第22話 間章『明日ガ為』

「なるほどですねぇ、先の衝撃はそういうことでしたか...。しかし、皆様ご無事で我が国へ辿り着けたことを嬉しく思います!ようこそ、マーべラットへ!パチパチッ!」


「は、はぁ...」


 まるで『無事に辿り着くとは思わなかった』という様な言い回しにも聞こえないでも無いが、それは置いておく。


 今氷戈たちが居るのは、マーべラット国中央に位置する宮殿である。

 宮殿とはいっても国の面積に比例して小さく、装飾もそこまで豪華というほどでは無い。

 目の前には玉座、そこへ続く床には豪華な装飾のレッドカーペットが敷かれており、ここは言うところの『謁見の間』なのだろう。


 しかしマーべラット国王は、玉座に座るどころか氷戈たちの目の前まで来て激励の言葉を述べるとともに無邪気な拍手を披露している。

 これに介戦組織『茈』から派遣された10名弱の面々はポカンと口を開ける。


「あはは、このテンションは...違ったかな?」


 横一列に並んだ唖然とする顔を見て、国王は気まずそうに言う。

 そこへ唯一、唖然としなかった者が切り込む。


「その能天気さは相変わらずだな、アイネス。・・・ヒョウカこやつが居なければ余はあの世で貴殿を待つ羽目となっていたというのに」


 あの爆発の威力は凄まじく、それこそ数キロ離れたマーべラットにまでその衝撃が届いていたと言う。

 爆発の主成分は超高濃度に圧縮された源素であったらしく、氷戈は自身のカーマにより無傷。直前に『氷牢結誅ひょうろうけっちゅう』で仲間全員を氷に閉じ込めていたため、死者どころか負傷者すら出なかったのである。

 しかし『氷牢結誅ひょうろうけっちゅう』を仲間に使用したのは爆発を予知していたからではなく、あくまで催眠効果を打ち消すためである。全員助かったのは運が良すぎたと言わざる負えない。

 数分で仲間への催眠は解けたものの、これ以上マーべラットへの到着時刻を遅らせる訳にもいかなかった。一行は調査をする間もなく現地を後にし、今に至ると言う訳だ。


 だがアイネスはそこには触れず、別にある当然の疑問を投げかける。


「そうだよ!ここに来るまでの色々は聞いたけれど、君が付いてきてる理由は聞いてなかった。・・・明日にはここは戦場になる。分かっているのかい、ギルバート?」


「無論だ。余がここに来た目的は、明日繰り広げられるを見届けるためである」


「んー。つまり、観光に来たのかな?」


「ふはは!観光か...。ふむ、そうなのかもしれんな。・・・しかし場合によっては余も加勢しようぞ。マーべラットここが敵国の手に落ちるのはいただけんのでな」


「本当かい?それは心強いよ、ありがとう!・・・でも死なないでね?とっっっっっっっても面倒なことになるからさ、僕が」


「戯け。そこらの落とし前くらい自分でつけるわ。貴殿の知る余はそんなに無責任か?」


「うーん...無責任というか、無計画かな?」


「なっ!余が無計画だと!?此度の作戦への参画も綿密な計画のもとに...」


 カッとなったギルバートは反論を試みるも、彼の隣に居る側近のアゾルトに阻止される。


「なーに言ってるんですか。陛下の無茶振りのせいで二日も到着が遅れたんじゃないですか」


 この言葉に『茈』のメンバーは全員もれなく頷く。

 横一列に並んだ頷きに今度はギルバートがダメージを負う。


「ああ、それで遅れたんだね?まぁ事前にリグレッド君から『着くんは前日やろな』って言われてたから驚きはしなかったけどね」


彼奴あやつ、いつの間に...」


 完全にギルバートの威勢が削がれたところで、アイネスは部屋の出口まで歩き手招きをする。


「さぁ皆さんこちらへ。時間がないのは事実だけど、だからって立ち話っていうのも失礼だからね。・・・じっくり座って話そう、明日の作戦について」


 そう言われると一行は一列になって彼へ続いた。


 予想だにしない巨大爆発のせいで上の空になっていたが、氷戈はここで改めて実感した。

 明日には国対国の戦争が始まるということ。

 作戦の一角に自分が居ること。


 なにより『』ということ。

 この2年。それだけを考えて血の滲むような努力をしてきた。死ぬ思いで修行し、実際に任務に出て何度も死にかけた。


 過去のトラウマのせいで『死』に人一倍恐怖感があるのは自覚している。『死』がぎるたびに、思い出してしまうから。今でもそれは変わらない。


 けど。それでも、だ。

 やらなくちゃいけない。会わなくちゃいけない。取り戻さなくちゃいけない。


「俺の...宝物だから」


「ん?何か言ったか?」


 前に居たイサギが聞く。


「・・・明日、絶対勝ちましょうね」


 イサギはいつにもなく真剣な教え子の姿を見て目を丸くするも、珍しく笑って肩を叩いた。


「へっ、そういうのは当日に言うんだよバカたれが」


「痛っ!・・・先生フィジカルお化けなんですから勘弁してくださいよ...」


「鍛えが足らんようだな?帰ったらキッチリとシゴいてやるから覚悟しておけよ」


 こうして一行は、午後残りの全ての時間をマーべラット軍との作戦会議へと費やしたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る