殺人ゲームアプリ

一宮 沙耶

第1話 女子高の先生

 突然、スマホのアプリに吸い込まれ、別世界に連れて行かれてしまった。真っ暗な空間を通じて。


 おもしろいアプリがあるという噂を聞いたの。嫌いなやつをゲームの中で殺せるというストレス発散ゲームだとか。


 私は女子高生だけど、ストレスばかりの毎日。だいたい、クラスメートは、私を見下すというか、マウントばかりとってくるし、心を許せる友達はいない。


 男性とは会う機会は少ないけど、電車とかに乗ると、男性って、いやらしい目で私の体を舐め回すように見てくる人が多くて、そんな時は本当に気持ちが悪い。


 だから、女性も男性も友人とか作ろうなんて気になれなくて、私は1人が好き。ボッチとかいう人がいるけど、どこが悪いのかしら。


 心に開いた穴を友達とかに埋めてもらわないと生きていけないという人の方が人間的にダメというか、生きる価値がないんじゃないかと思う。


 とはいっても、周りの人のせいで自宅に閉じこもるなんておかしいから、毎日、学校には行ってる。そうすると、人と会っちゃうからストレスを感じるの。


 この世から、人がいなくなればいいのに。いつも、そんな事を考えちゃう。人がいないと困るかしら。人がいるから困るんでしょう。


 この世が私だけだったら、着飾る必要もないし、適当に、周りにあるものを食べていれば生きていけるかも。


 そうそう、アプリの話しだったわね。調べたけど、このアプリは App Store とかでは出てこない。


 噂では、あるメールアドレスにメールを送ると、ダウンロードサイトが送られてくるということだった。


 私は、面白半分で、噂にあるそのメールアドレスにメールを送ると、たしかに返信があり、ダウンロードができた。無料アプリとなっている。


 そして、ログインの画面で、私の氏名とかを入力してユーザ登録をしたら開始。なんか、画面とかダークな感じでセンスがいい。本当に殺したりしないんだろうけど、嫌なやつを、このサイトで殺せそうな雰囲気が漂っているもの。


 さあ、誰を殺そうか。アプリの中で殺すとスカッとするのかしら。発想が面白いわよね。現実には、どんな嫌なやつでも殺せないし。


 殺し方は、どうなっているのかしら。まあ、やっていれば分かるわよね。


 私は、女子校に通っているんだけど、嫌いな男性の先生がいた。いつも、いやらしい目で私たちをみて、この前、私を見てるなと思ったら、その目線の先には、私のバストがあったの。本当に、気持ちが悪い。


 私の身体に、汚らしいものがまとわりつく感じっていうと、分かってもらえるかしら。


 この前も、私のバストからだんだん目線が下に下がってきて、この女はどんなパンツをはいているのか、腰に手をまわすと、この女は喜ぶんだろうななんて考えていると思ったら吐きそうになった。


 しかも、本人はどう思っているかわからないけど、男性としての魅力ゼロ。女子生徒と問題を起こしそうにないから女子高の先生をやっているのかと思うぐらい。


 まずは、試しにということであれば、この先生がいいわね。聖美女子高校の数学の先生である河上先生と投入したとたん、スマホの画面に黒い煙のような穴がでてきて、私は、どういうわけか、そこに吸い込まれてしまった。


 その時は、今どきのアプリはすごいなという程度で、あまり、違和感がなく、真っ暗な夜道で、街灯の下に私は立っていたことに、それ程驚いてはいなかった。違和感まんさいなのに。


 そして、ダウンのポケットに手をいれると、そこにはナイフが入っていた。これがアプリが用意した武器ということよね。


 そこは、どこか知らない道で、東京にある住宅地。駅から伸びる商店街のような道で、一軒家のお店は道沿いにずっとあるけど、どれもシャッターが閉まっている。さっき夜の11時だったからしら。


 道はそれ程広くないけど、車がなんとかすれ違うことができるぐらいの幅で、道路沿いに木々とかはない。


 それでも、いくつかのお店の前には鉢植えの花とかはあって、そろそろ梅の盆栽とかのお花が咲きそう。


 アスファルトの道の両脇に歩道があり、いずれも2階建ての建物しかみえない。道沿いにある電灯が道を照らしてるから、そんなに暗くはないわね。


 この時間なら、誰か道を歩いていてもおかしくないけど、誰もいない。すぐそばにコンビニもあるけど、人気は感じられない。店員もいないのかしら。


 でも、人がいないだけで、見える光景はすごくリアル。VRのメガネとかつけていないのに、どうなっているのかしら。最新の技術って、すごいわね。


 そんなことに感心していると、さっきアプリに登録した河上先生が酔っ払って歩いてきた。


「おい、工藤か? こんな時間、夜道を歩いていたら危ないだろう。僕が家まで着いていってあげよう。」

「自分で帰れるのでいいです。」

「遠慮するな。」


 先生の姿も本当にリアル。どこから見ても、学校で見る姿と変わらない。しかも、吐く息からお酒の臭いにおいまでする。


 先生は、いやらしい目で私を頭から足まで、ニヤつきながら見てきた。本当に気持ちが悪い。私は、無意識に、先生を両手で押していた。


「何をするんだ。お前のことを思って言ってるんだぞ。」


 そう言って、先生は、ふらつきながら私の肩に手を置いた。酔っ払って私の体に触れる先生が、本当に気持ちが悪くて、思わず、ポケットからナイフを取り出し、先生のお腹を下から刺していた。


 ナイフを上向けにお腹を刺し、上に上げる。そして、そのまま、ぐるっとナイフを回し、右に切り裂いた。


 先生は、何が起きたのかわからず、激痛のあまり、お腹を抑えて仰向けに道路に倒れた。助けてと私に手を伸ばしてくる。


 どうしよう。先生は犯人が私だと分かっているから、生き延びれば、私に刺されたと言うに違いない。


 アプリでも、ここまでリアルだと、現実じゃないって言い切れないかも。だから、殺すしかないわね。


 私は、もう一振り、心臓をめがけてナイフで刺した。痙攣してもう死にそうな先生をみて、怖くなった私は、ナイフを投げ捨て、ひたすら走って逃げた。


 もう、ここまですれば生きていないはず。私が犯人だと証言はできない。


 でも、これは快感。あんなに嫌いだった先生を、この世から追放することができたのだから。


 私は、走りながら、本当なら血しぶきを浴びてておかしくないのに、全くそんなことがないのは、アプリの幻想なんだろうななんて考えていた。


 それからの記憶がない。目が覚めたら、自分の部屋でベットで寝ていた。そういえば、アプリで殺人ゲームをしていたんだ。あれは、アプリの中の出来事。本当に人を殺したわけじゃない。


 でも、本当にリアルだった。こんな経験って、あるんだとびっくりしていたけど、とても快感で、日々のストレスは発散し、気持ちよく、そのまま眠りについたの。


 翌朝、学校にいくと、学校は大騒ぎになっていた。河上先生がナイフで刺されて殺されたんだって。


 もともと女子生徒から嫌われていたから、誰かから恨まれたんじゃないのなんて噂になっていて、先生をかばう人なんて誰もいなかった。


 そして凶器のナイフには河上先生の指紋しかなく、近辺の監視カメラにも不審者がいなかったから、まるで自分を刺したみたいだって。


 あれって、現実だったの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る