第2話

 昨日からずっとしろちゃんのことを考えていた。

 触れられることを嫌がっていた彼女が、自ら触れようとするなんて。

 あの時に感じた胸の高鳴。あれは急にしろちゃんが触れてきたからびっくりしただけで大した意味なんてない……そう自分に言い聞かせても、しろちゃんの顔が頭からずっと離れなかった。

「ひゃっ……!」

 不意に後ろから首筋を触れられ、ドキリとする。

「あはははっ、そんなかわいらしい声初めて聞いたわ」

葉月はずきか。もう、びっくりさせないでよ」

「で、ゆずは好きな人のことでも考えてたのかい?」

「へ? は、はぁ? す、好きな人なんていないよ!」

「わかりやすいなぁ〜」

 好き? 私がしろちゃんを? 確かに触られて熱くなるのも、ドキドキするのもしろちゃんだけだけど。もしかしてしろちゃんだけが特別……特別?

 ︎︎ぐるぐると考えていると、後ろから声をかけられる。

たちばなさん、おはよう」

「えっ、しろちゃん!? ︎︎おはよう!」

 ︎︎しろちゃんから挨拶してくるなんて珍しい。いや、珍しいどころか初めてだった。

 ︎︎彼女はいつも無言で自分の席に着くので、私から挨拶していたのだ。

「ふ〜ん」

 ︎︎葉月は私達を見てなにやら楽しそうに笑みを浮かべている。そして私の肩を軽くぽんっと叩いた。

「ま、がんばれ」

「なにを!?」

 葉月は私の問には答えず、自分の席に戻ってしまった。なんだか葉月には色々見透かされてるようで今更ながら恥ずかしくなる。

 絶対私がしろちゃんのこと意識してるってバレてるよね。

「うぁぁぁ……」

 照れ隠しに顔を覆ってうめき声を上げていると、しろちゃんが口を開く。

「あなたはなにをしてるの?」

 手の隙間から除き見ると、怪訝けげんそうな顔した彼女がすぐ目の前にいた。

「あぁぁぁぁ……」

 私は再び手で顔をおおい、呻き声を上げる不審者と成り果てる。

 さっきからドキドキと心臓の音がうるさい。

 しろちゃんの顔を見るだけで、昨日の熱が再熱していた。

 ――ああ、これはもう認めざるを得ない。私はしろちゃんのことが好きなんだ。

たちばなさん、大丈夫?」

 しろちゃんの顔を見ると怪訝から心配そうな顔に変わる。

「だ、大丈夫だよ!」

「まぁ、あなたが変なのはいつものことよね」

「えぇ!? 変じゃないよぅ!」

 普段通りのやり取りが出来ていることにホッとする。だから油断していた。

 しろちゃんは手を伸ばすと私のひたいに触れる。

「熱はないみたいね」

「ひぇぃっ!」

 変な声が出て恥ずかしい。熱なら今上がりましたよ!?

「……今日はなんだか一段と変ね」

 自覚はあります。でも仕方ないよね? 好きな人に触れられたら変にもなるよ! なんて言えるはずもなく……。

「私が変なのはいつものことです……」

「さっきと言ってることが違うのだけど……大丈夫? 頭でも打ったの?」

 しろちゃんは私の顔をまじまじと見る。

 今日のしろちゃんなんか距離近くない? 顔がすぐ近くにあって心臓が持たないんだけど。

「しろちゃん……あの、顔が近いです」

「えっと……その、これは」

 ようやくしろちゃんも距離感が近いことに気づいたのか、顔を赤くして離れる。あたふたしてる彼女の姿は新鮮でおかしかった。

「……なに笑ってるのよ」

 しろちゃんは不機嫌そうにそう言った。照れ隠しに怒ってる顔も可愛い。

 いつもの距離に戻り、少しだけ心臓の音が落ち着いた。

 しろちゃんが近くにいるとドキドキと心臓が落ち着かない。でもいざ離れてしまうとなんだか名残惜しいなぁ、なんて思ってしまった。

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