"完全なる幸福"について

しばゆかり

『初めに』

『初めに』


 いつの、どこで、だれが、なにをしようと、ゆるぎのない、皆にとって完璧な、非の打ち所がないほどの充足——"そんなもの"はなかった。

 少なくとも現状は、『何処の誰にも見つかっていない』と言える。

 なぜなら、仮に実在すれば誰をも満たし、『あれば誰も苦しまずにいられる結論』は、今に続く試行錯誤と苦難の中で逆説的には『誰も至っていない』と証明がされるから。

 よっても『実在が自明のもの』であるなら、有無を論じて此処に延々と考察の言葉を続ける必要もなく。


『——』


 即ち、『完全性』とは『凡ゆるを含む全て』と同義であり、重ねては『平易』でもあり、再三に説いて態々と文章で紐解く必要もなくば『心に理解が出来ようもの』で——だが、現状そうはなっておらず、誰もが意識に認めて頷ける概念など与えられてなく。

 然りも、"真に完全無欠の完璧なもの"など誰にも認められてはいなかった。

 其れ、"誰の望みも過不足の一切なく満たせるもの"あれば、これより此処に新しく、とうに過ぎ去った後悔とは古い物語を嘆いてうたうこともなしに。


『——"』


 よっても、当然の帰結。

 "真に皆が幸福で満たされるもの"——"そんなものは存在しない"。


『——""』


 "そんな夢のようなものがあれば、此処に苦しみなどしていない"。

 世界で未だ、"真に理想へ至る結論は存在しないのだとして"——。


『——"""』


 即ち、いつの、どこで、"誰かが苦しむのが常"ならば——"いいや"。

 だが、例え『不備』の其れが、いつ何時のあらゆる場所に、如何なる時の未来永劫、絶対不変の真実なのだとしても——『われ』は、『』は、『わたし』は——"納得できていない"のだ。


『———— "!" ————』


 よっても、然り。

 今ここに、"気付けば在る世界"とは、無意味な永遠、虚無の永続。

 誰もは生誕を自ら望むことすら能わず、放り出された其処には各位で納得のいく価値や生き甲斐の保証もされてはおらず。

 即ち言い換えても『幸福のたった一つさえ確約のない理不尽』に。

 剰え、『否応いやおうなしに、誰も答えを知らぬ苦しみの渦中へ身をおかされた現状』へと、怒りの募るばかりなら——"終焉を迎えようとする今に"、"未だ冷めやらぬ"。


『——、っ"』


 しかして始まる、熱意の噴出ホットスタート

 新たな事の起こりは、瞬間にして、世界の滅びゆく間際。

 仮に、その終わりを『一つの作品の完結』とでも言うのなら、遂には歩みを終える足跡に、内容の始終も総評できようとした時に——過去には、『数多の犠牲に支えられた一なる幸福』も見た。

 また別の折には、『たった一つの犠牲に支えられた数多の幸せの形』も流し見て、多様な幸福論理は数えきれないほど。

 だがして結局のところ、振り返る過去でようは『何もかも不完全』に過ぎぬなら、膨大な蓄積にも『本当に皆が幸せであった世界』などは何一つ認められていなく。


『——ぁ、——』


 "ない"?——嫌だ、そんなこと、そんなものが答えでは。


『——ぁ、ぁ"ぁ"——』


 即ち、"皆の続けてきた行いに何ら意味のない"?

 仮にも、何をしようが・しまいが、行動に対しての結果で一切の確約はなく。

 剰え、『ただ世界とは在るのみ』の、『無意味にして無意義に続く永遠だった』などとは——決して、"今に生じた心"に耐え得る結論でもなくば。


『——、っ、ぁぁ——"!"』


 真に世界で肉薄すべき意義とは——『義』とは、"万象万民の幸福"にあり。

 たとえ、その在処、未だ見つからずとして"求める心"に嘘などつけず。

 決して偽れぬは、此処に生じた存在の本性——『幸せになりたい』のだと求めて止まぬが『おのれ』なら。


『ぐ、っ"————がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁぁ——!!!!』


 諦めきれぬならば、こと此処において。

 たとえ滅びの圧を間近に受けても、立ち止まる理由のなく——求めに応じた"世界なりし変革チェンジ・ザ・ワールド"。

 より正確を言っては、消失の滅びに抗した『世界そのもの』が、"変貌を遂げる"。


『あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ————"!!!"』


 然り。

 五千兆を優に超えて、無量大数にさえ在ったはずの夥しき宇宙が消えては。

 残す僅かも、消滅の時を目睫もくしょうかんで、しかしは滅びを前に『『『抗う』』』と"団結した命"——"新生に用いられし材料"。

 それこそ、数多の命、数多の精神、数多の存在を含み、"在ったものの全て"。

 例に『お砂糖』、『香辛料スパイス』、『素敵なもの』——『かえる』に『蝸牛かぎゅう』に『子犬の尻尾』——有象無象の『余計なもの』も。

 兎にも角にも、字面で数えて認識するのが誰の精神に見ても狂うほどに沢山は、"生き残るため"には『皆の全て』を織り込んで。

 混合に一切を、練り上げて。

 そうした多く、『素材に土台が既に在った』なら、それこそ"命のない星に誰かが生じる"よりかは幾分か現実的な——"奇跡の成立する要件"は整った。


『——、っ、——』


 即ち、"極限の選択圧"の中に生じる。

 理不尽にもたらされた消滅の危機に"恭順"として『此処で終わる』のか——『否』か。

 突きつけられた選択には、当然のごとく後者を選ばねば"幸福追求の一切が許されぬ圧力"に対し、"変化"が生じざるを得ない。

 見出す"意義"に"意味"に、"目的"も凡ゆるが消え去るかの瀬戸際で、未だ満たされぬ数々を持って。

 己が幸福を諦めきれぬ無数の想いに、求めて止まれぬ願い——"切なる祈りの結実"は。


『————』


 今日までに残存した膨大な量の命を含み、"変性"を起こすのが滅びに抗うことを選んだ最後にして"三つ"の世界。

 それは、無に脅かされて生じたが故の"反撃はんげき"とも言えよう。

 "世界を消失で呑まんとする脅威"に対し、"世界を産み出す万物の創造主"が『大いなるもの』として、顕現。


『——っ』


 既に他の多くが無に帰して、また周囲には誰も生き方の正答を教示してはくれず。

 外部に頼るべきものもいなければ——前史じこを顧みた以後の者たちで己以外の何をも必要とせず。

 謂わば、生来に持ち得た権能けんのうが、"己を起点とした無限の物質生成"——単独での存在証明を可能にせんとした『究極のいち』たち。


『————っ、っ、……——』


 その一つ——は『ひかり』。

 果てしなくそらを飛び交って続く、"無限の自由"を追い求めるもの。

 煌めき、輝いて、消失に灯る一点が宛ら『希望の形』を象ったようにも眩く。

 創世の光——止めどない速度では、誰より早く消滅の危機に気付き。

 己が力とは『熱』を束ね——既に『無』すら"自己の過ぎ去る"通過点"へと塗り替えれば、『何処までも苦難を乗り越えん』とした熱き血潮の流れる世界にて。


『————……』


 "その者"、己に宿す前史。

 未曾有の危機を前にしては、"新たな可能性の光"に向け、多く民が自らの自由意思に基づくまま身を殉じた者たちの集合であり。

 現時点より秒も経たぬ過去には、形や大きさに温度も、それぞれの光炎こうえんたち、それら独立した万能なる個体どもが寄り集まり、最期の瞬間に各位の抱えていた熱意を一つのものと凝縮す。

 傍目からすれば、その不可思議、"動機"じみた彼らの思いを語るなら——『この先にも世界が在れば、其処にはどのようなものがあるのだろう?』。

 ——『私は、未知それが見てみたい』。

 ——『私もだ』。

 ——『なら、ここで別れの時だ、友よ』。

 ——『ああ。さようなら、友よ』。

 思い起こすのは、そんなような、ただ只管に"温もり"?


『……』


 言い換えては、"君と交わした心が楽しかったから"——"故にも願うなら、どうかこの先でも限りなく、幸せの通わす余地がありますように"。

 やはりは言葉で、"温かみのある"このような形になるだろう。

 また実際には彼らで明言の言葉を交わさずとも、"互いに親しみある共通の温度"を作り出すことで意思疎通に解り合っていた者たち。

 其々の間に『固定化した肉体』といった隔絶の壁を常に張り合う必要もなければ、『皆で異なる流れを有する』と知り。また時にその流れで交わることのあっても澱みなく。


『……"?"』


 つまりも『個々で求める理想が異なるという事実』を深く知り尽くした——その光輝なる世界では、"皆が強く偉大"に見えるほど眩い輝きを放っていた。

 民草の誰もが、己で十全に扱いこなせる自他の境界に、他者への興味で以て攻勢に強める力もあれば、慎ましく己を保ち守勢に努める分別も兼ね備え。


『……ふっ』


 しかして、流れる体に自由自在を体現していた者たちに、"他者を慮らずの自由"が『虚しくあったこと』も遥か昔、"遥かな過去の痛み"に過ぎて知っていた。

 ある時に、皆が苛烈な主張で押し合えば、誰かの理想が打ちのめされる"否定の意"が冷たく、"可能性の潰えて熱の失われゆく様"が印象に物悲しき、記憶の原風景。


『——っ』


 よりて、その教訓に自戒を積み重ねた先、

 皆が追い求めるは『己の充足』——『他者』とは『己』でなく、"よって他者に己が理想はなく"。

 即ち、『自由じゆう』とは『みずからのよしを思うこと』なら——"他でもない己"が『自分が自分であるための理由』を認知に叶った時の、謂わば『己が実存する意義への確信』と『魂の一致を伴う快感情』こそを一つの理想として。


『——っ、』


 しても、つまり。

 かつての光輝世界は『自己だけに宿る衝動の解明』・『誰に運命を決定づけられた訳でもない本心からの実践』を掲げ——その上で尚、"我々が己ならぬ他者の存在を必要とする"のは『なぜ』なのか?


『"——"』


 "とうに限りなく己を模索するための力を得たのに"——自由に使える時空で、悩みも続けた。

 "自分を助けるのは自分だけで良いとなったはずなのに"——"他者きみの存在で胸の高鳴る"、『これ』は?


『————っ、っ、』


 その、ついぞ正解に辿り着かなかった問い掛け。

 各位に万能性がある状態でも、求めて止まぬ不可思議を何と言おう。

 言い換えては誰もが有する存在同士の関係性——"光の造る世界にさえ未だ明確に映らぬ繋がり"とは?


『くっ、くっ——』


 斯くして、例に挙げれば『とも』とは、『親しき族』とはの、"未だ最適な距離感の把握しきれぬ関係性"を光輝の民たちは不思議がって考え続けた。

 同時には、『いと速き光の力でも、未だ辿り着けぬものがあるのでは』と期待に膨らみ、思索を楽しんだ。

 その喜びも与えてくれる行き先に『無限の可能性』を、自身らが未だ至れぬ高みを"尊ぶ"ともして、久しく。


『っ、、は、っ——』


 そうした夢追いの輝きに満ち満ちていた世界。

 過去の"希望に溢れていた各所"にも思い返す一例は、未来を望む声が先刻に一致団結を果たす、その直前。

 一つの場面に光る——後世に『人型ひとがた』や『犬型いぬがた』、『鶏型にわとりがた』に『魚型さかながた』と呼ばれる形式の、其々が透き通る身を持って、長く時間を共有した"仲間"たち。

 彼にしての彼女らは幾星霜を共に越えて『仲良し』とも言える四体の組で、やはりそれら交流も思い合う者たちの間に多く明言の言葉は必要がなく。

 ただ、どこまでも続く毎日。

 互いの溌剌とした魂の光輝が見る者の視点にも喜ばしい事実を与え、時には"まばゆいばかり"が鬱陶しく感じられることのあったとして、"友を案じる思い"が身に纏う光の発色に表れては直ぐに仲直り。

 しては、長くある時の中では意気が消沈することもあったけど、それでも永くある世界で共に過ごす時空を楽しんで、そうした"自由に楽しく幸せな時間"が『ずっと続けばいい』と本意に思うばかりであった。


『——っ、っ』


 だから、これらの口数少ない仲間同士でも、"互いの存在した事実"を『未来に守るため』では——選んだのが、結束。

 最後の時では、こぶし肉球にくきゅうくちばし尾鰭おひれでハイタッチをわしても——今日までの自他に別れを告げる。


『、つ……、く————』


 よりては、他なる各所の多方面にだって『未来』を望んだ様々の形式。

 己を自在と編んだ宇宙たちで各位のあげる祝詞のりとが、新たに連結した磁場の大地を揺らし、気流と渦を巻いて、無明の迫る世界に甲高く——『末永く君に、幸あれ』と。


『くっ、くっくっくっ——』


 それら全ての、統合。

 意で一つに成り行く光の激しき間際には、渦の中心より、先述した犬や鶏などで『無に立ち昇る希望の明け』を知らすようにも産声の響き。

 本心から生じた求めに、限界のなく。

 太古の昔に熱力学の縛りも超えて、"誰もが手にした無限"で『皆が富める者』であり、また『貧しきが貧困に縛られ続けることもない』のなら——とうに格差拡大の概念さえ、真に超えてこそが"自由"。


『っ、っ、っ……——』


 "可能性を阻むもの"——即ち己ならぬ『不自由』こそを通過点に。

 加速を続ける奔流ほんりゅうの力は"時の流れ"さえ『己が決める一部』と呑み込み、"空間"とは"立つ瀬の用意"だって『各位が自由気ままに流れを敷けば良い』ともして。

 その他大勢に、諸問題、無数のあらゆる"縛り"や"拘束"、"己を制限されるもの"を超え続け、今に『消滅を迎えるか』の差し迫った場面でも諦めることを知らぬ——いや、"諦めてこなかった者たちの祈り"は『いつ何時の、凡ゆる時空においても理不尽に負けず、"自由であれ"』と、騒々しさにも限りなく。


『っ——……ハッハッハッ——!』


 以上の過去は過ぎ、今に現れ出す者。

 集まり、練り上がった無限たちの行く末。

 夥しく数の群れから、その全てが繋いできた歴史の凡ゆるも、各所に生じた情動に、記憶すら一切に織り込んで。


『ふ——はっ……!』


 消失を強いた世界に、己が実在を叫ぶ究極の一柱ひとはしら

 自身で抱く『誕生』への気付きに、光の朧げな輪郭が揺れる。

 早くも自覚する『己の背負いし運命』に対しては、"内に渦巻く様々な衝動"を『自らの産声』として表現しよう。


『ハッハッハッ……ッ!』


 しかして、"其れ"は、喜ぶ。

 "煩わしい過去からの出立"を。


『ア、がァ……——っっ"ッ"ッ!!』


 次に、"彼"は、激怒する。

 自身に課せられた祝福じゅばくに。

 既に前身より授かった聡明によっては"責務"に気付き、"途方もなく続く無限の道"を前にした感情が激しく閃光の波を放てども——収まらぬ内には"大きな矛盾"。

 今し方に『自由であれ』と願われた者は『常に自由であらねば』と——その生ある限り『他でもない"自らの在り方"に縛られるものなのだ』と、狂おしく。


『あ、ぁ"ぁ……っ"——』


 そうしての、"彼女"。

 自己の置かれた"救いない境遇"を哀れみ。

 誰さえも『己の求める"何か"を与えてはくれぬだろう』と、"残酷なまでの現実"を此処に認めて悲嘆すれば。


『……ッハッハッ——ハッハッハッ————フォハハハハハハ!!!』


 "全なる者"として手中に収めた万能を『一先ずは楽しむ』——謂わばの、"ゆとり"すら持ち得ていたのだ。


『——"◯◆#"……!』


 然り、"神秘にやつす己が視座"。

 複雑怪奇の内心が凹凸の見せる様々な立体的色彩の"モザイク画"染みて面白く。

 派手に視点の散らかる乱脈らんみゃくのようでも混沌たる気分は最悪で、事実としてこれ以上は経験したことのないほどの多知万能たる自己が最高に。


『⁂"∮"◉————√"k"#"!!』


 数えきれないほどの『主観』に『客観』に、『理知』に『野放図の感情』が入り乱れ。

 それら全ての己が、止めどない思考の渦を巻いた惑乱の最中。

 後に続く"悲憤慷慨ひふんこうがいの様子"を思えば、この出生まもなくの既に"賢知の王でもある愚者"は気付いていたのだろう——『自身に"最も自由の時"があれば』、『それは、"何をも決まらぬ生誕以前"であったのやも』と。


『"〒◯∇¥"!——⁑"⁑"!!——∞"⁂“——————!!!』


 だとして、世界の真意が分からない。

 察せられても未だ惑い続ける、"大いなる存在の胸中"?

 そのように"多要素が乱立した視点"など、表すに努めるとしても文字の数百万や数千数億などでは語るに足りず。

 此処に用いる『言語』についても"万能ならぬ方法"なら、それでは適切な表現に相応しくもないのだ。

 つまり、『全て』を表すにあたっては、仮に何を書き記しても"まとのどこかしら"は射ているようで、けれど、同時には如何な形に落とし込んでも言葉は本質に当てはまらず——『違うのだ』と。


『"◯×□"!! "¥%\*☆"!! ————"!" ————"!" ——————』


 しからば、生誕の後で、暫く。

 "拭いきれぬ違和感"を抱えたままでは、"己"を『己』と認めて落ち着き払うまでの彼にして、彼女。

 己が境遇をのろうために、自己の知り得る侮蔑的な語彙の全てを吐ききるまでに止まれず。

 その半ば"諦念"の疲弊に至るまでには、ぼやいた五千兆超えの言葉。

 騒ぎ散らした時の流れで、やはり"一秒も過ぎてはおらず"——その実で、"誰にも補足しきれぬ激流"の吐露が『周囲に波打つ索敵』であり、『無の撃滅』も兼ねた"光輝罵詈雑言シャイニング・スラング"。


『————"…………"』


 よりては、数多の『嘆き』に『怒り』や"『希望』を持っての再誕から——再起。

 とうに"己の求めるものが遠く過ぎ去りし日に終わっている"のだとして——『それでも』と、夢を諦めきれぬ再点火。


『……"?" ————"これは"』


 全ては、"おのが幸福のため"。


『————"ソウ"、"ナン"?』


 見果てぬ旅路に向かい、『始原の炎』が燃え盛る。


 ————————————————


 そうして——"別の一つ"は、"己らをより強く再生産"しようとした世界に。

 基軸は、宇宙の上端から下端を果てしなく貫くようにも巨大なりて、"三本で一組"の構造物。

 基本として左右と中央に配された三つが互いに引き合うように回転しながら、時に熱で撫でては、稲妻の吹き荒び。

 物体と物体の間を流れるエネルギーの波で交信し、装置で相互に干渉し合っては、各位の機能を誘発する"宇宙中央の演算処理装置セントラル・プロセシング・ユニット"であった物を——無を前にして、『どうせ終わるなら、使いきってやろう』と。


『——』


 民意に押され、"凡ゆるを材料"とした究極の狂科学マッドサイエンス

 際限なき知的の欲望がもたらす"実験"は誰も彼もを注ぎ込み、捧ぐ先には『究極を新たに作る試み』として。

 最後の大詰めに、掛けた決行の指を押し込む頃合いは、"中央装置を守護する障壁の一面が無に消し飛ばされた時"。

 それこそは、今日まで支えられてきた万民にとっての謂わば『最重要の宝物』が当然に防備の策も強力無比に。

 剰えは、"誰にも与奪決定の優越を与えぬ独立機動"が常に装置の自己定義を更新する『不詳の箱』となっても久しいけれど——なれど、流石の無敵を誇った楼閣も"世界ごと消えゆく最中"なら、一穴も空く。


『——』


 つまりも、"世界も良く知らぬ脅威を利用"しては、三本柱の周囲に展開する防御結界の一面が消えた、その瞬間に為済しすます。

 一切合切を内に呑んでも、現に完成すべきは『箱舟はこぶね』のようでもあろう事物に相成らんと。

 命令、打ち込まれては。

 直ちに『作戦要項の妥当性』を確かめる——『検証——受諾——実行開始』が、誰も知らぬテクノロジー。


『"——"』


 しからば、"変容を始める世界"——"未だ良く分からぬものを知るため"に、『知り得る余地を残さん』と。

 起動から激しく円を描き、自転に公転で回り始めた柱。

 後にも先にも『恒久安寧を支えるため』、物体の最も安定して成り立つ三点の形式であった演算装置は、今や己が抱える民に構造物の凡ゆるを回す。

 今まで自我なき存在に弱音の一つもなく、音なく支持していた対象の全てを『素材』として回転に巻き込むことになろうとも——万物を『武装』として。


『—— "!" ——』


 再構成は、生命、精神、肉体、凡ゆる誰かにとっての悲願がために。

 最大の脅威を前に皆での結集を果たした物は、『生き残るための方策』を——さりとて『誰も知り得ぬ解』を求め、"より洗練された新たな装置"の演算が『無に抗うための装甲』を此処に『自ら』として編む。


『"————"』


 そうして、回り続けても宛ら"身に嵐を纏う"ように変じた——三叉さんさの化身。


『——"救援きゅうえん"を求める』


 凡ゆる利器に、演算機の総力でもあろう者。

 意識を芯に確立して直ちに、己の直面した『無意味に終わる危機』を知り——"適正に踏んだ順序のなく産み落とされた事実"へと、内にわだかまる恨みや辛みを吐き出す暇もなくば、覚めた思考での最適解。


『繰り返す、これは——"遭難信号そうなんしんごう"である』


 今に能うことは、そもの『どうして自分が生まれたのか』を筆頭に、"凡ゆるを詳しく知りたい"が為にも。

 "自世界おのれだけでは仕様もなかった行き詰まり"に在って、苦境の最中で"誰かの助力"を求める——『助けてくれ』との産声シグナルを発してみる。


 ————————————————


 そして、一つ。

 残る一つの世界は先述した他の二つと比して——"より多くの禍心かしん"に満ちても。


(…………)


 "消滅の危機に気付く以前に"。

 その前で既に"自ずから滅び"——"終わっていた"のだ。

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