ねこ丸姫のH爆弾

ななじぬぅす

第1話 前髪垂らして「ボク」なんて言っている奴は全員オカマだ

 前髪垂らして「ボク」なんて言っている奴は全員オカマだ。ミルクティを一気飲みする奴はレズビアンだし、上杉謙信はゲイだし、大谷翔平はピッチャーもバッターもやるからバイセクシャルだし、トランスとかクィアってのはなんのことか知らない。オカマは気にならないが、前髪とボクの組み合わせを許すことはできない。だからオレの人称はオレだ。


 コロナ禍の三年間。国からもらった給付金を湯島のフィリピン嬢にばら撒きながら一生懸命書いたオレの小説『カンナカムイの翼』は、ほとんど誰にも読まれなかった。今日もPVは安定の0だ。ゼロって、オマエらいい加減にしてくれよ。


 人類の大半が読んでいないということだな、誰にも相手にされていないということか。それはいつものオレじゃないか………。


 呪いあれ! オマエらに呪いあれ!


 たとえばお弁当に入っている醤油。袋とか、最近見ないけど魚の形をしたプラスチックの容器に入ったあれ。きんぴらごぼうとかサバの油がくっついていて、開けるときに必ず手が汚れるあれ。オレの我慢の容量はだいたいあれに入った醤油の量ぐらいだと思う。

 みんな何年もかけて丁寧に着実に投稿を続けて読者を増やして成果をあげていくなかで、オレはわずか3ヶ月で我慢の限界を越えた。オレの小説を読まない連中を逆恨みすることにした。京アニに火をつけたあいつも同じような心境だったかもしれない。


 実際オレの小説を読まずしてなにをしてるんだよオマエらは。わかってる、あの長くてダサいタイトルの令嬢とか転生とか頓狂とんきょうなやつを読んでるんだろ。


 呪いあれ! このオタクやろう!


 試しにいまPVを確認してみようか、うん、今日は「4」!? 逆に誰なんだこの4を施してくれた神は! 菩薩?

 ちきしょう、くやしい、オマエを振り向かせたい! そしてその耳の穴にポテトを揚げた油を流し込んで桜島の火口に蹴り落としてやりたい。


 そもそも前作では鉄棒の逆上がりもできないオマエらに媚びたのが間違いだった。最初から好きに書けばよかった。あれは三部作で構成したのに、オマエらがちっとも読まないから続きを書く気が起きないんだよ。次はあの麦わらのやつより先に海賊王になる話なのに。

 書いて初めて知ったけどアホほど時間がかかるだろ、小説を書くって、しかも長編を完成させるって、1円にもならないのに。仕事でも学業でもやりながらだと、生活のけっこうな領域を犠牲にすることになる。コロナ禍がなかったらオレなんて一生書き上げられなかったと思う。


 ここだけ真顔で書くけども、10万字以上の長編を完成させた作者の方々は全員尊敬する。上手い下手も文章も関係ない、たとえ長くてダサいタイトルのものであっても敬意に値する素晴らしい仕事だ。忙しいだろうにさ、よく時間作ったよ。


 それに比べてテメェらときたら、小説書いて恥もかかずに、日がな一日だらだら安いコンテンツを探し回ってるんだろう。暇ならせめて『カンナカムイの翼』だけでも読めばいいのに、よりにもよってあの長くてダサいタイトルの……。


 手がつけられねぇほど破廉恥はれんちであるよキサマという奴は! やっぱり呪いあれ!


 オマエらが現実=等身大の自分との接点を切るために転生したり令嬢に扮しているのはよくわかっている。そしてそれはポルノだ、広い意味で。みんなポルノが好きだ、オレだってさ。そして同時にうんざりだ。


 オレたちずっとそうだろ。だらだらと生まれてこの方、戦争と戦争の狭間の時代に退屈で死にそうだろ。いつまで待っても空から美少女は降ってこないし、白馬に乗った変態王子は迎えに来ない、皇帝みたいな奴に大義を授かったりもしない。ポルノで劣情を癒す毎日さ。


 それはあんたの意見だろと、呆れながらこの文章を読んでいるオマエの心の声が聞こえたぞ。気が利いたつもりの月並みな突っ込みを入れるキサマにはっきり言っておく。オレが喋ってるんだからオレの意見に決まってるだろ。以後二度と聞いた風な口を聞くな、このろくでなし!


 ひどい文章になっちまった。だいたいこんな感じになると思うよ、この先も。なんでこんなにうんざりして苛ついているのかはオレにもわからないんだから。もうずっとだ、いつかなんとかなるのかな、誰か教えてくれ。

 こうやって怒ったり汚い言葉を連ねていると、自分の魂が錆びついてくるのもよくわかっている。いい歳していつまでも他人や社会を責め続けている奴は回復も成長もしない。


 この先はどん詰まりだ。なんとかしたくて、小説を読み書きしている。


 今日はATMでもたついていたじいさんをヘッドロックして毎月使ってるんじゃねぇのか! って怒鳴りつけて締め落としてしまった。山手線でもキャンキャンうるさいガキをおもいっきりビンタして横にいた母親にジャンピング頭突きを喰らわせたら、乗客に取り押さえられそうになったから窓割って逃げたよ。それはうそだけどさ、でももしそういうニュースがあったらオレを思い出してほしい、遂にやったかと。処女作が誰にも読まれない悔しさに、凶行に及んだかと。オマエがオレの処女作を読まなかったのが原因だ。だからそうなったらもちろんオマエのせいだ。


 それにしてもこの小説は本当にひどい、読んでのとおりだ。書いているオレも不快になるぐらいだから読まなくていい。なんで読まない! なんてあとで怒ったりはしない、多分。


 どうも前作で吐き出し損ねたなにかが渦巻いてて、それが悪さしてるようなんだよな。だから、いまのオレは小説を書き続けるしかない。なんか他にいい方法があればそっちをやるけども。


 あと、これはエッセイの類じゃない、小説だからな。

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