ep.27 爆誕!アラスカ軍事共和国!



「空中給油を順次開始せよ」



旧式化に伴い輸送艦や哨戒艦、機雷敷設艦などの非戦闘任務に半分近くが改装されたシュヴァルベ級。


そして、その一つである空中給油型から多数のMig-17が給油を受ける。


いや、正確にはMig-17風の教皇国軍主力戦闘機「メッサーシュミット280」であるのだが。



「よし、全機給油完了! これよりア号作戦を実施する!」



「了解! 本国に通達! 作戦は予定通り進行中であると!」



その教皇国の占守島では...



「大使館に砲を向けるとはなんと無礼な!」



教皇国の主力戦車、パンター改一型が大英帝国の大使館を包囲し砲を向けていた。



「いや何、ただの郵便ですよ。中身がかなり重要ですのでね、警備をしっかりしているだけです」



そう言って封筒を門越しに手渡す。



「は...? お前らふざけているのか!...」



この反応も無理はない。封筒に”宣戦布告文書在中”と書いてあったためだ。



「では、しっかりと任務を達成しましたので、失礼します」



教皇国親衛隊のパンターたちは巣に帰っていった。


議会で殴り合いの騒動になりながらも何とか大英帝国への宣戦布告を可決させた教皇国は、ついに永世中立を捨てた。



大英帝国は眠れる獅子を起こしてしまったのだ...



ーーーーーー


「各機に通達! 茶葉を海に捨てろ、だ!」



後方に待機しているゼーアドラー級から航空隊に無線を送る。


それを受け取った航空隊は次々に低空から基地に侵入し、自分の任務をこなしていく。


優雅に飛ぶメッサーシュミット280は上空待機中の敵機を空中炸裂ロケット弾で殲滅、また地上の滑走路も大型の対地ロケットで破壊していった。


ついでに地上の対空砲なども余ったロケットで破壊され、アラスカ基地の防空能力は著しく低下。


なんとか滑走路が破壊される前に離陸できた英軍の誇るレシプロ機、スピットファイアも魔導ジェットエンジンを搭載したメッサーシュミット280に対しては無力であり、ロケットを撃ち尽くしたメッサーシュミットに20mm機関砲で掃除された。



「よし、潮時だ! 撤退する!」



このときの航空隊、第2魔導航空団は転移直後から魔導航空機を操ってきた精鋭揃いであり、本土防空専門の第一魔導航空団と肩を並べるほど、とまで言われていた。結果的にこの評価は間違っていなく、大英帝国が多額の資金と時間を投じて構築した防空システムはまさしく”損害ゼロ”で破られた。


一応、地上からの20mm対空機関砲が主翼に命中した機もあったが、教皇国の誇る魔導装甲により半分も貫通せずに防がれてしまった。



「教皇国め...だがこれで終わりではないだろう。すぐに体制を建て直せ! また、同時に教皇国本土に攻撃する。陽動で捨ててもいい規模の分艦隊を編成しろ」



「はっ!」



一方英軍側も、モンゴルとの最前線であるアラスカ基地には実戦経験豊富な将官が多かった。



ーーーーーー


大英帝国 軍務省



「日本相手に散々損害を被った挙げ句、増援を寄越せだと? 却下だ却下! 太平洋に派遣できる艦隊など無い! 原住民でテキトーな艦隊でも編成しておけ! そのための旧式艦艇は送ってやる!」



アラスカ基地の司令、ミミッツ中将は本国の軍務省に主力艦隊の増援を頼み込んでいた。


しかし凄まじい勢いで微々たる損害を連日積み重ねていく地中海艦隊に対する補充で軍務省は精一杯であり、モンゴル包囲への踏み台程度の太平洋に送れる艦隊など無かった。


ただ戦力が枯渇した状態で放置すれば植民地の原住民が調子に乗って反乱を起こしかねないため、退役した大量の前弩級戦艦など旧式艦艇を送りつけることにした。


一応パールハーバーの艦隊の主力も近代化改修された前弩級戦艦や装甲巡洋艦ではあったが、近代化改修どころか最低限動く程度の整備しかしていない退役艦を送りつけるなど舐めているとしか思えない対応だ。



「北日本は貴方方が思っている何倍も脅威です。いくら数が少ないとはいえモンゴル以上の技術力を有した国家を相手にそのような戦力で戦うのは自殺行為です。何とか主力艦隊の派遣をお願いします。数ヶ月で良いのです」



「その数ヶ月でモンゴルとの戦線がいくら後退すると思っとるんだ! 出来ないものは出来ん。もうおしまいだ!」



プツ



電話が切れる。



「現場の兵を何だと思っているのだ...あんな奴らのために兵を死なせるのは御免だ。おい、そこの上等兵、教皇国への陽動作戦は中止だと伝えといてくれ」



後世の大英帝国の歴史家たちが、ここで陽動作戦をしていれば...と嘆くことになるとはこの時まだ誰も知らない。



ーーーーーー



「して、交戦中の国とのやり取りとは...一体何が目的ですかな? まさか降伏というわけではありますまい」



教皇国軍第一飛空艦隊旗艦のビスマルクの艦橋では周囲の乗組員に内容が聞こえぬよう遮音魔法を展開し、艦隊司令が敵であるアラスカ基地との交信をしていた。



「我々は本国首脳に不満を持っており、本国のために戦うつもりはありません。しかし同時に祖国を真っ向から裏切って降伏するわけにも行きません。よって、アラスカ基地は形式的に国家として独立し貴国と講話したいのです。この基地に残っている艦隊がタダで戦争から離脱するのはそちらにもメリットがあると思うのですが、いかがでしょうか」



「...では人聞きが悪いとは思いますが、あえてここは人質を少しいただきたい。その、なんというか貴国の十九世紀の歴史を一応知っていますので...」



「ハハ、わかりました。では私自らが赴きます。一応数名は護衛をつけたいのですが...」



「数名程度なら良いでしょう。流石に単独で敵艦に乗るのは心細いでしょうし」



司令自らが赴くと聞いて個人的に敬意を表した艦隊司令、山本治郎は護衛程度ならと許可した。


ちなみにこの話は後に両国の歴史の教科書で日本は端っこに、英国では1ページ使ってそれぞれ書かれている。


...英国の教科書には精神安定剤が必要だったのだろう。

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