第2話「労働はだめ」
ある日、もうだめな国に迷い込んだ私・アリスは、国をだめじゃなくする大臣に任命されたのであった。
国をだめじゃなくするためには、まず何がだめなのかを整理しないといけない。
何だっけ。イシューを洗い出す? 最近はイシューって言わないの?
私が小さい頃はテレビでコメンテーターの人が使ってた気がするけど、最近あんまり聞かないね。
まぁ昔から、わざわざカタカナで言う必要は、まったくなかったもんね。イシューって言うとなんか臭そうだし。
イシューの話はいいんだよ。
国をだめじゃなくする第一歩として、私はこの国を治める獣の女王様に、この国のだめな所を訊いてみた。
女王様は、かくのごとく即答あそばされた。
「例えば、我が国の失業率は驚きの97パーセント」
だいぶだめそうだった。
「逆にもう働いてる人がめっちゃ偉いですね……」
「ほんとそれです」
私の所感に対し、女王様は鷹揚に頷いてお答えあそばされた。
失業率97パーセントということは、単純な引き算の結果として、就業率3パーセントだ。
周囲がそんな状況でよく働けるな、と思う。
「一度、その人達に意見を募ってみては?」
私は補佐役として同行しているウサギ(耳が3本と足が7本あり、語尾に「ウサ」とつける生き物)に提案する。
「今やってるウサ」
ウサギは透徹した目でそう答えた。
曰く。
国民の総数が100名。
働き者A。
国家元首、獣の女王。目の前にいる女王様だ。
働き者B。
国をだめじゃなくする大臣、寄居町 アリス。私だ。
働き者C。
総務庶務、ウサギ。彼自身だ。
うーん。確かに100名中の3パーセント。
私はいつの間にか、この国の国民になっていたらしい。
今までは99名中の2人だったから、2パーセントと少しだったのかな。
私の就任により就業率が1.5倍に爆増したと考えれば、これは歴史に残る快挙かもしれない。
もうだめだなぁ、この国。
「とはいえ、国民皆兵だから戦時下では失業率もゼロになるウサ」
「なるほどなぁ……」
お給料はどうするんだろ。
100名規模なら略奪で食べていけるかもしれないけど、それって国というより野盗の類だよね。
昔の軍事国家はどうしてたんだっけ。奴隷労働とか、占領した植民地から搾取してたのかな。それでも最低限、管理する人は必要だったと思うけど。
何にせよ、私は生まれも育ちも平和主義国家なので、もう少し平和的な解決方法の方が好ましい。
仕事がなければ作ればいい。それは間違っていないというか、それ以外の手はあまりない。
現状ではワークシェアリングも焼け石に水だし、就業率を上げるために国民の数を減らすわけにもいかないからね。
なので、雇用拡大のために私達はまず、公共事業を興すことにした。
∩∩∩
それから急ピッチで、国家主導による大規模な新規事業の立ち上げと、大々的な求人が行われた。
「「「「就職決定おめでと~☆」」」」
お茶会ガチ勢の4人組、ハリネズミと、猫と、鳥と……ロバ? サンショウウオ?
とにかくその4人組も、早速お祝いのお茶会を開催しているようだ。
彼らの頭上には【祝☆全員就職決定】と白抜きで書かれた横断幕が掲げられている。
「遠洋漁業でクロマグロ☆ 社会貢献で掻く汗は気持ちええやよ~☆」
「お仕事が楽しみやよ~☆」
ハリネズミと猫がにこやかに語らっていた。
まだ何も結果は出ていないけれど、まずは1歩、進めたことが誇らしい。
初期位置がゼロ以下だっただけでも、前に進むことが重要なんだ。
第一、主食の本マグロ(標準和名:クロマグロ)を輸入に頼っている状況はあまり良くないよね。
というより、何でそんな状況で本マグロを主食にしてたんだろうね。
え、本当に何で?
いや、それはそれとして、もっと根本的なところで疑問があったんだ。
「ここまで誰も何も言わなかったから、何となく聞けなかったんだけど」
私は隣のウサギに尋ねた。
「この国って海とかあるの?」
今のところ、私は女王様の
そういえば、事業計画にも流通関係の話が入っていなかった気がする。
大臣初心者の私はもちろん、今まで戦争以外の大規模な公共事業経験がないという女王様やウサギだって、ミスはあるかもしれない。
不安を抱く私に対し、ウサギは透徹した目でこう答えた。
「無いから隣国に貰いに行くウサ」
やれやれ、けっきょく侵略戦争じゃないか。
かくして私はやれやれ系主人公となり、事業計画は白紙撤回となった。
この国は引き続き、だめなままだ。
【第2話 おわり】
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