第四話 転生者には白髪美少女を
冒険者ギルドでウルザから説明を受けてから一週間が過ぎた。
結局、あの禍々しい剣を受け取ることになった。
というのも、あの剣ともう一本、普通の剣を借用ではなく譲渡という形をとってくれるらしく、金のない俺からすればありがたい話をされたからだ。
それに、もう一本剣があれば禍々し剣を使う必要もないだろうという打算もあった。
その後も色々なことがあった。
シミ付きズボンを捨てて異世界の冒険者らしい格好に着替えたり。
金がないからしばらく路地裏で寝泊まりをしたり。
腹が減って街の外で果物を食べて腹を下したり。
ゴブリン討伐のクエストを受けて、チートを試して街中で奇声を上げてみたり。
チートを使わずにゴブリンを倒そうとクエストを受けて死にかけ、結局チートを使った挙句街中を全力で走り回ったり。
薬草採取のクエストの最中、ゴブリンに奇襲をかけられてチートを使い冒険者ギルドのど真ん中で踊り狂う羽目になったり。
思い返せば二度の人生で最も記憶に残る一週間だった。
そんな激動の一週間を生き抜いた俺は今――。
「
チート能力を封印しようとしていた。
「どれだけチート能力で無双しようと、
この一週間、あらゆる恥辱に耐え忍び
このままでは、俺の周りには誰も居ないエンドまっしぐらだ。
よって早急にこの状況の改善をしなくてはならない。
しかし、チート能力を封印することは、俺の力のみでクエストを達成する必要があるということだ。
つまり、それだけの力が俺に備わっていなければ成立しない。
そして、俺にはそんな力はない。
であれば、どうするのか。
答えは一つ……。
「仲間を作る……ッ!」
◇
「というわけで、誰か仲間になってくれそうな人を紹介してください」
「何がというわけなのかわかんないけど……仲間かぁ」
仲間を集めるためにとりあえず、冒険者ギルドでウルザに聞いてみた。
「女だと嬉しいが、この際性別は考慮しなくていい。とにかく、俺が弱くても守ってくれるくらいの強さを持ったやつがいい」
「君、ドラゴンを倒せるくらい強いんじゃなかったっけ?」
「そのことについては忘れてほしい。駆け出しの冒険者と同じかそれ以下だと思ってほしい」
「ふーん。まあいいけど」
訝しげな眼で見ながらも、何とか納得してくれた様子のウルザはギルド内を見渡す。
「とはいえ、即戦力になるくらい強い冒険者はたいていバーティーを組んでるから、難しいんだよね」
「……だよな」
この街は、一週間に一回魔王軍の襲撃がある。
冒険者には、その襲撃から街を守るために戦いに参加する義務があるのだ。
その時に、パーティーを組んでいるかどうかでかなり生存率に影響があるらしい。
戦闘中の死角を補ってくれたり、自分にできないことを代わりに行ってくれたりとパーティーを組むメリットは多くある。
特に、一人では対抗できない魔物に対抗できるようになるというのが大きい。
この世界の人は地球にいた人よりも強い。それでも、一人では対抗できないような魔物が数多くいて、俺がチート能力で倒したドラゴンもその中の一体だ。
そういった魔物から身を守り、対抗するために駆け出しの冒険者でさえすぐにパーティーを組む。
つまり、今から俺がパーティーを組むためには最近冒険者になったばかりの駆け出しを勧誘するか、何らかの理由でパーティーから抜けた冒険者を探すしかないのだ。
「ちなみに、最近パーティーを抜けた腕利きの冒険者とかって……?」
「いないねー」
「そうか……」
若干の期待をかけた問いかけも不発に終わり、選択肢は駆け出し冒険者とパーティーを組むことのみになった。
駆け出し冒険者とパーティーを組むメリットは、弱い魔物が相手ならチート能力を使わなくてもよくなる可能性があること。他にも、成長すればもっと強い魔物が相手でも戦えるようになるかもしれないこと。
デメリットとしては、駆け出しだからこそ弱い魔物が相手でもチート能力を使わないといけなくなる可能性があること。つまり、本来のチート能力を使わないためにパーティーを組むという目的を達成できる可能性はかなり低いということだ。
それでも、このままチート能力を使い続けるよりはマシだとおすすめの駆け出し冒険者を紹介してもらおうとしたとき――。
「あ! あの人はどう?」
ウルザがギルドに入ってきた一人の女冒険者を指さした。
顎よりも少しだけ長く伸ばしたパーマのかかった白髪。
薄手の服とミニスカートの上から丈の長いフード付きのローブを着ている。
手には杖を持ち、魔法使いであることが伺える。
「彼女ーーヒイロさんっていうだけど、この街でも有数の魔法使いでパーティーを組んでなかったはず。ベテランじゃなくて、どちらかというと駆け出しなんだけど、魔王軍との戦いでもかなり活躍してて実力は折り紙付きだよ」
「そんな魔法使いが何でパーティー組んでないんだ?」
「最初のうちは組んでたらしいけど、抜けたり入ったりを繰り返してるうちにソロになったらしいよ。もしかしたらだけど、彼女は冒険者になりたての頃からかなり腕利きの魔法使いだったから、周りの冒険者と合わなかったのかもね」
そんなにすごい魔法使いが仲間になってくれたら、俺としてはありがたいんだが……。
「とりあえず、声をかけてみる。悪いな、助かった」
「いいよー。君にはあの剣を引き取ってくれた恩もあるしね。ちなみに、あの剣を引き取ってから何かあった?」
「いや、特には……」
「そっか。ならいいんだけど」
「おい。なんだよ、その不穏な感じ」
「いや、気にしないでいいよ」
「気になるんだが」
「本当に気にしないでいいから。ほら、早く声かけないとどっか行っちゃうよ?」
おい! ホントに大丈夫なんだろうな!? もし死んだら恨むからな!?
まだまだ言い足りないことを飲み込み、紹介してくれた女冒険者のもとへ向かう。
「あ、あのー」
近くで見た女冒険者は、勝気な雰囲気をまとったまさに美少女といった風貌で、緊張から思わず喉を鳴らしてしまった。
「何か用?」
「あーいや、俺ケイタっていうんだけど、冒険者になったばかりで……。えっと、仲間を探してて……受付で凄腕の魔法使いでまだパーティーを組んでないって聞いたから……俺とパーティー組んでもらえたらありがたいっていうか……」
くそっ! あまりの可愛さと強気な感じに、全然言葉が出てこねえ!
終わった……せっかくのチャンスが……。
あまりの失態に頭を抱えていると、女冒険者は目をぱちくりとさせる。
「あんた……あたしの噂知らないの?」
「噂?」
「……ああそう。冒険者になったばかりって言ってたわね」
含みのある態度をとる女冒険者に首を傾げる。
……凄腕の魔法使いっていう話以外にも何かあるのか?
「パーティーの話については別にいいわよ。ソロにこだわりがあるわけでもないし」
「ホントか!? 助かる」
「ただーー」
女冒険者はそこで話を切ると、真剣な表情で目を合わせる。
「あたしはあたしのやり方で戦う。それが合わないと思ったらパーティーを解消しなさい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます