩表現はよくあるが、この場合、外堀を掘られて防壁まで用意した囲いの中に放り込まれたような気分であった。


 呆然とするまま案内された応接室で、両家の当主に一体どういう事だと責め立てられた。何かを答えるより先に応接室に皇王陛下と宰相閣下、そして皇女殿下がやってきた。


「突然の召喚命令に何事かと肝を冷やしてやってきたらこの騒ぎ。何が何やら分からぬ状況なのですが。宰相閣下、状況を教えて下さいますな?」


 ウェッジウルヴズ家の当主リオンゲートが、ウェッジウルヴズ大公の顔でエドワード・フォン・リカインド宰相に説明を求めた。


「まぁそう怒るな。悪い話ではなかろうに」

「怒る怒らないではなく、ものの順序の話です」


「アーデルフィアとユイエはカミュラの件を親にも話していなかったのだな?」

 ミヒャエル皇王陛下の問いに、ユイエが答えた。

「はい。皇室案件でしたので、家族だろうと皇室の許可なしに吹聴する事など出来ませんでした」

「そうか。では、そこから順序立てて話そう」

 ミヒャエルが頷きながらエドワードに目線をやり、丸投げを決め込んだ。


「では、私から説明を……。こちらにおられるカミュラ皇女殿下が体調を崩されたのが去年の7月頃の事。一向に改善の兆しがみえぬまま宮中の回復魔法士や医師にも原因不明で頭を悩ませていた折りに、アーデルフィア公女殿下が書かれた『≪魔力炉融解症≫の症状と延命治療の方法、根治のための方法』という論文に行き当たりました。記載された症状がピタリと一致し、試しに記載された対処療法を試みたところ、公女殿下の体調が小康状態に落ち着いたのです」


 エドワードがリオンゲートとヨハネスに順序立てて説明をし始めた。


「論文での被験者がユイエ殿であった事は、調べれば分かりました。そして≪魔力炉融解症≫を患ったユイエ殿はしっかり病を克服し、完治している事も。であれば根治するための施術の記載も信頼できるものと考え、皇室では密かにドラゴン種、ドラグーン種、悪魔デーモン種、神獣ファンタズム種などの優秀な魔力炉を持つ種族の心臓を入手しようと動いておりました」

 そこでエドワードがリオンゲートとヨハネスを順繰りに見つめた。


「当主のお二人はアーデルフィア公女殿下とユイエ殿が春季休暇中に何をなされていたかご存じですか?」


「≪樹海の魔境≫に狩りに潜ると聞いていました」

「そうですな。それは私も聞いておりましたし、実際春季休暇の10日と少しで屋敷に戻ってきました」


「では、その狩りの成果は聞いておりますかな?」

「いえ……。休みの度に狩りに出かけております故、何時もの事かと」

「同じく、帰って来たならそれで良しとしておりました」


 エドワードはその答えを聞いて、アーデルフィアとユイエに視線を動かした。「話しても良いか?」という無言の圧を受け、アーデルフィアとユイエは頷き返した。


「では。代わりに私から春季休暇中の彼女らの狩りの戦果をお伝えしましょう。緑種のドラゴン6頭、赤種のドラゴン6頭、です」


 驚いた顔でユイエとアーデルフィアをみるリオンゲートとヨハネスに、ユイエとアーデルフィアは居心地悪く視線を彷徨わせて、目を合わせないようにしていた。


「ここまでお伝えすればお分かりかと思われますが、改めて。皇室が秘密裏に入手しようとしていた竜種の心臓を、論文を書いた本人が自ら持ち帰ったのです。ユイエ殿とアーデルフィア公女殿下に皇宮に御足労頂き、根治させるための魔法儀式を行ってもらいました。しかしその結果、カミュラ皇女殿下の症状は完治できませんでした。これは入手したドラゴンの心臓の鮮度が悪く、失敗する可能性がある事を事前にアーデルフィア公女殿下が陛下と殿下にお伝えしていたものでした」


「なるほど……。春季休暇中にその様な事が」

「しかし完治できなかったのであればそれが、叙勲に値しないと思うのですが……?」


「然り。アーデルフィア公女殿下とユイエ殿はドラゴンの心臓を鮮度を保ったまま保管し運搬する魔道具をお持ちでしたので、その魔道具を使ってもう一度山脈へ向かい、新しい心臓を入手してきたのです。その結果、カミュラ殿下は無事に快癒されました」



「いかにも」

「アーデルフィア様のおかげで死病から解放されました」


 ミヒャエル皇王が鷹揚に頷き、カミュラ皇女が改めてアーデルフィアとユイエに頭を下げ、礼を述べた。


「頭をお上げ下さい。我々は我々に出来る事をやっただけの事です」

「既に2つの勲章を頂き、大変名誉な事であると思っておりますので」


 頭を下げたカミュラ皇女に慌てて頭を上げさせ、礼を受け取った。


「今回は諸々付随するものも多い。あえて功績として箔付けさせる言い方を取らせて頂きました」


「少々刺激が強いお話しでございましたが、勲章2つに相当するというお話しも分かりました」

 リオンゲートが言い、ヨハネスがそれに追従するように頷く。


「で、それと婚約の後ろ盾という話と≪樹海の魔境≫の開拓、領地持ち貴族化がどうつながるので?」


「アーデルフィア公女殿下とユイエ殿は学園生です。あと2年もすれば成人し、実家を離れ独立する事でしょう。黙っていればきっと探索者シーカーとして世界をまたにかけ、大活躍する事でしょう。国としては14歳という若さでドラゴン種を狩り獲れるような人材を、みすみす国外に流出させてしまう訳にはいきません」


 卒業後の進路は漠然と探索者シーカー稼業かなと思っていただけに、なんとも言えない顔になる。


「因みに、カミュラ皇女殿下の治療のため新鮮な心臓を手に入れるついでに狩って来たドラゴンは赤種36頭、緑種19頭、黄種48頭、計103頭であったそうです」


 エドワードは言葉を区切り、改めて若い二人をみながら告げる。


「言葉を飾らず申し上げると、我らが皇国に引き留めて囲うため、今回の不意討ちのような授与式と既成事実化を急いだ次第です」


 エドワードのざっくばらんとした物言いに二人の親もなんとも言えない顔をした。


「……話しは分かりましたが。受ける、受けないの選択の権利を、子供達に委ねるよう配慮をお願いします」

 リオンゲートが子供達を見ながら、エドワードにそう伝えた。


「勿論、人質をとって脅して配下にするような真似はいたしませんので悪しからず。アーデルフィア公女殿下とユイエ殿も、今後の人生の使い方の1つとしてご検討頂きたい。そのための“領地は切り拓き次第”という文言ですので」


「あぁ、勿論だ。やる、やらないは任せる。やってくれることが一番嬉しい回答だがね。ただ、領地開拓とはいえ場所が場所だ。土木魔法士をはじめとした人手が必須だろう。そのための人手の手配や工費の工面もエドワードがやってくれるから安心してくれ」




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