ep.28 特殊作戦



「アラスカの監視に艦隊の三分の一を残して、残りの三分の二でパナマを目指す!」



第一飛空艦隊司令官の小林が指示を飛ばす。



「三分の一で足りますかね? 飛行場の修復は禁じていますが、英艦隊は未だ健在ですし」



副官が尋ねる。



「問題ない。考慮してある」



異常なまでな簡潔な返答に、副官含め艦橋全員が納得する。


我々に話せない事情があるのだろう、と。



ーーーーーー


教皇国 海軍司令部



「はぁ?後始末を押し付けられただってぇ?」



「えぇ、そうとしか思えないような命令が統合司令部から...」



「なんだってアラスカ基地の監視なんて言う、武勲の建てようが無い任務を我々がやらなければならないんだ...」



海軍大臣はブツブツと不満を言いながら潜水艦隊派遣の手続きを始めた。



ーーーーーー



「後方の補給部隊から増援要請です!」



「我々にそんな余裕は無いぞ! 今戦線を後退させるわけにはいかぬ!」



ヒマラヤ山脈を走破性の高い戦車で突破し、モンゴルと清を奇襲しようと画策していた英陸軍。


しかし内通者によって作戦は事前にバレてしまい、モンゴル軍は地雷や固定砲台での待ち伏せに加え、教皇国との戦闘で壊滅したモンゴル空中軍の残存艦艇ほぼ全てを配置し、圧倒的な火力で英陸軍を翻弄していた。


魔導飛行船からの砲撃を避けようと塹壕にこもればワイバーンロードによる導力火炎弾でステーキにされ、ワイバーンロードを撃ち落とそうと対空機関砲を出せば各所に隠蔽された迫撃砲や対戦車砲で木っ端微塵。


まさに「八方塞がり」である。



しかしなぜヒマラヤ山脈を行軍などという無謀なことを試みたのか。


それは思いつく限りの「マトモな作戦」が尽く封じられてしまったからである。


モンゴルの平原には清の強固な要塞があり、騎馬隊やワイバーン、飛行船といった数々の横槍を封じながらというハンデ付きでは突破は不可能。


かといって北の冷凍庫から行こうとすればドイツ軍やナポレオンの二の舞いだ。


海から奇襲上陸し清の首都寸前に迫ったこともあったが、モンゴルが即座に戦場に駆けつけることが可能な飛行船を大量に配備してからは無謀でしか無くなった。



「航空支援を要請しろ! 飛行船さえ排除できれば少ない損害で撤退できる!」



「はっ!」



ーーーーーー


大英帝国 議会



「大規模な反抗作戦を実施すると言うからかなりの金を出してやったのに、なんてざまだ!」



「仕方ないだろう! 奴らは忌々しき呪術を使ってくるのだ! 勝てるわけがない!」



「蛮族どもになぜ勝てぬのだ! ろくな機甲兵力も持ってないようなやつらに惨敗するなど、英陸軍も落ちたな!」



「貴様ら海軍だって損害を出し続けているだろうが! なんだって時速二百キロがせいぜいの飛行船に被害を出しとるんだ!」



「空軍の奴らが支援してくれんからだ! 艦載機と規格が同じなんだから少しぐらい分けてくれてもいいだろう!」



「はぁ? 空軍にも余裕は無いんだよ! 勝手なことを言いやがって!」



「全員落ち着け! 今喧嘩しても仕方ないだろう! というかお前ら全員同じぐらい失敗してるからな!」



議長の制止によって陸海空軍はぐぬぬとばかりに黙った。しかし財務省は黙らない。



「我々を軍のバカどもと一緒にするな!」



「予算削減を唱えながら予備役の艦艇を次々とスクラップにしていったのはどこのどいつだ!」



「そうだそうだ! うちだって戦車の調達数を減らされまくったんだぞ!」



「俺らだって未だに複葉機を使わざる負えないんだからな!」



対財務省となると陸海空軍は途端に共同戦線を構築した。こうなると流石の財務省でも対抗は厳しいようで、反論せずに黙ってしまった。陸海空軍はまさにしてやったり、という表情だ。



「まぁまぁ、彼らにも事情があるのですよ。戦時国債もこれ以上の発行は厳しいですし、モンゴルとの講話などもしっかり取り組んでいますのでそれまでは...」



痺れを切らした宰相が言うと、陸海空軍もふん、今回は許してやるという具合に椅子にふんぞり返っていた。



こうして議会での戦いが一段落したように見えたが、本当の意味での戦いは未だ序曲であった。



「アルファより司令部へ、門番を排除した」



「了解、アルファはそのまま東門から侵攻せよ。尚西門のチャーリーが遅れているため余裕があり次第援護に迎え」



「アルファ了解。あと屋上の重機関銃が邪魔だ。狙撃で排除できるか?」



「30秒待てるか? まもなくベータが重機関銃に到達する」



「分かった。ならばベータに突入は任せて、我々は撤退の援護に当たる」



そしてそのベータはというと...



「うん? なんだお前たちhグハッ」



魔導ジェットパックで上空の気球から空挺降下し、屋上に多数配置された重機関銃やスナイパーを排除していた。



「屋上の敵を排除したものの、中は敵が多くこれ以上の隠密行動は厳しい。手榴弾の使用を申請する」



「...1917より許可する。またそれ移行は全部隊で隠密行動を終了する」



特殊部隊が迫っていることになど気づかず、議長が次の議題に進めようとしたその時...



ドカーン!!!と、結束手榴弾の爆発音が響いた。



「なんだ!? 爆破テロか?」



空軍将校がとっさに屈折ストックのサブマシンガンを懐から取り出し構える。



「いや、今のは主榴弾だ。おそらく衛兵を退けるのに使ったのだろう。一刻も早く逃げたほうがいい」



陸軍将校が言う。彼は銃は取り出さずに、ホルスターに手をかけたままさっと物陰に隠れていた。



「逃げた先で待ち伏せされているのではないか? ここは安易に動かずに味方の到着を待ったほうがいいと思うが」



海軍将校がそう言うと他の議員たちも銃を取り出すなり、無線で部下に自分が死んだら〇〇を実行しろだのといった内容の遺言を残し、各々が覚悟を決めた。議場を警備している衛兵もそれぞれが無線で連絡を取り合うなり、各種装備の確認などを行って敵を待ち構えていた。



「敵は全出入り口から侵攻中! また、魔法を匠に使っている模様!」



魔法を使っていると聞き、誰もが警戒心を強める。彼らにとって魔法とは得体のしれないものであると同時に現代兵器を使っても侮れない強大な謎の力である。


来るなら来い! と恐怖を押し込む者、一方で慣れた手付きで対火炎魔法用の陣形を議員たちに支持する者など多種多様な反応を示す。



「おい、上を見ろ!」



誰かがそれを叫んだ直後、天井に静かに開けられた穴から大量の何かが投げ込まれた。



「全員伏せろ!! 目と耳を塞げ!!



......



爆発しない? まさか不発か? いやあの量すべてが不発だとは考えにくい...もしや!」



歴戦の陸軍将校が察したが、時はすでに遅し。


手榴弾から放出された魔法で生成された毒ガスにより、籠城していた議員全員が死亡。最初の爆発の後にパニックになって逃げ出した議員もいたが、毒ガスで死ぬか侵入してきた特殊部隊に徹甲弾を撃ち込まれて死ぬかの違いしかなかった。

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