ep.25 レンドリース

大英帝国の外交官が激怒して出ていった後...



「指示通りにやりましたが...教皇国はちゃんと約束を守ってくれるんでしょうね?」



押入れから、ゼイトゥア空中民主教皇国の外交官が現れる。



「勿論です。同じ日本人同士で正面切手の戦いならまだしも、卑劣な騙し合いはしたくないですし」



話は少し遡る。



大英帝国との接触の前、法皇国の飛行場に一機の旅客機がワイバーンの誘導のもと、舞い降りた。


中から出てきた人はゼイトゥア空中民主教皇国の外交官と名乗り、転移勢力の代表とすぐにでも会談をしたいと申し出た。そしてその旅客機がジェットエンジンのようなモノから何かを後ろに吐き出しながら飛んでいたこともあり、すぐに大日本帝国の参謀長が対応。



その内容は、


・ゼイトゥア空中民主教皇国は北海道と樺太及び東北地方の一部を拠点とする転移勢力であるということ。


・覇を唱える大英帝国と思わしき艦隊が接近しており、目的はおそらく日本を前線基地にするためだということ。


・勢力圏内の日本列島の国が勝手にモンゴルと戦争状態の大英帝国に基地を貸し出すのは、先日モンゴル帝国との間で結ばれた2年間による休戦条約を反故にする事となるので困るということ。


・また、断れば経済制裁や海上封鎖などの地道な嫌がらせをしてくる可能性が高いことから、いっそのこと相手に宣戦布告させたほうがよく、そうなった場合空中民主教皇国が義勇兵派遣や旧式兵器の貸与などを含めた全面支援をするということ。



「ではお願いしますよ。大英帝国が貴国の情報通りの軍事力なら我が国だけではとても勝てませんから...」



2日後



ブゥォォォン



「な、なんてデカさだ...」



そこにはゼーアドラー級飛空駆逐艦の就役で多くが退役したシュヴァルべ級空中駆逐艦が第二の人生を求めて着水しようとしていた。



「ゼーアドラー級には劣りますが、水上艦しか無いような大英帝国に対しては余裕でしょう。乗員の訓練用機材も後から来ますので、一ヶ月もすればある程度戦えるようになると思いますよ」



「一ヶ月...果たして大英帝国は待ってくれるのだろうか...」



「待ってくれる、ではありません。待たざるを得ない、ですよ。今頃奴らの補給基地が我が国の潜水艦によって更地にされているはずです」



水魔法はチートである。それはなぜか?


自在に空気を水にしたり、逆に水を空気にしたりできるからである。これを利用して空中民主教皇国では航空機運用能力を備えた大型の潜水艦を大量に建造。


秘匿されている空中艦隊や能力が低く公表されている水上艦隊とは違い、大ぴらに公表されている潜水艦は大英帝国に対しての牽制として大いに有効だった。



「宣戦布告無しでよろしいのですか?」



「表向きは潜水艦からの攻撃ではありませんよ。鹵獲したモンゴル帝国の偵察機を無人に改造して特攻させましたから。あ、もちろんコックピットにはモンゴル兵士の死体を載せています」



「残骸を分析したら無人誘導だったのはバレてしまうのでは? 」



「彼らは魔法を邪悪な呪われた力と決めつけ全く解析していませんからね。残骸もすぐに焼却されたでしょう」



大英帝国は本当の意味での魔女狩り政策を実施。


魔力量の大きい人を次から次へと処刑し、魔法を扱った書物なども全て焼却された。


魔石が採取できる山岳地帯などは大量の地雷と鉄条網、そしてトーチカから突き出した重機関銃で封鎖されている。



ちなみに魔法を没収された原住民には中世レベルの技術を与えることで科学文明への転換を促した。効果は抜群で、今では大西洋は帆船でいっぱいである。


一応滑腔砲やなどの原始的な武器を積んだ戦列艦やマスケット銃なども輸出が認められており、大英帝国の提供する武器を持っているのと持っていないのでは天と地の差がある。


そのため属国になろうと原住民は必死のようだ。



「そういえば、敵艦隊の位置などは特定できるのですか?」



「流石に転移から15年も経てば高高度偵察機の1つや2つは開発できる...と言いたいところですが今だ数が揃っていなく常に海域を監視することは不可能です。ですので、数日に一度港を順番に偵察するしかありません。まさか機密の空中艦で堂々と見に行くわけに行きませんから。一応日本周辺には戦時のみ哨戒機を飛ばしていますが。」



「それではアラスカとパール・ハーバー両方を細かい周期で監視するのは難しいですか...」



大英帝国や清、ロシアが8年前に転移したばかりなのに対し、ゼイトゥア空中民主教皇国は25年も前に転移してきている。鎌倉幕府や大日本帝国が転移後2年で前世界のww1〜2兵器に匹敵するものを作ったのを考えれば、25年もあればかなり発展しているはずである。


しかし、長年この世界の文明に深く干渉することを禁じ、北海道に閉じこもっていたため技術力はあれど国力は大英帝国に大きく劣る。


そのため日本に存在する原住民勢力は一部魔導技術を供与されたのみで、それ以外は古代から中世程度の技術である。なぜ一部の魔導技術が供与されたのかと言うと、神聖ザユルティ法皇国にシュヴァルベ級が事故で墜落し、一部の技術がリバースエンジニアリングされてしまう事件が発生。これでは他の勢力にも供与しなければ法皇国が無双してしまう、という理由で一部の魔導技術がばらまかれたのである。



ーーーーーー



「列強相手の全面戦争は避けねばならぬ...が、日本列島を渡すわけにもいかぬ...」



ゼイトゥア空中民主教皇国二代目皇帝である田中はモンゴル軍との戦闘で戦死した初代皇帝石川の意を次いで、日本列島を世界から守るために大幅な軍拡を進めた。今まで軍事利用されていなかった空中艦に魔導砲を搭載したものを大量建造し、今や現役のものだけで100隻を超えている。


更に海軍の艦隊や潜水艦も次第に拡充され、自国だけの防衛であれば十分な程に軍事力はある。



ロシアや清の支援を受けたモンゴルが日本を未だに手に入れられていない裏には、こういった教皇国の影の努力があったのだ。



そしてその教皇国の議会では...



「皇帝陛下は代理戦争で教皇国人の犠牲無しに大英帝国を弱体化させるおつもりか!」



「他国とはいえ同じ日本人に犠牲を押し付けるなど卑怯にもほどがある!」



皇帝の判断を追求する声が上がっていた。


元々複数の学校がまとまっただけであり、全員同じぐらいの歳なため皇帝にも普通に物を言う。



「だがここで無闇矢鱈に参戦しても待っているのは総力戦だけだぞ!」



参戦反対派の議員が反論する。



「だからなんだ! 悪しき大英帝国を鎮めるのに必要だと言うならその程度仕方あるまい!」



「その程度とは何だ! いくら兵器の優位性があったとしても、こちらにも犠牲は出るのだぞ!」



教皇国分裂の危機、と後世に言われる状況であった。

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