2:騒乱と出会いと・1

 輝ける都ルクシアルに向かう人々が最初に訪れる中央大陸の玄関口、港町リプルスーズ。

 穏やかな気候と海、世界中から集まる人と物の流れ。そんな賑やかな町も、夜中ともなればひっそり静まっていた。

 だが、異変が起きたのはそんな夜のこと。


「う、うわぁぁぁぁ!」


 静寂を切り裂く悲鳴が夜空に響き渡る。

 たとえば酒場で酔っ払いが喧嘩しているとか、そういった話なら周りもすぐにまた眠りについただろう。

 悲鳴の主は遅くまで飲んでいた酔っ払いだが、町の人々を覚醒させたのは続いて聴こえてきた声。


「ま、ま、魔物が町にっ……!」


 ずり、ずり、と不気味な音が複数。何かが、這ってきている。

 一気に人々を恐怖と混乱に陥れた騒ぎは、旅人たちが休んでいる宿屋にも届いた。


『エルミナっ!』

「ミュー!?」


 慌てて窓から飛び込んできた子竜に、起き抜けのエルミナが驚きの声をあげる。

 こんな時間に起きていたのかとか、どうして外から……などと相棒に尋ねたいことは一旦脇に置いて、エルミナは槍を手にした。


『海から魔物が町にっ……結界があるのにどうしてよっ!?』


 ミューの疑問はもっともで、各城や町村の中心には女神像があり、そこから魔物の侵入を防ぐ結界が生み出されている。

 今思えば、当然ドラゴニカの城にもあったはずのものだ。


「とにかく行きましょう!」


 こうしている間にも町や人に被害が出るかもしれない。ふたりはすぐに外へと飛び出した。


「うっ……」


 待ち受けていた光景に、思わず言葉を詰まらせる。

 不幸中の幸いは、夜中で通行人がほとんどいなかったこと。避難を終え無人となった町を我が物顔で魔物が闊歩していて、まるで人と魔物が逆転したかのようだった。


(あの時のドラゴニカ城みたい……)


 あの魔族はこうやって人々の居場所を奪っていくつもりなのだろうか。エルミナの表情が曇ると、その頬をミューの尾がぺちりと叩いた。


「っ!」

『エルミナ、しっかりして! 今は目の前の魔物退治でしょ!』

「……ごめんなさい。集中しなきゃ!」


 海から来たのだろう魔物はどれも水棲型。丸い魚に短い手足が生えた姿のものや、クラゲが巨大化したようなものなど。それらは人間とほぼ変わらない大きさだが、奥にいるひときわ巨大なイカ型の魔物が指令を送っており、どうやらボスらしかった。


「また一人来てくれたみたいよ!」


 道具屋付近から聴こえてきた女性の声と、直後に放たれた閃光。振り向くと、アクセサリーの露店の前で会った桃花色の髪の魔法学者が本を片手に魔物を一体吹っ飛ばしている。


「いらん。足手まといなら帰れ」

「危ないから自分に任せろってコトでしょ? ニイちゃんスナオじゃないねー」

「馴れ馴れしい」


 道具屋で会った黒尽くめのハーフエルフの青年と、街角で大道芸をしていた少女がそれぞれ長剣と短剣を手に、成り行きだろうか背中合わせで戦っていて、


「おっ、助太刀かい?」


 奥で武器も持たず拳ひとつで魔物を叩きのめしていたのは、リプルスーズ到着時船からおりたエルミナに最初に声をかけた青年だった。

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