ep.31 兵器開発

※時系列的にはパール・ハーバー攻撃の一ヶ月程前の話です



教皇国の日本及び幕府への支援。


大英帝国への宣戦布告や、教皇国との同盟締結などの見返りとして数多な支援が行われた。



教皇国空中軍では空中給油機型や輸送機型などを除き予備役に降格したゼーアドラー級を始め、教皇国空軍主力戦闘機メッサーシュミット280の航続距離を低下させたモンキーモデルや、旧式水上駆逐艦や旧式水上タンカーなどの大量の兵器群が代表的だろう。



そして裏では、教皇国に大幅に遅れている軍事技術の向上のため多数の機材に設計図、そして教皇国で退役した兵器がサンプルとして送られていた。


送られた設計図・兵器は離島で研究中だった飛燕や隼よりも数段上のレシプロ機を始め、時速30ノット程度は出せる船舶用蒸気タービン、そしてVT信管など。


当初、これに加えて技術者なども派遣される予定であったが、元々高専だった幕府の技術者の存在に教皇国が気づくと、



「材料だけ与えた方が俺たちとは違う進化遂げて良いのでは? しかも戦時中に技術者を割くのはキツイし...」



という結論に教皇国本国の参謀本部は至り、使ったことは勿論、見たことすらないような魔導技術を相手に四苦八苦することになってしまった。


そしてさらに拍車をかけたのが、教皇国の説明書が整備兵向けのものに関しては一流である一方、構造や原理の解説に関しては技術者間の共有用、何ならものによってはメモ書き程度しか無かったことである。


勿論これらには専門用語(ミリオタなら一部わかる程度の軍事技術用語)の解説など無いし、何なら教皇国の研究所内での独自用語がはびこっている始末。


教皇国の技術者が数人でもいればまた変わっただろうのだろうが...たらればを言っても仕方ない。



ただ、それでも既に研究をしていた魔導水冷エンジンあたりは何とか量産できるまでこじつけられたため、尋常ならざるスピードで飛燕と、その副産物として彗星が完成。


また、駆逐艦などは艦艇の建造経験豊富な幕府が、教皇国の了承を取ったうえで大量にコピー生産。一部レーダーや無線などは教皇国製のものを搭載しているが、それ以外は国産である。



また、教皇国軍と弾薬を共通化する際、今更九九式短小銃の銃身を交換するのは馬鹿らしいということで、教皇国陸軍の主力小銃「HK-416」及び「HK-417」をライセンス生産。


九九式はスナイパーや儀仗兵用に一部が改造されたが、それ以外は不要になった7.7mm弾とともに法皇国軍に払い下げられた。


さらに航空機の機銃は、流石にライセンス生産するには工場が足りないということで全て教皇国製のものに換装された。勿論、弾薬などは国産化してあるが。



そして...



「3、2、1、エンジン起動!」



ジェットエンジンから青白い光が控えめに主張する。



「現在出力20%、続いて40%まで引き上げます」



ドゴォォォ、という重低音と共に青白い光が増加する。


その後、60%、80%とゆっくり出力を上げた後...



「現在出力100%、異常は確認できません。将軍、アフターバーナーはどうしますか?」



「無論、やるに決まっているだろう」



ブォォォ、といった高めの音と共に大量の青白い光が放出される。



「壁が耐えられません! 剥がれていきます!」



「出力を0%にしろ!」



ヒュウィィィィンと音を起てながらエンジンが停止。



「多少のアクシデントはあったが、成功できてよかった」



「これなら来月のパレードにも間に合いそうですね」



「あぁ、教皇国の機体に載せなければならないのは少し無念だが、自力でジェットエンジンを開発できることを示せるだけでも大きい」



幕府は、メッサーシュミット280のエンジンを解析した。


ここまでは教皇国の想定通りであり、高温に耐えうる特殊な魔導素材の複製方法がわかるわけもない以上、わざわざ駄目とも言われていなかった。しかし、教皇国の予想は思わぬ形でくじかれることとなる。


幕府は何と燃焼させたガスを吹き出すのではなく、水魔法で生成した質量の軽い水を吐き出す方式にしたのだ。


これによって、高温に耐えうる特殊な魔導素材が無くても音速を突破できるエンジンを作れるようになってしまい、空における教皇国の優位性が崩れた。


1ヶ月後のパレードで、幕府製エンジンを搭載したメッサーシュミット280が登場した際の教皇国大使の焦り具合を見れば深刻さがわかるであろう。



「大嫌いだバーカ! 畜生めぇ!」



※これはメッサーシュミット280を供与すると決めた教皇国政府に対してである。流石に幕府に言ったのではない。



ーーーーーー


※再び本来の時系列に戻る



教皇国 議会



「日本列島条約機構設立に賛成が35人、反対が15人となりました。よって、日本列島条約機構設立に向けた諸々の法案が可決されました」



日本列島条約機構。それは、一般には日本連邦と呼ばれることになる同盟であり、鎌倉幕府のジェットエンジン開発成功というビッグニュースにより後押しされ可決された。


日本列島に転移してきた10程の学校を中心に、転移前から存在する国家の三分の一程度を加えたものであり、それまでの教皇国の原住民への無干渉政策を覆すものである。


それは条約の内容を見れば明らかで、



・加盟国間の関税は0とする。


・技術の進んだ転移勢力と旧来勢力の技術差を将来的に無くす。


・加盟国間での集団安全保障の実施。


・加盟国は、"鎌倉条約"への批准をしなければならない。


・共通通貨、円の導入。


・加盟国の主権の尊重。


・全加盟国が平等に参加できる連邦議会の設立。



などなど、いずれはソ連のような一つの国家としてまとめる気満々の内容である。


ちなみに鎌倉条約は、現代世界のジュネーブ条約やハーグ陸戦条約などの戦時国際法を混ぜた内容であり、現代人からすれば当たり前の内容が大体である。


また円の担保は、教皇国製兵器への交換が保証されていたり、清やロシアから買い溜めた大量の鉄や銅、高品質な魔法石など多岐にわたる。


最初は金やら土地やらを担保にする予定だったらしいが、この時代においてはあまり価値が理解されていないため却下され、超実用的な資源に変更された。



ちなみに、10程の学校が転移してきてはいたのだが、鎌倉幕府と大日本帝国、そして教皇国以外は生存に必要な食料や資源は周辺の旧来勢力との貿易で全て手に入ったことらしく、少し大きめの村、のような状態までしか発展していなかった。



あと大日本帝国が日本列島条約機構の中に入るのはおかしいと言うことで、江戸幕府へと名称が変更された。これは鎌倉幕府に対抗して、という安易な理由である。ちなみに、関西に転移した勢力は室町幕府と名乗っている。



また、大日本帝国...じゃなくて江戸幕府の二式複座戦闘機及びその姉妹機は、教皇国や鎌倉幕府の航空機と違って構造がシンプルでコストが安く、しかもちょっとした教育で整備どころかライセンス生産まで出来るという良い事尽くしであったため練習機兼攻撃機として旧来勢力でのベストセラー機となった。


ただ、教皇国や鎌倉幕府の技術者に、機体バランスが〜とか翼荷重面積が〜とか突っ込まれたところを修正したり、エンジンや機銃を教皇国製の高品質なものに変更したりなど結構変わってはいるのだが。



ちなみに、航空機の台頭によって余剰になったワイバーンはモンゴル帝国に大量に流れることとなってしまった。勿論、転移勢力は猛反対したのだが、「加盟国の主権の尊重」を盾に堂々と売られてしまうこととなった。


この事件によって、第三国への軍事兵器及び先進技術の販売については連邦議会での3分の2以上の賛成が必要という規定が作られた。



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