26.脳内強制操作

 『此処は・・・?私どうして暗闇に・・・?』

 瞳は真っ暗の空間に立っていた。何処まで続いているのか分からない真っ暗闇の中に。

 『・・・そうだ。私、和人と黒龍に酷い事を言ってしまったんだ。』

 何もない空間に送り込まれたと錯覚していた瞳は自身の言動を嘆く。しかし、もう仲間と呼べる存在がいない事が分かっていた瞳はただその場で目を閉じていた。もうその場に閉じこもっていたかったのだ。耳を塞ぎしゃがみ込み、無の状態になりながら。すると、突然小さな男の子の声が聞こえてきた。

 「っ・・・!これは、和人の声!!」

 瞳は声を出しながらゆっくりと目を開ける。するとそこには幼き頃の和人が立っていたのだ。

 「嘘・・・。なんで和人が・・・?」

 瞳はただ困惑していた。すると幼い姿の和人が一言発した。

 「瞳お姉ちゃん、大好き。」と。

 その声を聞いた瞳は下を向き、悔しげな表情をしながら懺悔する。

 「そんな、私は貴方に何もしてあげられなかった。虐めから助ける事も出来なかった。さっきも酷い事を言ってしまった。私はもう姉、失格・・・。なのになんで私の事を好きでいられるの・・・?」

 すると瞳の後ろにいたもう一人の和人が口を開いた。

 「それは家族だからだよ。確かにさっきの発言は僕と黒龍の事を傷つけた。でもね。そんな事で瞳を見捨てる事なんてやっぱりおかしいよ。だって此処まで旅してきたじゃないか。」

 瞳が振り返ると微笑んでいるいつもの和人が立っていた。

 「ごめん、ごめんなさい!!」

 瞳は和人を抱きしめる。しかし、和人は怒らずに言った。

 「僕の過去の事、詳しく知って欲しい。」と。

 瞳はその言葉に驚いたが、すぐに頷く。

 「ありがとう。じゃあ今から見せるね。」

 和人が相槌を打った瞬間真っ暗な空間が、見覚えのある空間に変わった。それは和人と瞳が住んでいた町だった。

 「瞳お姉ちゃん。手を繋いでいこう。」

 「・・・分かったわ。私、全力で和人の気持ちを受け止める。」

・・・

 『おい!なに勉強なんてしているんだよ!俺達の事構ってくれよ!』

 和人の椅子を蹴りながら邪魔をしてくる虐めの主犯格。それを周囲の人が笑っている光景が映しだされた。しかし、和人は動じていない様子だった。

・・・

 「これって中学生の和人だよね?」

 「そう。前に話した通り、僕は虐めを気力で耐え抜いたんだ。でも・・・。」

・・・

 『今日も散々蹴られたな。でもこんなのへっちゃらだ!高校は遠い場所に行って、虐めとは無縁の場所へ行くぞ!』

 下校時間となり和人は教科書を持ちながら家へと歩いていた。すると自身の家の前で人が集まっているのを発見した。

 『あれは・・・。』

 虐めの主犯格が山本と書かれたネームプレートを引っ張り剥がし、踏みつけながら叫ぶ。

 『今度はあいつの両親だ。あの偽りの親を袋叩きにするぞ!』

 『賛成!決行日はどうする?』

 『明日の放課後だ。あいつが下校し、家に着く前にやっちまおう!』

 そんな会話をしながら帰っていく生徒達。それは邪悪そのものだった。それを聞いた和人はその瞬間なにかが壊れる。そしてその時が来た。

 『和人くーん!今日は俺達と帰ろうぜ!』

 和人に群がる人達。笑いながら寄ってくる。しかし今日の和人は違っていた。怒りに満ちていた顔をしていたのだ。

 『おい、なんでそんな怒った顔をしているんだ?』

 馴れ馴れしく寄ってくる虐めの主犯格。しかし次の瞬間和人の拳がその人の顔面を殴り飛ばしていた。

 『なっ!お前達!こいつをやっちまえ!』

 『あぁ!これでもく・・・がはっ』

 『やべえぞこいつ、強す・・・ぐあっ』

 和人は次々に虐めの集団を殴り倒した。その時満面の笑みを浮かべていた。

 『ふ、はは、ひゃははは!!!お前らなんかこの世界に必要ない!!死ね!死ね!死んじまえ!!!』

 それを見ていたクラスメイト全員が凍りつく。

 『ちょっと誰か先生を呼んできて!!』

 同じクラスの女子が叫ぶ。しかし和人はそれを見逃さなかった。

 『何を言っている。お前らも同罪だ。虐めを無視し、助けもしなかった罪。』

 それからは地獄だった。逃げ回る生徒を襲い、和人の笑い声と共に教室は真っ赤に染まっていった。そして数分後。立っていたのは和人ただ一人だった。

 すると、騒ぎを聞きつけたのか先生達が走ってドアを開け、和人に対して怒鳴る。

 『山本!お前何をやっているんだ!』

 『は?お前ら教師は弱き者を助けるのが義務だろ?やってみろよ。虐めを黙認した罪は重いぞ?』

 和人は義両親を守る為に長年努力してきた空手の構えをする。その瞬間禍々しいオーラが教室を包み込む。体育系の先生でさえ和人を止める事が出来なかったのだ。気迫に押されて。しかし和人の動きを止めたものがいた。それはパトカーと救急車のサイレンだった。

・・・

 「これが僕の真実。義両親を手にかけようとした奴らが許せなかった。勿論今も。でも、こうでもしないと大切な家族を守れる気がしなかったんだ。」

 瞳は言葉が出なかった。和人の起こした暴動がこんなに凄惨なものだと予想していなかったからだ。

 「驚くのも仕方ないよね。でも本当の地獄はここから。」

 次の光景が映しだされる。

・・・

 『速報です。今日午後三時頃〇〇市○〇中学校三年生の男子生徒が同じクラスの生徒全員を殴り、全ての生徒に重症を負わせたという凄惨な事件が起きました。受験期が近いのにも関わらず、全く罪のない生徒達に重症を負わせた男子生徒がとった行動は、なにかの報復なのではないかと放送局はみています。また最新の情報が入りましたら、お伝え致します。』

 和人は病院で怪我した手を押さえながら、ニュースを見ていたがその内容に驚いた。その理由は自分自身が起こした行動だけ全国ニュースに載り、虐めの件が全く報道されていなかったからだ。

 『は・・・?悪いのはあいつらじゃん・・・。』

 すると義両親が和人の前にやってきた。

 『和人、虐めの件をなんで言ってくれなかったの。いつもどこかしら怪我して帰ってくる貴方を心配していた。でも、貴方はいつも転んだと笑いながら誤魔化していた。私達をもっと頼って欲しかった。』

 『ごめんなさい。お義父さん、お義母さん。こんな子供で・・・。』

 すると父親が和人の顔をビンタした。

 『謝るな!これからは虐めの問題を世に知らしめるんだ!和人は家でゆっくりしていてくれ。私達は和人の味方。いつだって守る。じゃないと親の資格がない。瞳にも逢わせる顔がないよ。』

 和人の虐め問題を訴えると約束した義両親。義両親は和人の事を見捨てなかったのだ。しかし状況が一変する。それは和人の暴行によって大怪我を負った一人の女子生徒だった。

 『あいつだ!あいつのせいで私の未来は壊れた!美術系の学校を目指していたのに、もうこの手は元に戻らない!!』

 その女子生徒は看護師さんの手を振り切り、壊れた腕で和人を指差し、周りの人達の視線を和人に注目させる。その瞬間和人はとてつもない罪悪感とこれから先待ち受けている恐怖に襲われた。それに耐えきれなかった和人はいつの間にか走りだしていたのだ。

 『逃げるのか犯罪者め!私達受験生の気持ちも知らずに、一時の感情に揺さぶられやがって!!ふざけるな!!』

 『やめて・・・やめて・・・。』

 そして和人は病院の階段を登り切り、柵を乗り越えた。

 『待って和人!お願い!!』

 義両親は息を絶え絶えにしながら和人を呼び止める。しかし和人は何も言わずに柵から手を放し落下していった。

 グシャッッッ。

・・・

 「あの時、あの時僕の負の部分が働いてしまったんだ。瞳お姉ちゃんもそうでしょ?結局は誰も助けてくれないんだ。」

 和人は下を向いている瞳に対し言う。しかし瞳は和人が思っていた行動とは違う行動をしたのだ。和人の頭を撫でながら「これまでよく頑張ったね。」と。

 その瞬間和人は虐められてきた光景がフラッシュバックし、涙が溢れる。

 「なんで・・・。」

 「虐めはいつの時代であっても起こる犯罪行為。こうなってしまったのは、全て虐めのせいなの。だからね、和人は謝らなくていい。本当に謝らなきゃいけないのは私の方。私がその時その場所にいたら結果は変わっていた筈なんだ。でも、もうそれは変えられない事実。この世界が終わったら一緒に地獄に行って罪を償おう。いつでもお姉ちゃんがついているから、いつでも頼ってよ。」

 「そんな事・・・。」

 瞳は和人の犯した罪を一緒に地獄で償おうと誓った。

 「私に説得力はない。今まで黒龍に頼りっぱなしだったし、いつも泣いてばっか。でも、こんな私に辛い過去を見せてくれてありがとう。ごめんね、世話の焼ける姉で。」

 「・・・そんな事ない!あと・・・その・・・。」

 和人が急に戸惑いだす。瞳にある事を告げなければいけなかったのだ。それは、

 

 「黒龍を・・・消滅させてあげて。」

 というもの。


 「えっ・・・?」

 それは瞳に衝撃を与える言葉となった。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る