俺の異世界転生が罰ばかりなんだが!~チートスキルは最強ですが罰も与えられるようです~

.嘘

第一話 転生には落とし穴を



 異世界に転生すると、そこは戦場でした。

 

 目の前に広がる光景を表現するのであれば、この一文しかない。

 壁に周囲を囲まれて門を閉ざしている街。

 赤黒い少し不気味な空。

 大地は荒れ果てひび割れている。

 人々の怒号と金属のぶつかり合う音が世界に響く。


「世紀末じゃねえかあぁぁぁぁぁ!!」

 

 どうしてこうなったのか。

 人と魔物が入り混じる戦場で、俺は思い出す。


 ◇


「ようこそ、転生の間へ。太田おおた 啓太けいた殿。この度はその命を失ったこと、お悔やみ申し上げます」


 目が覚めると、そこには真っ白な空間と沈痛な面持ちをした老人がいた。


「ここは……? 俺は何でこんなところに……」


 痛む頭を押さえながら、現状を理解しようと記憶を探るが一向に思い出せない。


「ふむ。どうやら記憶が混乱して居るようじゃのう」

「記憶が混乱……?」


 この老人は今の俺の状況について何か知っているのか?

 縋るように見ると、老人は心を読んだかのように頷く。


「うむ。さっきも言ったように、そなたは死んでおる。死因は階段からの転落死。決して珍しい死因ではないが、その若い身空で人生を終えることになったのは、何の慰めにもならんじゃろうが運が悪かったとしか言いようがないのう……」


 階段から転落死……。

 いまだにはっきりとは思い出せないが、それが真実であると理解できた。

 それと同時に、目の前の人物が神であるということも。

 

「俺はこれから、天国に行くんですか……? それとも、地獄ですか……?」


 そして、自分の死を理解できたのであればこの後のことも大体はわかる。

 天国か地獄か。

 その判断が下されるのだろう。


「いや、普通に魂を洗い流してまっさらにしたあと転生じゃ。天国は現世で傷ついた魂を癒すための治療施設じゃし、地獄は魂にこびりついた罪を洗い流すための厚生施設じゃから、普通の人間には関係ないんじゃ」


 ああ……そうですか……。


「と言いたいところじゃが、お主には異世界に行ってもらいたい」

「異世界?」

「うむ。俗に言う異世界転生じゃな。記憶と体そのままにチートを持って異世界に行き、魔王を倒し世界を救ってもらいたいんじゃ」


 何それ、最高!

 魔王と戦うリスクはあるが、チートをもらって人生をやり直せるメリットは大きすぎる。

 すぐにでも飛びつきたい話だが、いったん慎重に……。


「ありがたい話ですけど、何で俺なんかが……?」

「異世界に行ける者が少ないからじゃ。そもそも異世界に行けるほどの適性がないとか、チートを受け入れる容量がないとか、色々じゃのう」

「な、なるほど。じゃあ、俺はそういった条件をクリアしていると……」

「そういうことになるのう」


 幸運にもほどがある!

 いや、死んでいるから不幸中の幸いというべきか?

 どちらにしろ、まだ生きられる。


「い、行きます! 異世界に行って魔王でもなんでも倒します!」

「おお! そうかそうか。そういってもらえると助かるのう」


 顔にしわを作りながら、神様が笑う。


「お主に行ってもらう予定の世界は、以前に転生者を送り込んだんじゃが失敗したらしくて魔王軍が勢力を拡大している世界じゃ」


 え……転生者が失敗した世界?


「もしかして、チートを持っていなかったとかですか?」

「いや、魔王を倒すだけのチートは持っていたはずじゃが、何故か気づいたら魔王軍側が優勢になっておってのう」


 チートがあっても勝てなかった魔王か……嫌すぎるな。


「心配するでない。今回は前回以上に気合を入れたチートを用意しておる。その名も、『万能者オムニポテンス』! 身体能力強化、自動回復、魔法威力強化、魔力増強。発動中は好きな恩恵を受けられる最強の力じゃ!」

「おお! 確かにそのチート能力なら、魔王を倒せるかも!」

「そうじゃろう! 今まで渡してきたチート能力の中でも最高峰の能力じゃ。これがあれば、間違いなく魔王を倒すことができる。じゃがしかし、チート能力にも一つだけ欠点があってのう」


 ……欠点?


「チートはその名の通り反則。使用すればペナルティを与えられるのじゃ」

ペナルティ?」

「こればっかりは、魔王の代わりに転生者が世界を破壊しないようにするためのものじゃから、どうにもできんのじゃ」


 まあ、確かに魔王を必ず倒せるほどの力を転生者が好き勝手に使えたら、魔王より先に世界を滅ぼしそうだな。

 世界を救うためのチートによって世界が滅びたら本末転倒だし、仕方ないか。


ペナルティは、恥ずかしい思いをするというものじゃ」

「恥ずかしい思いをする、ですか?」

「そうじゃ。実際にあった例を出すなら、街中でこけてパンツが丸出しになった女転生者とか、階段で足を滑らせてこけそうでこけないまま降りきったところを好きな人に見られた男転生者とかじゃな」

「意外と……軽いですね」

「そうじゃのう。昔は、記憶を失うとか五感がなくなるとか、そういったペナルティだったんじゃが、あまりにもかわいそうということで今のものになったんじゃ」


 神様の世界でも時代って変わるんだ……。

 それにしても少し恥ずかしい思いをする程度って、抑止力としては効果が薄いような気がするけど大丈夫なんだろうか。

 無闇矢鱈に使わない程度にはなるだろうけど……。 


「昔と変わったと言えば報酬の有無もそうじゃな」

「報酬ですか?」

「うむ。昔は、チートを持たせて転生させていることが報酬みたいなもんじゃろうって感じだったんじゃが、こちらからお願いしておいてそれでは駄目じゃろうという話になってな。今は、魔王を倒した暁にはどんな願いも一つだけ叶えるということになっておるんじゃ」


 どんな願いも!?

 日本と異世界を行き来できるようにしたいとか、異世界でハーレムを作りたいとかいう願いでも叶えてくれるんだろうか。

 魔王を倒せるチート能力をもらってることだし、転生させてくれるせめてもの恩返しに魔王討伐を頑張ろうと思っていたが、俄然やる気が出てきた。


「説明も終わったことじゃし、そろそろ転生させてもよいかのう?」

「はい! いつでも大丈夫です!」

「転生先は、一番大きな街にしておくので頑張るように」

「はい!」

「よい返事じゃ。では、行ってくるがよい」

「行ってきます、神様! いろいろとありがとうございました!」


 体がどんどんと上昇していくことで、小さくなる神様に向かって手を振りながらお礼を言う。


「俺、絶対魔王を倒しますから!」


 豆粒ほどの大きさになった神様へ向かって大声で叫びながら、俺は転生の時を迎えた。


 

 

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