第1章 第16話 春季休暇≪皇都帰還後≫(3)

 城に着くと門衛に指名依頼の書類を提示し、登城を求められた旨を説明すると中へと通された。

 正面玄関の前で馬車から降りると、衛兵の案内で馬車が待機所の方へと移動していった。


 別の衛兵の案内で待機所へと通され、そこで待機する。


「アーデルフィア様。その背嚢型の魔法の鞄マジック・バッグの中身って、アレですか?」

「察しが良くて助かるわ」

 アーデルフィアが頷き返してきた。

「アーデルフィア様に指名依頼で竜の心臓の件で呼び出しとなると、アレしか思い浮かばなかっただけですが」


 待機所でしばらく待っていると案内役の女性の近衛騎士が現れ、指示されるままに後ろをついて行った。

 通された先は皇城から回廊で繋がった別棟の皇宮で、足を踏み入れて良い物か躊躇いつつも後をついて行った。


 階段を登り3階の目的の部屋に辿り着くと、部屋の番をしていた近衛騎士に状況の引き継ぎをする。女性の近衛騎士が部屋をノックし、中に入って行った。


 アーデルフィアとユイエは入室許可が出るまで大人しく待つ構えである。部屋の入口を守る二人の近衛騎士とは会話もなく気まずい感じで待っていると、護衛を引き連れた40代程の男性が現れた。状況が分からず、アーデルフィアとユイエは立礼をして通り過ぎるのを待っていたのだが、男性はピタリと二人の前で足を止めた。


「(なんだろう?この部屋に用事だろうか?)」


 ユイエが内心で訝しさを感じつつも頭を下げたままの姿勢を維持していると、男性から声が掛けられた。


「アーデルフィア・ウェッジウルヴズ並びにユイエ・アズライールで相違ないか?」

「ハッ。アーデルフィア・ウェッジウルヴズでございます」

「ユイエ・アズライールでございます」


 二人は頭を下げた姿勢のまま名乗り、男性の足元を見続けていた。


「よい、面をあげよ」


 許可が降りたので二人は顔を上げると、男性が名乗りを上げた。


「余がアマツハラ皇国の皇王、ミヒャエル・ウル・レーヴェンハイトである」


 用事が用事なだけに顔を合わせる事も想定していたが、廊下で面会することになるとは思いもしなかった。


「二人は社交嫌いで滅多に社交の場に顔を出さないとは聞いている」


「ハッ。お恥ずかしい限りでございます。最後に顔を出したのは≪若木の儀≫でございます」


「よい。今日は探索者シーカーとしての二人と、研究者としてのアーデルフィアに用事があり、探索者シーカーズギルドを介して話しをさせてもらった。とりあえず部屋に入ろうか」


 ミヒャエル皇王陛下がそう宣言すると護衛の近衛騎士がドアをノックし、中から女性の近衛騎士が扉を開いて入室を促した。皇王陛下とその護衛に続き、ユイエとアーデルフィアも入室する。


 通された部屋はソファとテーブルが並んだ応接室のような部屋で、おそらくリビングとして用いられている部屋だと感じた。その部屋の奥に扉があり、そこから隣室である寝室に繋がっている構造であった。


 陛下に連れられるまま寝室に移動すると、ユイエ達と同年代と思われる年頃の少女が、寝台で上半身を起こした姿勢で待っていた。


「第四皇女のカミュラだ。もう察した事と思うが、≪魔力炉融解症≫を患っている」

「はじめまして、アーデルフィア様、ユイエ様。ご紹介にあずかりましたカミュラでございます」

「アーデルフィアが≪魔力炉融解症≫の論文を残してくれていたため、患いの正体に気が付くことができた。今は対処療法で魔力マナを抜き取る生活を続けている。対処療法も分からずにいたら、カミュラは既に亡くなっていただろうと思う」

「それで竜の心臓を?」

 ついこの間に12頭分の心臓を持ち帰ったのだ。ギルドに手を回して、皇室で手に入れたのだろう。

「そうだ。お主達が探索者シーカーズギルドで売りに出した竜の心臓を購入させてもらった。魔法儀式での病状の克服をアーデルフィアに依頼したい」


「ご用件は承りますが、ドラゴンが絶命してから皇都に持ち帰り、それから解体された心臓の鮮度で、必要十分な魂魄アニマが残っているのかは、やってみないと分かりません」


 ここで一旦説明を区切り、ミヒャエルとカミュラをみて言った。


「本日は以前に魔法儀式で使用した魔道具を持ってきましたので、先ずはここに取り出して施術を試しても宜しいでしょうか?」

「話しが早くてありがたい。頼む」

 許可をもらったアーデルフィアが、ユイエが背負っていた背嚢型の魔法の鞄マジック・バッグを受け取ると中から以前、竜の心臓を封じていた箱型の魔道具と魔法陣の刻まれた板状の魔道具を取り出した。


 魔法陣の書かれた板状の魔道具と、箱状の魔道具を開けて箱の中の魔法陣を設置する。


「ご購入頂いた竜の心臓をあちらの箱の魔法陣に設置してください。カミュラ皇女殿下はこちらの魔法陣へ」


 アーデルフィアの指示に従い、護衛が竜の心臓を取り出して箱内に設置し、女性の近衛騎士に肩を借りたカミュラが開いた鉄板状の蓋に書かれた魔法陣に乗った。


「思っていたよりも鮮度が落ちております。最善は尽くしますが、鮮度的な問題で魔法儀式で完治出来なかった場合、改めて竜の心臓を獲りに行きます。それでよろしいでしょうか?」

「わかった。それで頼む」


 ミヒャエルがアーデルフィアの言葉を承諾して頷いた。


「では、カミュラ皇女は上半身裸になって両手を回して竜の心臓を抱き上げてください。っと、その前に。殿方達は寝室から出てお待ちください」


「承知いたしました」


 皇王陛下とその護衛、およびユイエは寝室から追い出されてリビング的な応接セットの方で施術の終わりを待つ。



 寝室の方では、上半身裸になった皇女殿下が身を屈めて竜の心臓に両手を開いて抱き着く。それを確認すると、アーデルフィアが魔法陣に魔力マナを流して2つの魔法陣が発光しはじめ、竜の心臓からカミュラ皇女への霊的な移植作業がはじまった。




 アーデルフィアの持つ≪恩恵ギフト≫の一つである≪【解析者エリュシデータ】≫に魔力マナを回し、魔力マナの流れや魂魄アニマの状態を視覚で捉えて≪鑑定≫していく。


 竜の心臓から魔力マナ的・魂魄アニマ的な力を吸い出し、それをカミュラ皇女の体内へと移動させていく。

 過去にユイエに施した魔法儀式であるが、今回の竜の心臓からは以前ほどの魂魄アニマが感じられなかった。


「(やっぱり魂魄アニマが少ない……)」


 しばらく待っていると、カミュラの体内に霊的触媒、竜の心臓の魂魄アニマが納まり切った。


 霊的移植を済ませると【解析者エリュシデータ】が持つ≪鑑定≫能力を使い、状態を確認する。


「(……駄目ね。やっぱり≪竜の魔力炉ドラゴン・ハート≫の鮮度と魂魄アニマが足りていないわ)」


「……。お疲れ様です。魔法儀式は終わりましたが、やはり≪竜の魔力炉ドラゴン・ハート≫の鮮度不足で魂魄アニマが足りず、完治しておりませんでした」


 心臓から離れたカミュラに【清浄】を掛け、付着した血液等を綺麗に掃除する。【清浄】が終わると女性の近衛騎士がカミュラに寝衣を着せ直した。


「そうですか……。アーデルフィア様とユイエ様の方で、新鮮な触媒の再確保をお願いできるのでしょうか?」


「はい。このままでは終われませんので、この≪竜の魔力炉ドラゴン・ハート≫保管用の魔道具を持参して再入手して参ります」


 この後、魔法儀式での完治が出来なかった事をリビング側に居たミヒャエルに報告し、酷く落胆させてしまった。


「陛下。これからアーデルフィアと私が、護衛の騎士を連れてもう一度山脈へ赴き、≪竜の魔力炉ドラゴン・ハート≫を再入手してまいります。はじめから霊的触媒として利用する目的で保管用魔道具に格納して持ち帰ります故、もう一度機会を頂きたく」


「うむ……。そうか、そうであるな……。頼む。学園には公務での欠席となるよう手配しておく」


「「ハッ!」」




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