プリエールの章:高嶺の花は変わり者・5
結局、協会ではアルバトロスの行方を知ることはできなかった。
わかっているのはあれ以来彼の姿を見たものはいないこと。いつの間にか開いていた隠し部屋には台座があったのみで、他には何もなかったこと。
彼女がそこで起きたことを話しても、千年前の人間が生きている訳がない、突拍子がなさすぎて有り得ないと一笑に付され、誰も信じてはくれず……
(まったく、学者のくせに頭カタすぎよ! そんなんだから停滞したままなんじゃない!)
プリエールは協会に長い休暇願いを叩きつけ、マギカルーンを出ることにした。
自分たちの好奇心がこの事態を引き起こしたのだから、自分が動くしかない。けれども、今の彼女はあまりにも無力で。
「千年前に混乱を巻き起こした“禁呪の魔法士”……とんでもない力だった。とりあえず、あたしひとりじゃ太刀打ちできないのは確かね」
それならば、まずは協力者を得ることが必要なのではないか。
「魔法士協会がダメなら……やっぱり女神様のお膝元、ルクシアルかしら」
輝ける都ルクシアル。女神の神殿がある都で、世界中から参拝客が絶えない信仰の中心地だ。
普段のプリエールなら神頼みなんて柄ではないのだが、千年前の脅威を退けたのは、他でもない女神という話。その脅威の中には、禁呪の魔法士も含まれている。
「封印するにしろ倒すにしろ、情報が必要だわ。それに、協力者も」
協会の学者たちには相手にされなかったが、禁呪の魔法士を封印した女神を信仰する神官たちならば、話を聞いてくれるかもしれない。
そしていくら腕輪の力があるとはいえ、今の彼女ひとりでは禁呪の魔法士には勝てないだろう。彼女には力が、仲間が必要だ。
「待ってなさい、アルバ……あんな奴に乗っ取られたまま終わらせないわ」
禁呪の魔法士はアルバトロスの体で活動するつもりだろう。そうなれば、人々の目にアルバトロスは極悪人として映ることになる。
(ちょっと人相悪くてぶっきらぼうで他人に誤解されがちだけど、ホントはいい人なんだから……なんて言ったら、すごい顔されたっけ)
脳裏には、つい先日まで日常だった酒場での語らい。こんな時間がいつまでも続くと思っていた、それなのに……
「一緒に帰るわよ、マギカルーンへ!」
街の外へ力強い一歩を踏み出すと、プリエールはずんずん進んでいく。
蒲公英色の瞳には、はっきりとした意思の光が宿っていた。
――魔法都市マギカルーンで暮らす魔法士、プリエール・フルール。
優秀な学者でもあり好奇心旺盛な彼女は、友人・アルバトロスの誘いで訪れた遺跡の奥で“禁呪の魔法士”の復活を目撃してしまう。
協会に相手にされなかった以上、自分が動くまでだ。
こうと決めた時の彼女の行動力は、昔から凄まじいものだった。
友人を助けるため……彼女の旅が、物語が、いまその幕を開ける――。
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