第1章 第19話 春学期(2)

週が明けて1日目。


 学内を歩いていると、遠巻きに見られている視線を感じていた。


「今日は妙に視線が多いですね」

ドラゴン狩りの件が広まってるんじゃないかしら?探索者シーカーズギルドの方に登録した生徒も多いという話だし」

「なるほど。納得しました」


「それより、学内で良い人材が居ないか探さないといけないわね」

「難しいですね。我々、友達いませんし」

「それね。なんでかしら?」

「本気で言ってます?」


 修練にばかり夢中になって時間を使い、同年代とのお茶会すら断ってる人間に友達が出来る切欠などあろうはずがなかった。


 それから実技の授業で見込みがありそうな人を探すように意識しはじめたものの、なかなか良い人材には出会えずに時間だけが過ぎていった。


◆◆◆◆


 そして週末。

 今日はマインモールド工房に行き、本店からきたスタッフの方々の紹介をしてもらう予定だった。


 皇都店に入店するとすかさずゼッペル氏が現れ、早々に応接室に通された。しばらく待つと、ゼッペル氏が店長のライゼルリッヒ氏と職人4名、付与師2名の計6名を連れてきて、紹介された。

 ゼッペル氏とライゼルリッヒ氏もそうだが、今回紹介された6名も皆鉱山族ドワーフである。


「はじめまして。ユイエ・アズライールと申します」

「はじめまして。アーデルフィア・ウェッジウルヴズと申します」


「こちらこそはじめまして。マインモールド工房の本店から出張で来ました鍛冶職人のガイエンと申します」

「はじめまして。私は付与師のアウルクと申します」


 鍛冶職人の代表としてガイエン氏が、付与師の代表としてアウルク氏がそれぞれ名乗り、握手を交わした。


「昨日皇都について早速竜ドラゴン素材を拝見させて頂きましたが、かなり状態の良い物ばかりで。どんな凄腕かと思っていましたが、想像していたより随分お若いようで驚きました」

 ガイエンが顎髭をしごきながら興味深そうに二人を眺めていた。


「こちらの工房で購入させて頂いた、天銀ミスリル合金の小剣のお陰ですよ」

 ユイエがそう言い、腰から鞘ごと抜いた小剣を見せる。

「私達が使う魔力マナプラーナに耐えてくれて、竜素材の甲殻や鱗、外皮なんかも綺麗に切断してくれたからこそです」

 ユイエに続き、アーデルフィアも鞘ごと抜いた剣を見せた。


「ほう、ほうほう……。神鉄鋼アダマンタイト合金かドラゴン素材、あるいはドラグーン素材の武器で狩ったものと思っておりましたが……。いやはや天銀ミスリル合金の小剣でしたか」


 職人達と付与師達が二人の小剣を手に取って状態を確認し、しきりに感心していた。


「いやはや、これはライゼルリッヒが興奮して我々を呼び寄せたのも分かろうというものです」


 ガイエン氏が小剣の刃をまじまじと眺め、しきりに頷いていた。


「今日は連れて来ていないのですが、普段はあと2名の耳長族エルフの騎士と一緒に探索者シーカー活動をしていまして。そちらは長剣と大楯を使っています」


 ユイエが今日は連れてきていない2名の事も話しておいた。


「それで、依頼内容はどうされますかな?」

 ガイエンが確認するように問うてくる。


「そうですね。全身甲冑を4人分、小剣を2振、長剣を4振、大楯を2枚。追加で探索者シーカーズギルドから納品されるドラゴン素材の買取価格も含めて、予算として仕上げてもらえれば」


 アーデルフィアが買取価格の御見積り明細を手渡した。


「予算内……。つまり、ドラゴン素材での装備とは限らない訳ですね?」


 アーデルフィアは頷き返した。


「えぇ、予算内に納まるのであれは、ドラゴン素材より上位の素材を使ってくれても構いません。上位の素材の使用は武器を優先して考えてもらえればと思います」


「承りました」


 ガイエン氏とアウルク氏が揃って立礼をし、再び握手して契約成立となった。


◆◆◆◆


 春学期は4月からはじまって6月初旬まで続く。6月初旬から8月末までが夏季休暇となる。

 3学年の生徒は6月中旬に卒業式が行われる。

 アーデルフィアとユイエの意識は既に夏季休暇に向いているのだが、その前に学年末の進級試験と学園内の闘技大会がある。


 進級試験はそれぞれ問題なく通過したが、闘技大会に関しては出場を辞退した。闘技大会は騎士や魔法士の採用に密接に関係し、良い成績を修めればそれだけ進路も優位になる。将来皇国に仕えるよりは探索者シーカーとして世界を回る可能性が高いと思っている二人は、真面目に皇国に仕えようと考えている者達に無駄な壁として立ち塞がるのもどうかと思っていた。


 そういった事情もあり、闘技大会は本戦だけ見学しに行った。本戦に残った者達の中には他と比べて明らかにレベルの違う者が何人かいたので、出ていれば面白い戦いが出来たのかも、と思いつつ観戦していた。探索者シーカー活動に誘うかどうかはこの時点では決められず、縁があればそのうち話をする機会もあるだろうと思うことにした。




(お願い事)

★評価、ブックマーク登録、♥応援 などのリアクションをお願いします。

コメントなしで★や♥だけで十分です。モチベーションや継続力に直結しますので、何卒よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る