日雷(ひがみなり)
ある村にそれは美しい娘がおりました。
娘の家はその土地の豪農で広く田畑を持ち小作人を抱えておりましたが人を安く使ってできた米や作物を高く売り暴利をむさぼっていたので尊敬はされておりませんでした。
甘やかされて育てられた娘は世間を知らず我儘な性格でしたが見目が麗しいのであちこちから縁談が持ち込まれておりました。
町に買い物に出かけると見目の良さがゆえに面倒ごとに巻き込まれることも多く出かける日は傘で顔が隠れる雨の日と決めていました。
そんなある雨の日のことでした。
町からの帰りの道中に雷が鳴ったのでこれは危ないと娘は茶屋にはいり少し様子をみることにしました。
しばらくお茶を飲みながら休んでいると傘を差した一人の青年らしき背の高い人物が茶屋に入ってきました。
青年は逞しい体つきなのに顔は柔和でそれは美丈夫でした。娘は一目見て頬を染めました。
青年も同じく娘を見て美しさに目を見張りお互い一瞬で恋に落ちました。次の雨の日に逢う約束をし、また次の雨の日と何度も逢瀬を重ねます。
娘は青年に夢中になりました。ですが青年には秘密がありました。
青年の姿は雷様が歌舞伎役者に似せて変化した仮の姿だったのです。このまま騙していることも出来ないと雷様は正直に娘に打ち明けました。
娘は驚いたものの、それでも青年のことが好きなので心変わりなどするわけがないとすがります。
ただいつも雨の日にしか会えないので晴れた日にも会いたいと願いました。雷様は
娘は断る理由もないので二つ返事でそれを受けましたので雷様は喜んで娘に簪を買ってやりました。
娘は夫婦の約束もし高価な
そしてハレの日には婚礼衣装を着るのだから晴れた日にしたい、雨の日に結婚式はしたくないと青年にいいました。
雷様は新婦になる娘の気持ちを考えて晴れる日に結婚式をしましょうというとその後はとんとん拍子に話が進みました。
そして婚礼の日に雷様が現れましたがそれは今までの美丈夫ではなく大きく出っ張った腹を突き出し虎のパンツ一枚を履いている本来の雷様の姿でした。
娘は驚いて嫌だいやだと逃げてしまいます。
雷様は娘の手のひらを返したようなふるまいに憤りましたが騙していた自分が悪いのだと逃げた娘を責める事なく帰りました。
それでも諦めきれない雷様は時々雲の隙間から下界を覗いては溜息をついていました。
するとどうでしょう、別れてから間もない娘がどこかの若旦那と一緒に歩いているではありませんか。髪には雷様があげた簪をしてとても楽しそうに手をつないでおります。
なんと節操のない娘なんだと雷様はたいそう嘆き悲しみました。
そして雷様はもうこんなところには居たくないと晴れ上がった空に悲鳴のような雷鳴を轟かせ遥か遠くに去っていきました。
その後村では日照りが続き作物がまったく育たなかったそうです。
それ以来、晴れた日に雷がなると干ばつの予兆だと言われるようになりました。
おわり
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