序章 第2話 訓練漬けの日々のはじまり
序章 第2話 訓練漬けの日々のはじまり
アマツハラ皇国の皇都カグツチの貴族街は、皇城を中心に円を描くように広がっている。皇城勤めの法服貴族の屋敷や、有力な領地持ちの貴族が皇都に滞在する際の別邸などが建ち並んでいる。
中でも二つの大公家の屋敷は特に立派で、皇城を挟んで東側に
アズライール伯爵家の皇都の屋敷は貴族街の南東の辺りに位置し、比較的ウェッジウルヴズ家の屋敷と近い場所にある。
ユイエがウェッジウルヴズ家の屋敷に到着すると、アーデルフィアから同居する兄姉や家令など、世話になる使用人達が紹介された。≪神樹の森≫から雇い入れた使用人達のため、皆が
外見のため、ユイエは感覚が段々麻痺してきた。
アーデルフィアの兄姉達の大半は嫁ぐか大公領での仕事についているらしいのだが、皇城勤めの兄が一人と姉が一人、この屋敷から登城しているという。第三公子の兄のライネは既に登城していて不在だったが、第四公女の美女リーエンディア殿下は出勤前だったようで、顔を合わせる機会ができた。
「ユイエ君、アディの相手は大変だろうけど、仲良くしてあげてね」
と直々にお願いをされた。この時のユイエはアーデルフィアの相手の何が大変なのか分からず、曖昧に頷くしかなかった。
ユイエに宛がわれた部屋はアーデルフィアの隣室で、今は大公領の≪神樹の森≫で働いている長男が使っていた部屋である。部屋の配置については、侍女達の仕事の効率を優先した工夫だと言っていた。
初日は荷解きと屋敷の設備の案内で日中は終わり、夕食後に今後の療養と教育の計画について、アーデルフィアからユイエに説明が行われた。
「≪新緑の儀≫の時に話しをしたけど、ユイエ君の症状はユイエ君自身の
アーデルフィアの説明にユイエは神妙な顔で頷いてみせる。
「自力でカツカツになるまで消耗できない最初の内や、体調が悪い時なんかは私が代わりに
アーデルフィアの説明にユイエは挙手をした。
「はい、ユイエ君」
「魔法や【身体強化】みたいな、
「よく勉強しているわね、いい質問よ。確かに
アーデルフィアは、ユイエが意味を消化できるようにもう一度繰り返す。
「しばらくは
翌日から早速アーデルフィア考案の訓練漬けの生活がはじまった。
「おはよう、ユイエ君!」
部屋に突入してきたアーデルフィアに起こされ、眠い目を擦りながら返事をする。
「……おはようございます、アーデルフィア様」
「運動着に着替えて走りにいくわよ!」
「あ、はい……」
アーデルフィアに引き摺られる様に着替えて庭に出るとまだ辺りは薄暗く、日の出の直後か直前のようであった。いつもならまだ寝ている時間に起こされ、着替えさせられ、そして訓練場の外周を一緒になって走る。
「ユイエ君、【身体強化】とか【心肺強化】とか、自分の身体を魔力で強化する経験は?」
「なんとなく出来てる気がする、くらいです。ちゃんとした修練ははじめてです」
「そう、それじゃこれから一緒に頑張りましょう。先ずは【身体強化】と【心肺強化】を意識して走りながら覚えて行きましょう」
夜明けと共に起きて
「(これ、絶対子供の訓練じゃない……)」
アーデルフィアが満足するまで走り込んだ後は、朝食までの時間に使い切れなかった魔力はアーデルフィアに抜かれ、カツカツになる。
朝食後から昼食までの時間は座学の勉強の時間に充てられ、昼食後から1時間の午睡をとる。
午睡の後から夕食までの時間は再び
夕食後から就寝までの間にアーデルフィアにまた
「疲労回復も掛けておいたから、明日の朝からも同じメニューよ。頑張りましょう!」
とてもではないが、5歳児に課す訓練メニューではない。朝の基礎訓練では倒れるまで走り、疲労で倒れたりするとすぐに治癒魔法の【疲労回復】が飛んできて回復されてしまう。片腹が痛くなってきたと思うと治癒魔法が飛んできて走り続けられる状態を維持される。
午後の
「リーエンディア様……。何が大変なのか、わかってきました……」
初日から「相手するのが大変」とか「変わった子」とか身内に散々言われていたが、その片鱗がユイエにも漸く垣間見えてきた。
「……アーデルフィア様、いつもこんなにキツイ訓練なのでしょうか」
「今日ははじめてだから随分手加減したわよ?延命治療と訓練ができて一挙両得でしょ?」
そういう問題ではない。ユイエは、「この子ちょっと変かも……」と気付き始めていた。しかし同い年のアーデルフィアが率先して頑張っている。自分だけ諦めるのも嫌で、アーデルフィアの訓練に何が何でも付いていくことを決意した。
「そういえば、魔力炉を強くする方法はどうする予定ですか?」
「出入りの商人に材料を頼んでおいたわ。新鮮なままで手に入るように特注の魔道具から作らせているの。手に入ったら試してみましょう」
◆◆◆◆
ユイエがウェッジウルヴズ家の屋敷に居候するようになって1ヶ月が経過した。
はじめの1週間は自力での
2週間目からはアーデルフィアの手を借りずに自力での消耗が追いつくようになった。
出来なかった事が出来るようになるという達成感は、ユイエの訓練に対する姿勢に大きくプラスの影響を与えることになった。
夜間の≪鑑定≫報告会で頑張った結果を詳しく聞けるのが、更にユイエのモチベーションを維持する良い原動力になっている。頑張った事をアーデルフィアに褒めてもらえるのが嬉しくなり、明日も頑張ろうという気力が湧くようになっていた。アーデルフィアにとっても、自分以外のサンプルデータが取れて、訓練がより効率的に行えるようになっていく。
「やっぱりアーデルフィア様の≪鑑定≫はすごいですね?」
「でしょう?特別製なのよ」
アーデルフィアの満開の花の様な笑顔に惹き込まれる。
「(……要求は厳しいけど、笑顔はかわいいんだよなぁ)」
ユイエはアーデルフィアを変な人だと思いつつ、一方で上手い事アーデルフィアに乗せられて、順調に染められていくのであった。
(お願い事)
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