セカンドレッスン


 俺はダッシュした。

 いの一番に出口の扉を目指した。


「逃がしません」

「ぐはっ!?」


 しかし音もなく回り込んできた水無瀬さんに腕を掴まれ、床に組み伏せられてしまった。


「なっ!? 体が、動かない!」


 華奢な水無瀬さんが出すとは思えない力に抑えつけられた体は、ビクともしなかった。


「油断しましたね? 合気道、柔道、空手……幼い頃からあらゆるお稽古をしてきた私にとって足音を立てずお相手の懐に入り込むなど造作もないことです」

「足音も立てず……ま、まさかここ最近、俺のことを見ていたのは……」

「はい、私です。あの階段、音を立てずに昇るの苦労するんですよね」


 俺は戦慄した。

 どれだけ気を遣ってもギシギシと軋む階段を、水無瀬さんは音も立てずに俺の部屋に忍び寄ったというのだ。


「てことは……あのパンツも!」

「わ、私のです。きゃっ。恥ずかしい」

「恥ずかしいならするな! なぜだ!? なぜあんな変態的なことを!」

「無論、空野さんをムラムラさせるためです!」


 またしても衝撃的なことを口にする水無瀬さん。


「私は見たいのです! 男性が性的に興奮する瞬間を生で! 正確には男性器です! それもお元気のない男性器ではなく、滾った男性器です!」

「やめないか! うら若き乙女がそんなこと口にするんじゃない!」

「乙女である以前に私は小説書きなんです! 小説をより良くするためなら、どんな手段も選びません!」


 俺は思い知った。

 ああ、この少女も璃里耶と同種の人間なのだと。

 なぜお嬢様である水無瀬さんが蘭胤荘に住んでいるのか疑問に思っていたが……彼女は来るべくして、ここに来たのだ。

 正気を失った瞳で、ヨダレを垂らしながら、水無瀬さんは俺を押し倒す。


「何でもするって言ったじゃないですか! 見せてくださいよ男性器を! ……いえ、おちんちんを! 大きくなったおちんちん! 元気なおちんちん! ちんちん! ちんちぃぃぃん!」

「うるせえええ! ちんちん連呼すんな! 下ネタではしゃぐ小学生か!」


 水無瀬さんに対して遠慮もなく強気となった。もはや彼女に尽くす礼など存在しない。

 水無瀬青花も、火村璃里耶と同じく変態少女だったのだから!

 いまこの瞬間、俺の中で辛うじて残っていた聖女の面影は完全に消滅した。


「裏切ったな! 俺の純情を弄んだな!」

「ノコノコ私の部屋についてくる空野さんがいけないんですよ! まったく無防備なんですから! 襲ってくれと言ってるようなものですよ!」

「それは普通男が言うセリフなんだよ! ちくしょう! 何が聖女だ! むしろ性女じゃねえか!」

「知ったことですか! 私だってただの女なんです! 人並みにエッチなことに興味あるんです! だから、ちんちん見せて!」

「見たければ他の男に頼め! アンタが頼めばどんな男だって喜んで見せてくれるだろうさ!」

「いーやーでーすー! 空野さんのおちんちんがいいの~! さっき男の人は苦手って言ったじゃないですかー! 他のおちんちんなんて絶対にいやー! 初めて見た空野さんのおちんちんが特別なの~!」


 お嬢様らしいワガママな一面を見せながら、水無瀬青花は俺のズボンに手をかけようとする。

 ええい! それだけは絶対にさせまいぞ!

 俺は必死に抵抗する。


「だいたい、なんですか空野さん! 女の子の脱ぎたてのパンツが落ちているのにどうしてご活用なさらないのですか!? 男の人は興奮して仕方ないはずでしょ!?」

「興奮より恐怖のほうが上回ったよ!」

「情けないですね! 官能小説の主人公なら迷わずクンカクンカと匂いを嗅いだり、アレやコレやなことしてぐっちょぐちょに汚すものですよ!?」

「もうやだこの痴女! 誰でもいいから助けてくれー!」

「なーに騒いでんのー? 管理人室まで聞こえてくるじゃないのよ」


 願いが天に届いたのか、大家である未遥さんが部屋に入ってくる。

 今日は珍しくシラフの状態だった。酒が入っていない未遥さんなら、さすがに力になってくれるはずだ。


「大家さん! 助けてください! 見ての通りこの変態に襲われているんです!」

「……なんだ。とうとう坊やの前でも本性出すようになったのね青花。まあ、ほどほどにしときなさいね?」

「は~い」

「えええ!? スルー!? そこは普通止めるところじゃないんですか大人として!」


 まるで、いつものこととばかりに水無瀬さんの暴走を見過ごす未遥さんに抗議する。

 未遥さんは「いや、無理むり」と申し訳なそうに手を振った。


「だってその子、見かけによらず大人の私より力あるんだもん。止めても返り討ちにあうだけよ。痛いのはごめんだね」

「アンタそれでも大家か!?」

「住民の自由恋愛にまで口出しはしませんよーだ。じゃ、避妊だけはしとけよー」

「アンタそればっかりだな!」


 やはり未遥さんは役立たずな大家だった。


「さあ、未遥さんの許可も出たことですし観念してちんちんを出しましょうか空野さん!」

「イヤだっての! 何が悲しくて官能小説の取材対象にならなくちゃいけないんだ!」

「むぅ~。確かにこのままではフェアではありませんね……いいでしょう。では等価交換です。私も璃里耶さんを見習って体を張ることにします」

「は?」

「モデルをやります。空野さんの絵の」


 拘束が解かれたと思いきや、水無瀬さんは顔を真っ赤にして制服に手をかけ始めた。


「なっ!?」

「……言っておきますけど、一応恥ずかしいんですからね?」


 そう言いつつも水無瀬さんはボタンを外す手を止めず、衣類を脱ぎ捨てて、純白の下着姿となった。

 いまなら逃げることもできたにもかかわらず、俺の体は硬直してしまった。

 変態であることが判明したとはいえ、あの水無瀬青花が目の前で脱衣をして、下着姿になったのだ。

 本能的に目が釘付けになってしまうのは避けられないことだった。

 璃里耶にも負けない豊かなスタイルだった。

 童顔で小柄な背丈とはアンバランスな発育ぶり。そのギャップが淫靡な魅力を強めていた。


「うぅ……私、男の人の前でこんな格好を……」


 自ら脱いでおきながら、水無瀬さんはいまさらのように身を抱きしめた。

 細腕に抱えられた豊かな胸がたわみ、谷間に深い影をつくる。

 大きいとは思っていたが、まさか脱ぐとここまで膨らみがあるとは。

 着痩せするにも程がある。


「そんなに、まじまじと見られると照れてしまいます」


 水無瀬さんが胸や股間を庇うように体をくねらせ、俺は慌てて目を逸らした。


「は、恥ずかしいなら服着ろよ!」

「そ、そうはいきません。空野さんに恥ずかしい思いをさせる以上、私も覚悟を決めます」

「そもそも決めなくていい!」

「ご遠慮なさらないでください。おちんちんを見せていただく代わりです。どうぞ私の体をモデルにして絵を描いてください」

「なに見せる前提みたいになってるんだよ!? 絶対に見せないからな!」

「そんな! 女の子が勇気を出して脱いだというのに見せてくれないのですか!?」

「そういうのを親切の押し売りというんだ!」

「ですが空野さん。いまイラストレーターを目指して女の子のエッチな絵を描いていらっしゃるんでしょ? であれば様々なモデルを参考にすべきだと思いますが?」

「いや、それは璃里耶が勝手に言ってることで……俺はエッチな絵でプロを目指す気はないって!」

「しかし璃里耶さんがおっしゃったんですよね? 空野さんはそういう方向で絵を描くべきだって。私は、璃里耶さんの審美眼に狂いはないと思っています。己の素質を受け入れましょう! あなたは、エッチな絵を描くべきなんですよ!」


 あたかも璃里耶の言葉は絶対と言わんばかりの顔だった。

 まさか水無瀬さんにまでそんなことを言われるとは。

 腹立たしくなってきた俺は、今度こそ水無瀬さんの部屋を脱出しようと立ち上がった。


「だから無駄です」

「ぐわー! 本当に何なんだ!? その超人染みた身体能力!」


 またしても逃亡は失敗し、水無瀬さんに後ろから羽交い締めにされる。


「ぬっ!」


 背後から密着されたせいで、水無瀬さんの豊満な柔肉の感触と体温がダイレクトに伝わってくる。

 背中のほとんどを覆い尽くさんばかりのボリュームたっぷりの乳肉が押し潰れ、俺は口をパクパクとさせた。


「わっ、男の人の背中って、こんなに広いんだ……」


 耳元で水無瀬さんが感動したように呟く。

 水無瀬さんの吐息が敏感なところにかかり、ゾクリとした快感が走り抜ける。


「凄い筋肉。クリエイターにとって体は資本ですものね。毎日欠かさず鍛えていらっしゃるんですね。とても男らしくて、素敵です」


 ウットリした声色で、水無瀬さんは俺の筋肉の感触を確かめるように体を撫で始める。

 こそばゆい手つきに変な気持ちになってくる。


「や、やめろ! 離せ!」

「どうやら空野さんはまだ、エロスを扱うことに羞恥心が残っているようですね。同じエロスを紡ぐ者として、これは放っておけません」

「放っておいてくれ盛大に!」

「空野さんの気持ち、わかりますよ? 恥ずかしいですよね? 自分の得意なものが、好きなものが世間ではハレンチなものとして扱われてしまうのは……」


 どこか慈しみの混じった声で水無瀬さんは言った。


「でも、しょうがないじゃないですか。好きになってしまったのですから。それを作ることが楽しくなってしまったのですから。だったら……自分の気持ちに素直になるのが一番です。私はそれを璃里耶さんに教えていただきました。だから空野さんも……」


 ウィスパーボイスで囁きながら、水無瀬さんはさらに体を押しつけてきた。


「自分の心によく耳を傾けてください。それがあなたを導く力になります。さあ、力をぬいて?」

「あ……」


 まるで暗示をかけられたように、体が脱力していく。

 水無瀬さんの柔らかな体が俺を受け止める。


「空野さんも言ってたじゃないですか。『せっかく物作りする人間が集まってるんだし、助け合ったほうがいい』と。私も同じ気持ちです。皆さんには創作者として成功してほしい。だからまずは……私が空野さんの縛る枷を外してさしあげます」


 水無瀬さんは唇をさらに俺の耳元に近づけ、フーッと甘い吐息を吹きかけた。

 経験したことのない悦楽が広がり、すっかり抵抗する活力が消えた。


「……少女の体は柔らかかった。服越しからでも、そのまろやかな感触と熱が伝わってきた」

「っ!?」


 水無瀬さんはとつぜん、耳元で謎の語りを始めた。

 これは、まさか……。


「大人しい顔立ちからは想像もできない、オス好みに発育した肉体……学園中の男子が憧れている少女の半裸を眺め、その魅惑的な体を当てつけられている事実に、頭が沸騰しそうになる」


 間違いない。水無瀬さんは即興で官能小説の描写を口にしている!

 それも、こちらの心境を代弁するように。


「触れる素肌が心地いい。少女特有の香りが鼻腔を吐き、脳髄が蕩けそうになる。たちまち少女の女体のことしか考えられなくなる」


 水無瀬さんが口ずさむ語りは、俺よく知っている官能小説そのものだった。

 彼女は間違いなく愛読している作者ブルーブロッサムだと、ここで確信した。


「若い生娘のくせに、オスを誘惑するために育ったかのような体。その豊満な胸に触れたい。くびれたウエストに指を滑らせたい。すでに子を孕めそうな安産型の尻を撫で回したい」


 恐ろしきは、水無瀬さんの語りが的確に俺の心境を見抜いていることだった。

 女でありながら、生娘でありながら、どうしてこんなにもオスの感情がわかるのだろう。

 そして俺は知る。己の内心を改めて他者に言葉にされると、ハッキリと興奮を自覚できることを。

 それも、水無瀬さんのような美少女の声で語られると、より効果は覿面だった。

 ああ、まずい。

 このままでは、水無瀬さんが語るとおり、頭が煩悩一色で染まってしまう。


「ああ、たまらない。このワガママに発育した体を絵に描いてみたい。身長152cmの低身長のくせに、育つところがとことん育った体を……バスト101cmのKカップを。56cmのウエストを。83cmのヒップを」

「ア……ウ、ア……」


 呻き声だけが漏れる。

 いまのはまさか……水無瀬さんのスリーサイズ?

 ヤバい。ヤバすぎる。なんだ、そのオスの願望を体現したような数値は。

 本当に、たまらなくなってくる。

 その理想的で扇情的な体を、心ゆくまで味わい尽くしたくなる。


「やらしい体。発育した女体。生娘の乳房。きめ細かな素肌。大きな尻肉。肉実たっぷりの太もも……ああ、もう我慢できない。滅茶苦茶にしてやりてー。ふざけんなよメスが。オス様をこんなに挑発しやがって。ああ、無理むり。辛抱効かない。やってやる。もう好き勝手にしてやるぞ」


 矢継ぎ早に水無瀬さんが淫らな言葉やセリフを羅列する。

 それはもはや催眠だった。

 意識は完全に水無瀬青花の言葉の力に引っ張れて、官能の色へと染まった。


「あ」


 ──ブチッ。

 と、理性の糸が外れる音を聞いた気がした。


    * * *


「もう……ダメだ……」

「空野さん? きゃっ!」


 カケルは自分でも驚くほどの力業で青花の拘束を解き、逆に彼女を抱え込んだ。

 抱き上げた少女の体を、洒落たベッドの上に降ろす。

 たちまち、『行為』の直前にしか見えない光景ができあがった。


「ちくしょう……璃里耶といい、アンタといい、無防備すぎんだよ。そんなやらしい体で迫られて正気をたもてる男がいるか」

「そ、空野さん……ああっ! なんてことでしょう! 私、これから空野さんに……」


 血走った目を向けてくるるカケルの様子から、青花は己の運命を悟った。

 ああ、いまから自分は女になるのだと。


「お父様、お母様、お許しください。青花はこれより大人の階段を昇ります! さあ、空野さん! 私は観念しました! ひと思いにどうぞ!」


 観念した、というよりはむしろ期待に満ちた顔で青花は力を抜き、ベッドに身を預けた。

 しかし、いつまでもカケルの手が青花に触れることはなかった。

 聞こえてくるのは紙にペンが走る音。


「え?」


 青花は目を疑った。

 カケルは机の上に置いてあったノートにペンを走らせていた。

 極上の女体を前に理性が消えたカケルが真っ先に取った行動はスケッチだった。


「ちくしょう、ちくしょう。上品な顔立ちのくせに体はムチムチに育ちやがって。興奮が止まらねえぞちくしょう」

「あ、あの、空野さん? 口にしていらっしゃることと行動が合っていないと思われるのですが? 襲わないんですか? 手を出さないんですか? 絵を描くことを優先されるのですか?」

「ジッとしていろ! モデルになると言ったのはアンタだぞ!」

「ぴっ!? は、はい!」


 どうやらカケルの絵描きとしての情熱に火を着けてしまったことを理解した青花は、大人しくベッドの上で動きを止めた。

 カケルは凄まじい勢いでペンを走らせる。

 しかし、その動きがとつぜんピタリと止む。


「……ダメだ」

「え?」

「やっぱり書き慣れたスケッチブックと鉛筆でないと思い通りに描けん。俺の部屋に移動するぞ」

「え? え? あ、あ~れ~!」


 またしてもカケルに抱きかかえられる青花。

 いわゆる『お姫様抱っこ』で二階まで連れて行かれる。


「はぁん! こ、これはこれで何だかドキドキしてしまうシチュエーション!」

「よし。布団の上に横になって」

「は、はい」


 青花は初めて男性の自室に連れ込まれた状況に困惑しながらも、カケルの指示に従った。

 愛用の絵描き道具で描き始めたカケルの手は早かった。

 何枚ものラフスケッチができあがっていく。


「ポーズを変えよう。今度は背中を見せて」

「こ、こうですか?」


 何度かポーズの変更を要求しながら、カケルは青花の下着姿を絵に描き起こしていく。

 璃里耶を描いたとき以上に、手がスムーズに動いた。璃里耶のレッスンの効果は大きかったらしい。

 女体を描くスキル。ソレをカケルは確実にモノにしはじめていた。

 加えて、青花が即興で艶美な語りを聞かせてくれたことも功を奏していた。

 完成度を向上させるうえで感覚頼りというわけにはいかない。

 青花が具体的に言語化してくれたおかげで、鮮明に彼女の肢体を絵の上で再現することができた。

 これまでの絵以上に、線の細部に色香が宿っているのを感じる。

 カケルは熱中した。

 楽しい。絵を描くことが、こんなにも楽しい。


「空野さん、なんて真剣な目……」


 全身に注がれるカケルの熱い眼差し。

 それは決して肉欲にまみれたものではなく、青花というモデルを貪欲に観察しようとする創作者の目だった。

 カケルのあまりの迫力に、青花は息を呑んだ。そして妙に胸がざわついた。


「璃里耶さんが空野さんを蘭胤荘に誘った理由が、わかった気がします……これが、絵描きの目……あれ? なんでしょう。こんなにも胸がドキドキして……」

「……できた」


 青花が謎の感覚に囚われている傍ら、カケルはようやく納得のいくラフスケッチを描き終える。

 すぐに液晶タブレットを立ち上げ、ペン入れに取りかかった。


「え、ええと、空野さん? もしもーし? ……ダメですね、完全にご自分の世界に入っていらっしゃる……」


 ラフスケッチが終わるなりカケルに放置されてしまった青花。

 手持ち無沙汰になった青花は布団から起き上がり、キョロキョロと室内を見回す。

 床には何枚ものラフスケッチが散乱していた。

 青花は試しにその一枚を手に取ってみた。


「え!? こ、これが私? はわわ、なんてエッチなんでしょう!」


 モデルになった青花自身が真っ赤になるほどに扇情的な絵だった。


「これも! こっちも! ふええ! 下描きの時点でこんなにもエッチに感じるだなんて凄いです! ……というか、私ってこんなにハレンチな体してたんですか!? うわっ、エッッッロ!? 私の体、エッッッロ!?」


 絵の中でなやましいポーズを取る少女が自分と同一人物とは思えないほど、青花は衝撃を受けた。

 スタイルが良い自覚はあったが、こうして改めて絵を通して観察してみると本当にオス好みの体つきをしている。

 それこそ、まさに官能小説に登場するヒロインのように……。


「……はっ!? な、何か……何かが降りてきました!」


 青花は感じた。

 すっかり不調になっていた執筆感覚。

 それが新たな刺激を得たことで研ぎ住まれていくのを。

 書ける。いまなら、書けると青花は確信した。


「空野さん! こちらの下描きお借りまします! よろしいですね!?」


 返事も聞く間もなく、青花はラフスケッチの何枚かを持って自分の部屋に戻った。

 カケルもペン入れに集中していたので、特に咎めなかった。

 カケルの意識はすっかり新作の絵に没頭していた。


「……凄いのが、できる気がする」


 カケルの手は一度たりとも止まることはなかった。

 衝動に従うままに色を重ねていき……そして、また一枚、渾身の絵ができあがるのだった。


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