大学院の先輩
@ku-ro-usagi
読み切り
大学院の先輩にイケメンが1人いるんだ。
ちょっとバタ臭い(これ死語?)濃い目のイケメンで、普段はあまりしゃべらないところもミステリアスで素敵だと女子人気は高かった。
ここ数年はずっとマスク生活で、今は絶賛花粉が大暴れしててやっぱりマスク。
女子たちは、
「マスクしててもかっこい~!」
って騒いでた。
でも、ついこの間。
ペットボトルのお茶飲むために、マスクとった先輩の鼻からミニサイズのタンポンが2つぶらさがっていたんだ。
とりあえず、重度の花粉症仲間ではあるし、
「タンポンどうです?使えます?」
って聞いたら、
「水分吸いすぎて膨らんで取れなくなって大変だからオススメはしない」
って真顔でアドバイスされた。
次の日、
「花ちゃん聞いて(私の名字はハナサキ)。
タンポンは使えなくて、仕方ないから鼻にティッシュ突っ込んでさ、タバコ吸ったら引火した、鼻凄い熱かった。ティッシュは凄い燃えやすいから気をつけてね」
ってまたいらんアドバイス貰った。
「煙草は吸わないから大丈夫です」
「葉っぱの人?」
「葉っぱも粉も吸いません」
「打」
「打ちもしません」
何だこの人。
更に数日後。
土日挟み4日間休んだ先輩。
「花粉の薬を飲んだつもりが、オヤジのね、
『飲む毛生え薬』
飲んでてさ、いや見た目が似てたんだよ。
それで今日はやたらくしゃみ出るなーなんて思ってて、トイレで立とうとした拍子にくしゃみ出ちゃって、そしたらそのままぎっくり腰になっちゃってね。
物心付いてからは初オムツだよ、ははっ参ったね」
いや、普段は意思疎通が出来る成人した息子のオムツ替えをさせられる先輩のお母様の方が参ってるだろうし気の毒だよ。
え、父親にもやらせた?
まぁインチキ薬なんか飲んでる父親は仕方ない。
そんなね、私の無言と視線に何を思ったのか何か楽しそうなこと(どうせろくでもないこと)を思いついた顔をした先輩は、
「花ちゃんはさ、鼻くそは飛ばす派?擦り付ける派?」
と聞いてきた。
予想より遥かにどうでもいいことだったし、無視しようか迷ったけど、あまりに先輩がニコニコしているため、私は小学生時代の弟を思いだして、
「食べる派ですね」
と答えると、先輩は、
「そっかぁ、食べる派かぁ!」
ってぱぁっと笑顔になってすごく嬉しそうに頷いていた。
先輩はすごく頭はいいはずなんだけど、同時に凄くすごくバカでもある。
お母様を始め友人にも教授にも、
「お前はとにかくしゃべるな」
と言われているらしい。
バイトはモデル。
ある意味自分をよく解ってるよね、顔しかないもんね。
先輩は私が鼻くその話に乗ってくれたのが嬉しかったらしく、それからも、こちらの知能指数をダダ下げするようなことを日々嬉々として教えてくれた。
もうね、毎日5歳男児と話している感覚。
ある日、先輩が珍しく深刻な顔をして、
「花ちゃん」
と話しかけてきたため私はわざと尻をかくふりをしながら、
「なんです、愛の告白ですか?」
と聞くと、尻を掻いている私を見て目を輝かせてきたけど、
「そんな下らない話じゃなくてね」
(こいつ、愛の告白を下らないと言いきりよった)
先輩は、
「鼻くそを食べると、鼻くその風邪菌が体内に入って風邪をひくそうなんだよ」
碇ゲン○ウみたいなポーズで教えてくれた。
私は多分いつもみたいに、水木しげる先生の描いたぬりかべみたいな顔になってたと思う。
けど、
「3日前に鼻くそ食べは卒業してますから大丈夫です」
と答えた私に先輩は邪気のない笑顔で、
「そっかぁ!それはよかった!」
と本気で胸を撫で下ろしていた。
それでさ、うん、まだ続くんだよごめんね。
そんなイケメン先輩にも暑い寒いの概念はあったらしく、今年の冬もちゃんとセーターを着ていたし、今年の3月はまだ寒いから余裕でセーター着てたの。
でも、その先輩が着ているお気に入りのセーターは毛玉だらけ。
周りは誰も気にしてなかったし、勿論私も露程気にしてなかったけど、
「客が来た時にちょっと気まずいんだ、なんとかしてやって」
と教授直々に頼まれたため、仕方なしに毛玉とり器を鞄に忍ばせて大学に向かった。
しかし、先輩は
「ダメだよ!毛玉たちを育ててるんだからっ」
はい出ました面倒臭い。
「毛玉のみんなに名前だって付けてるんだから」
聞いてません。
私はおもむろにため息をついて、
「先輩は全然わかってない、それじゃいつまでも雑魚のままですよ」
と煽っておとなしくさせてから、毛玉取り器から取り出した毛玉の塊を丸めたやつを取り出して、
「はい合体」
したものを見せてやると、まんまと先輩の目が輝いた。
はいチョロ過ぎ5歳児。
その後おとなしくセーターの毛玉をとられた先輩は、大きくなった毛玉をそれは可愛がっていたけれど。
なんせゴミはゴミ。
毛玉は所詮はゴミなのよ。
机に置いておいた毛玉は、先輩が席を外した時に、掃除のおばちゃんのご好意で捨てられており、席に戻ってきた先輩は、
「静江ぇぇぇ…どこだぁぁぁ…静江ぇぇぇ!?」
とその場で膝を付いて泣き崩れていた。
休日の夕方にね。
なんでこんなアホな先輩のことを部屋で唐突に思い出したかというと、最近、地震が頻発してるせいで、どっかのテレビ局がうちの教授の話を聞きに取材に来てたんだ。
それで、ちょっと耄碌入った教授がうんたらかんたらと話してることってさ、実は全部ね、あのアホ先輩の推測に基づいたものなんだよ。
テレビだと半分以上端折られてたけどね。
「そういやあんなんでも優秀なんだよな」
って思い出したんだ。
「馬鹿と天才は紙一重」
を地で行く人だなと。
その紙一重な先輩は、結局表情が全く作れなくてモデルのバイトも早々とクビになってて、やっぱり残念な先輩だった。
大学院の先輩 @ku-ro-usagi
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