28.集落の人々

 「なんて速さ・・・。これが和人と私の身体能力を合わせた結果なのね・・・!」

 瞳は自身のスピードに驚いていた。遠くに見えていた木々が一瞬にして目の前に来る感覚。そのスピードのお陰か、すぐにジャングルを抜ける事が出来た。

 すると抜けた先には広場と集落が広がっていた。そこに住んでいた人達は瞳のあまりの速さに驚く。

 「えっと・・・。貴方はあの刀の人の仲間ですか?」

 とある住人が瞳に対して聞く。

 「はい・・・。貴方方は何故こんな場所にいるんですか?」

 瞳は疑問を抱いていた。それもその筈。普通の人間が武器もなしに、この世界に長くいる事自体出来ないからだ。

 「私達は生前軽犯罪を起こした者の集まりです。窃盗や万引きなど、人を殺めてはいませんが、人を不幸にさせた者達が化け物にならず、化け物に襲われる恐怖と戦いながら日々過ごしているのです。」

 「なるほど・・・。達郎さんのお陰という事で合っていますか?」

 「はい。達郎さんのお陰で、今こうして幽界への扉を開いてくれる勇者を待つ事が出来るのです。」

 集落の人々は瞳のような決意に満ち溢れた人を久々に見た。何故ならいつも黒い武器の呪いによって白くなった人を目の当たりにしていたからだ。その為今回瞳が来た事でやっとこの世界が終わると感じていた。

 「お名前聞かせて頂いてもよろしいですか?」

 「私の名前は瞳。刀の男・黒龍を呪いから解放し、阿修羅をこの手で倒す者です。」

 「教えて下さりありがとうございます。瞳さん、私達が今此処にいる理由なのですが、家の中に入る事は出来ますか?とある事を伝えたいのです。」

 家の中へ招待される瞳。少し怪しいと感じつつも、住人達と共に中へ入っていった。

・・・

 「こ、これは・・・?」

 瞳が見た物は青く光り輝く大きな水晶だった。何か屈強なオーラを感じる。

 「これは消醜石(しょうしゅうせき)という石です。これから先、扉に近づく程化け物の強さも格段に上がります。しかしこの消醜石を溶け込ませた武器で化け物に攻撃すると、一撃で倒せます。実際に瞳さんのような方が百年以上前に来て、コーティングさせて頂きましたが、実に強力な物でした。」

 消醜石は化け物を近寄せないばかりか、一撃で仕留められるという優れものだった。しかし、実にうまく話が出来ていると感じた瞳はそれについての質問をする。するとその一人が答えた。

 「私達は軽犯罪者という事もあって、阿修羅に見放されました。化け物にされず襲われる恐怖を刻めと。しかしその時にこの石を渡されたのです。『此処に来る人間がいたら武器にコーティングを施し、強化せよ。』と。それから数百年間この場でこの世界を終わらせる人を待っているのです。」

 聞くところ、この地まで来た人は黒龍合わせて八人らしい。その内の六人は呪いの武具により操り人形と化していた。黒龍も既に廃人そのものだったとその人は語った。

 「なるほど・・・。それであれば、私の武器にその石をコーティングして下さい。お願いします。」

 瞳は頭を下げる。それを見た住人達は頷き、すぐにコーティングを始めた。

・・・

 武器をコーティングして貰っている間、瞳は

「操り人形と化した人をなんとしてでも救いたいのです。何か手掛かりはありませんか?」と質問した。しかし現実は非情なものでその人達は知らないと言う。

 『やっぱり、この手で・・・。』

 瞳は少し落ち込んでいた。

 「黒龍、貴方を倒すのは私。本当にごめん。でも必ず助けるから。」

 瞳は目の前にある扉を見ながら呟いていた。

・・・

 「瞳さん。コーティングが終わりました。こちらです。」

 弓と小刀が青く光っている。実際に持ってみると何か力がみなぎる気がした。

 「ありがとうございます。私が必ず扉を開けるので待っていて下さい。」

 「はい。此処で待っています!」

瞳は強化された武器を持ちながら住人達に手を振り、黒龍の後を追っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る