第28話 ネーブルタウン防衛戦

 レイと甘菜は万理華の先導で、町の東側に作られた壁へとやって来た。レイと甘菜が横に並び五メートルほど先に万理華が、壁の外に広がっている荒れた田畑と点在する廃墟を見つめていた。壁の外に視線を向けた彼女の肩に装備された、ミニガンの機関部から伸びるレーザーポインターの光が、荒れた田畑をゆらゆらと動いている。


「海側の橋は破壊してあって、東側の壁の先にある橋を残してあるんだ。オークとゴブリンは泳ぎが苦手だからね。回り込むとしたらこっちだよ」

「こっちはこっちで市街地じゃなくて開けた場所で狙いやすいってわけですか」

「まぁね。敵を倒す場所を決めてれば魔石も回収しやすいし…… ねっ!」


 ねっという語尾と同時に万理華の肩に、装備されているミニガンが二丁同時に火を噴いた。夜陰に紛れ畑の中を通って壁に近づこうとしていたゴブリンが居たのだ。ゴブリンは黄緑色の体色をした子供くらいの人型の魔物だ。頭髪はなく小さな角が頭に生え、ぎょろっとした目に突き出た下あごから牙を生やした醜い顔をしている。知能はあまり高くなく手荷物武器も石斧や石の槍などの原始的なものが多い。ミニガンの銃弾はゴブリンの頭に命中し頭を破裂させ、荒れた田畑の伸び放題の雑草を肉と血で赤黒く染める。さらに一発の銃弾はゴブリンを貫通し背後にいるゴブリンにもあたる。

 一秒ほどの射撃で百体以上のゴブリンが肉片へと変わった。万理華は銃撃を止めるとレイに向かって口を開く。


「レイちゃむ! 来たよ。手伝って!」

「了解。姉ちゃんはいつでも盾をつかえるようにしといて」

「わかった」


 甘菜は盾を構える。レイはサブマシンガンを抜き左手に持って腕を壁の外へと突き出した。レイの銃弾はゴブリンの体を貫きゴブリン達は銃弾が貫いた箇所を押さえ膝をつき倒れていく。


「近づかないでよ!! みんな怖がるっしょ!!」


 畑を抜け壁に近づこうしたゴブリンたち、万理華の二丁のミニガンとレイのサブマシンガンで掃討されていく。甘菜はジッと万理華の肩に置かれたバルカンの機関部にレーザーポインターを見つめていた。


「私もあれ使えば…… 当たるかな?」


 甘菜の言葉を聞いたレイ、マガジンを交換しながら彼は彼女の言葉に答える。


「さぁ…… 使ってみれば? そっちの腕の機銃には確かレーザーポインターが標準装備だろ?」


 レーザーポインターを使えば、自分の射撃の腕があがるのではという甘菜、レイは戦闘中にどうでもいい質問をされたので適当に答える。甘菜が使うアルファは手の装甲に小型ガトリングが装備されており、装甲の先に射撃補助用のレーザーポインターも装備されている。

 

「よーしやっちゃうよ」


 盾を左手に構えたまま、横から右手を突き出す甘菜だった。突き出した彼女の右腕の装甲がせりあがり、腕と装甲の間からガドリングの銃口が姿を現す。


「シンシアちゃん! 射撃補助レーザーを出して!」

「リョウカイデス」


 装甲の先端から赤い不可視レーザーが伸びていく。甘菜は真剣な表情で赤いレーザー光線の先を見つめていた。手を動かし、ゴブリンの頭に赤いレーザーが伸びた瞬間に右腕を強く握りしめる。小型ガドリング砲から銃弾が発射された。銃弾はゴブリンをかすめて地面へと突き刺さっていく。ゴブリンは驚いて頭を下げてうずくまる、銃弾がゴブリンの周囲に突き刺さり砂煙を上げる。


「見て! ちゃんと敵の近くに行ったよ」

「近くって…… 当てなきゃダメなの! もう!」


 レイは慌ててサブマシンガンのを構え引き金を引く。銃声がしてサブマシンガンが発射された、銃弾は甘菜が撃ち漏らしたうずくまるゴブリンに命中し倒れた。


「次はちゃんと当てろよ」

「うぅ……」


 レイに声をかけられしょんぼりとうつむく甘菜だった。その様子を見たレイは小さく息を吐いて口を開く。


「まぁでも…… いつもに比べりゃ進歩してるんじゃないか」

「本当!? じゃあ次も!」

「こら調子に乗るな!」


 叱られてシュンとする甘菜だった。二人のやり取りを見ていた万理華は微笑むのだった。


「あれは…… もう! やっかいだな!」


 緩んでいた万理華の顔が真剣なものに変わる。夜の荒れた畑を青白い光が駆け抜けて来ていた。万理華は肩の二丁のミニガンを青白い光に向けて発射する。

 けたたましい銃声き銃弾が青白い光に向かって行く。青白い光は銃弾が到着する瞬間に大きく飛び上がった。青白い光は上空へと飛び上がった。わずかな月明りが飛び上がった青白い光を照らす。


「ガウアアアアアアアアアアアア!!!!」


 獣の鳴き声がする。青白い光は黒い大きなヒョウだった。全長五メートルほどのしなかやな筋肉を持つ輝くほど真っ黒な細身のヒョウ、鋭く細い目は緑に光って口元には長い牙が突き出ている。ただ、最大の特徴は長い二股に分かれた尻尾で細長い尻尾の先に青白い雷のような光を纏っていた。


「あれは…… サンダーパンサー!」


 レイが声をあげた。ヒョウの名前はサンダーパンサー、尻尾や全身に雷の力を宿す魔物だ。万理華は飛び上がったサンダーパンサーに向かってミニガンの銃口を向け発射する。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 ミニガンの銃声とサンダーパンサーの鳴き声が響く。サンダーパンサーの尻尾が青白く光ると、尻尾の先に帯電していた稲妻が全身を包んだ。同時に銃弾がサンダーパンサーへと届いたが銃弾は稲妻に弾かれ軌道がずれる。そのままサンダーパンサーは地面へと向かっていった。着地したサンダーパンサーは壁へと走り出す。


「レイちゃむも撃って! あいつを壁に近づけさせちゃだめだよ! あいつが壁に触れたら高圧電流でみんなの動きが鈍っちゃうんだ」

「俺のサブマシンガンじゃあの大きさの魔物に通用しない。動きを止めるから後は……」


 静かにレイはサブマシンガンを下ししまう。肩にかついでいた太刀に力を込め壁の下の地面を見つめた。彼は地上に下りてサンダーパンサーを引き付けるつもりだった。


「レイ君! 待って! 私が動きを止めるよ。任せて」

「えっ!? あぁ。わかった」

「えーい!」


 甘菜が飛び下りようとしていた、レイを止め代わりに彼女が飛び下りた。甘菜は地面に着地すると走って向かってくるサンダーパンサーの前へと回り込む。サンダーパンサーは前に立つ甘菜に気付き眉間にシワを寄せ睨むように彼女に視線を向けて飛び掛かる。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 鳴き声をあげ、サンダーパンサーの全身が青白く光り雷を帯びていく。周囲の木々がビリビリと震えだす。真っ白な光につつまれた甘菜のマウントディスプレイ、彼女は視界にわずかに見えるサンダーパンサーの黒い体をジッと見つめ持っていた盾を地面に叩きつけるようにして置いた。


「大丈夫…… 私なら止められる…… はああああああああ!!!」


 甘菜の盾から横に青い光が地面を線を描き伸びていく。同時に青い光はせり上がっていき光の壁となる。青い光の壁は甘菜の特殊能力プラズマシールドだ。サンダーパンサーは突如現れたプラズマシールドに気付かずに激突した。


「くぅ! まぶしい! 後は任せたよ…… レイ君!」


 プラズマシールドとサンダーパンサーが、ぶつかり強烈な光に包まれた甘菜だった。サンダーパンサーとプラズマシールドは傷一つなくただ図んでいた。逆にサンダーパンサーは吹き飛ばされ放物線を描いて飛んでいた。


「さよならだ」


 レイがサンダーパンサーの背後で声をかける。サンダーパンサーの耳がわずかに震え彼の声に反応した。レイは瞬間移動でサンダーパンサーの背後へと移動し太刀を構えていた。


「キュイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!」


 レイの太刀が暗闇を切り裂き一閃する。振りぬかれた太刀はサンダーパンサーの体を横から真っ二つに切り裂いた。音がして地面にサンダーパンサーの後ろ足と尻尾を持つ下半身が落ち、続いて前足と頭を持つ上半身が落ちた。サンダーパンサーはすでに息はなくわずかに後ろ足がぴくぴくと痙攣するだけだった。


「ふぅ…… 終わりました」


 右手に持った太刀を肩にかづぎ左手を上げ壁の上に居る万理華に答える。


「さすがレイちゃむ! かんちゃんもすごいねぇ。やっぱり二人に残ってもらってよかった!」


 万理華に褒められたレイと甘菜、二人は顔を見合せて笑うのだった……


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 魔物の怒鳴り声がした。地の底から湧き出るような低く強い獣のような声は、聴いた者の全てを震わせるかの如くネーブルタウンに響き渡るのだった。

 甘菜とレイの二人の顔が青ざめていく。二人はこの声に聞き覚えがあった。


「レッレイ君…… この声って……」

「あぁ。アークデーモンだ…… クソ!」


 響き渡ったのはアークデーモンの声だった。二人が視線を向けると巨大なアークデーモンが闇夜の中をゆっくりとネーブルタウンへと向かって来るのだった。

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