1999年・栃木リンチ殺人~優しすぎたがゆえに惨殺された青年~
44年の童貞地獄
第1話 人一倍優しい青年
1980年5月6日、須藤正和は栃木県那須郡黒羽町で理容店を営む須藤光男・洋子の間に生まれた。
上に3歳上の姉がおり、祖父・祖母を合わせた6人家族の家庭である。
幼い頃は軽い小児ぜんそくやアトピーを患ったこともあったが、実直な両親や祖父母の愛情を注がれて正和は健全に育ってゆく。
生来の性格だったのだろうか、非常に温厚な性格であって虫一匹殺すこともしない優しい性格の持ち主、ケンカもしたことはないし、思春期においても親に反抗したことが一度もなかった。
また、生まれ育ったのがのんびりとした田舎であり、通っていた小中学校は一学年の生徒数が都会の一クラスにも満たないという牧歌的な学校生活だったこともあって、人を疑うことを知らない純真な少年でもあった。
同級生たちにもねじ曲がった根性の者がいなかったことも大きかったのもしれない。
正和と仲の良い友達は非常に多かった。
高校に進学してからは自動車に興味を持ち始め、進路を決める学年になると日産自動車への就職を希望する。
高卒枠とはいえ日産は安定の大企業であるために競争率は高かったが、正和は見事に内定を獲得。
高校時代にバトミントン部など三つの部をかけ持ちしたりして活動的だったことや、その一目見ればわかる誠実な人柄が評価されたのだろう。
入社後は一か月の研修期間を経た後、エンジン部品を組み立てる鋳造課に配属になる。
肉体的にきつく、敬遠される不人気部署だったが正和は自ら志願、欠勤は一度もなく、誰より真面目に務めて無駄遣いもしなかった。
おまけに彼は非常に孝行息子であり、家業の手伝いも欠かさなかったし、多くの者が親に金を出してもらって通う自動車学校も全額自分でアルバイトして貯めた金で通い、普通免許を取得している。
周りの評価も、真面目、素直、正直、純朴であり、困っている人間を放っておかない優しい性根だったと彼を知る者は口をそろえた。
美徳以外の何者でもない特性をいくつも備え、誰からも好かれ慕われていた正和。
職場の上司や同僚からもその働きぶりを評価されていた正和。
両親である須藤光男・洋子の輝かしい宝だった正和。
彼のような人間が送るそれからの人生はまばゆいばかりであったはずだ。
だが彼はもうこの世にはいない。
後に両親、特に母の洋子は「育て方を間違えた。この世の中を生きるには優しすぎた。もっとケンカっ早い人間に育てればよかった」と激しく悔やむことになる。
なぜなら、息子・正和は日産自動車へ就職したことと、その優しすぎるほどの性格ゆえに19年という短い人生を絶たれてしまったからだ。
彼とは対極の悪魔そのものの者たちによって、しかもこれ以上ないくらい残忍なやり方で…。
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